13dp-2


 
amanatu.com




岩貞 祐太(横浜商科大4年)投手 182/75 左/左  
 




                「右打者への投球に成長の跡が」





今年の観戦はじめから 阪神に1位指名された 岩貞 祐太 の試合だった。そこから岩貞を観ること、6,7回 。彼を観るたびに、同じように失点する学習能力の無さに苦言を呈してきた。

 しかしこの秋の成績は、8試合を投げて 6勝1敗 防御率 0.42(1位) 。下級生の頃からリーグを代表する存在として注目されてきながら、リーグ戦でそれほど圧倒的な数字を残して来られなかった彼が、始めて文句なしの成績を残したシーズンだった。それだけにどんな変化があったのか、確認するのが楽しみだった。相手は、春の日本一・上武大学。舞台は、神宮大会出場をかけた 横浜市長杯 という最高の舞台で。

(投球内容)

 立ち上がりに、1、2番打者に上手く打たれてランナーを背負うと、工夫もなくあっさり2失点してしまう。これを見て、岩貞は何も変わっていなかったのではないかとガックリさせられた。しかし以後は、ランナーを背負うも試合巧者の上武大の攻めを粘り強くかわし、初回の2失点だけで完投して魅せた。そのままガタガタとやれることが多かった彼にとって、大学球界屈指の相手に粘り強く自分の投球を徹し続けたことは、確かな成長の跡が感じられる登板だった。

ストレート 常時140キロ台~MAX146キロ

 ボールのキレ・勢いは、今年の左腕投手の中では1、2を争う存在でしょう。特にオープン戦のリリーフで見たときは、常時145キロ前後の球を連発して、やっぱり凄い球投げるわと関心したものです。それでも細かいコントロールはなく、ストライクゾーンの右と左に、アバウトに投げ分けられる程度。今シーズンも64イニングを投げて、四死球は25個。四死球率は39.1%に及び、基準であるイニングの1/3以下を上回るなど、相変わらずのアバウトさを感じます。

変化球 縦・横二種類のスライダー・スクリュー

 今年に入り横のスライダーだけでなく、縦のスライダーが目立つようになり、単調に速球と横のスライダーだけというコンビネーションに、縦の変化が加わることで幅ができました。この二種類のスライダーで空振りを誘うことが、この投手の最大の特徴。その反面、打たれるのはストレートよりも甘く入ったスライダーが多いことも忘れてはいけません。

 もう一つ右打者の外に逃げて行くスクリュー系のボールもあるのですが、この球の精度は高くありません。あまりキレがないのか、打者も中々手を出してくれません。この球がもう少し活かせるようになると、両サイドの幅も出てくるのですが・・・。

その他

 元々左投手ですが、あんまり牽制をしたがらない投手でした。しかしこの秋は、かなり厳しい牽制を混ぜられるようになるなど成長が伺われます。クィックも春先は1.1秒前後だったのが、今や0.9秒前後と高速になり、中々走者が次の塁を狙い難くなったと言えます。そういった投球以外の部分も高めてこられたことは、高く評価できるポイントではないのでしょうか。

(投球のまとめ)

 この秋の成長は、攻めのバリエーションが増したこと。これにより荒れ球も手伝って、打者としては的が絞り難くなりました。

 もう一つは、右打者の内角への攻めをしても、攻めきれずストレートが真ん中近辺に甘く入ったり、外角高めの球を痛打されるケースが非常に多かった選手。しかし低めに切れ込むスライダーを意識させることで、高めのストレートを狙い打たれることが減りました。更に内角を攻めきれなかったのを、スライダー内角に食い込ませることで、右打者にも厳しい投球を実現。

 元々左打者の胸元に結構厳しい攻めができ、外角のスライダーを振らせるという投球パターンを確立できていました。左打者に対しては、それほどイヤラシイ球筋ではありません。しかし右打者よりも球筋が安定しているので、強さを発揮する傾向がありました。

 それでも球筋がアバウトなので、甘く入ったスライダーを痛打される場面が目立ちます。ましてランナーを背負うと浮足だつ弱さがあるので、そういった部分を精神的にいかに乗り越えて行けるのかが、今後の課題ではないのでしょうか。

(成績から考えてる)

 あえてこの秋に素晴らしい成績を残したので、その数字を元に今後の可能性を検証してみたいと思います。

1,被安打はイニングの70%以下 ◎

 なんとこの秋は、64イニングを投げて被安打は32本。被安打率は、50%と極めて少ない数字になりました。地方リーグの選手なので、あえてハードルを70%以下と厳しめに設定しても、文句なしその条件を満たします。ボールの威力・攻めのバリエーションが、リーグの中で図抜けていたことが伺えます。

2,四死球は、イニングの1/3以下 △

 文中に同様のことを触れましたが、64イニングで四死球は25個。四死球率は39.1%と、基準である33.3%以上であり、あまり細かいコントロールがないのは数字の上からもわかります。上武大戦でも5四死球を出すなど、その辺はプロの打者に見極められないか心配な部分ではあります。

3,奪三振は、1イニングあたり0.8個以上 ◎

 64イニングを投げて、奪三振は78個。1イニングあたり、1.22個と先発投手としては破格の奪三振率を誇ります。今シーズンは、ストレートだけでなく変化球も冴えて三振を奪いまくりました。上武大戦でも、13奪三振を奪いながら敗れています。

4、防御率は1点台以内 ◎

 防御率は、1点台どころか 0.42 で0点台前半を実現。自身初の、リーグ戦1位の好成績を残しました。内容の良化は、数字の上からも明らかに証明されたシーズンだと言えるでしょう。

(成績からわかること)

 実際の投球を見ても同様に思いましたが、アバウトな投球はそれほど改善されていません。しかし投球の幅を広げ、攻めのバリエーションを増やすことに成功。更に右打者に対し攻めの投球を覚え、投球内容を大きく改善できたことが、数字の上からも証明されました。

(最後に)

 ストレートの勢いやコントロールが大幅に変わったわけではありませんが、投球内容を大幅に改善し、一辺倒だった投球を払拭できたシーズンでした。

 高低の変化に磨きがかり、攻めの投球ができるようになった今ならば、先発でもある程度馴れられるまでは誤魔化しがききそうな気は致します。しかし本当のコントロールがないので、相手に研究され見極められて来ると、先発ではやはり厳しいのではという気も致します。すんなり入ってゆけるのは、ボールの威力で押せるリリーフだと考えます。最初の1、2年目はリリーフで実績を残し、プロで自信を持って投げられるようになってから、先発に転向した方が好いのではないのでしょうか。

 ボール一つ一つの威力はプロでも一軍級であり、リリーフならば1年目から欠かせない存在になり得るかもしれません。上手くチームの中で働き場所を得られれば、ハマる可能性は充分あると考えます。

 今まで散々苦言を呈して来ましたが、春~秋にかけて劇的に内容を改善できており、その点ではドラフト1位に相応しい力を身につけつつあるのではないのでしょうか。今回はそこを高く評価して、非常に稀なことなのですが、評価を春より大幅にアップさせて頂きたいと思います。一年目からの活躍を、あえて期待してみたいところです。


蔵の評価:☆☆☆


(2013年 横浜市長杯)









岩貞 祐太(横浜商科大3年)投手 182/75 左/左 (必由館出身) 
 




                「課題が克服出来ていないなぁ」





今年の大学球界でも、屈指の存在であるサウスポー。3年秋までの投球を見て、オフに 寸評を作成 した。あれから一冬超えて、どのぐらい課題を克服出来たかと思い注目した春のオープン戦。しかし私には、正直あまり変わっていないなぁという印象しか残らなかった。

(その課題とは)

1,球種が乏しく、投球が単調に陥りやすい

2,根本的に、コントロールがアバウト

という課題を前回のレポートでもあげた。その辺のことを踏まえながら、最新の寸評を作成してみた。

(オフの試み)

本人もその辺のことは、自覚していたのだろう。この日のテーマとしては、フォームにタメを作り、「間」を意識して一辺倒になるのを防ぎたい。また攻めのバリエーションを増やすために、積極的に内角を突く。この2つのことをテーマにし、このオフ取り組んできたのではないかと感じられた。

(投球内容)

ストレート 常時130キロ台後半~MAX89マイル(142.4キロ)

昨秋、神宮大会代表決定戦で見た時は、常時140キロ台~MAX147キロを記録。ただこの球速差は、まだ2月の10度以下という環境だったことを考えれば、5キロ程度は遅くて当然なので悲観することはない。また、実際に見るボールの勢い・威力は確かなので、ストレート自体は魅力があるものだった。

ストレート自体は、内外角に投げ分けられる制球力があります。特に左投手なのですが、右打者の外角、左打者の内角に決まる、逆クロスへの球筋が一番良い球がくる投手。そのため左打者のインハイには厳しく威力のある球が決められるのですが、右打者にはクロスのインハイを突こうとしても、シュート回転して真ん中に甘く入ったり、外角に流れたりと、思いどおりコントロールできなかったりします。

変化球 スライダー・チェンジアップなど

右打者の外角に逃げて行くストレートは、意識的にシュート回転させているのか?自然とそちらに流れるのかはよくわかりません。明らかに変化球と言えるのは、カウントを整える横滑りするスライダーと、低めのボールゾーンにキレ込んで空振りを誘うスライダーを使いわけている点。

そして余裕が出て来ると、チェンジアップ系のボールも織り交ぜてきますが、あまり精度が低く・キレもないので、大きなウエートを占めていません。右打者の外角にチェンジアップを落とすよりは、右打者の外角に決める外スラで投球を組み立てる割合の方が多いのが現状。

その他

あんまり牽制で刺してやろうというような、鋭いものは見られません。クィックは、1.1秒前後と、それなりの素早さがあります。ただ野球センスに優れているとか、運動神経が図抜けているといった、そういったタイプではないように思います。

(投球のまとめ)

結局、使える球種はストレートとスライダーという、単調なコンビネーションに改善が見られません。内角を厳しく突くというテーマにおいても、左打者に徹しきれることは出来ても、右打者にはどうしても甘くなります。実際にこの試合では、右打者に痛打を浴びる場面が目立ちました。右打者に対する勝負どころでの甘さと、右打者自身が、彼の球が左打者よりも合わせすいのではないかと思います。特にクロスに食い込んでくる球筋が弱い左腕なので、外の球が踏み込みやすいのではないのでしょうか。

特に普段はコントロールが悪いとは思わないのですが、本当の制球力がないのか、勝負どころで甘くなったり、アバウトな面が見られます。その辺もこの試合を見る限り、改善されているとは言えませんでした。どうしても余裕がなくなると、パンパンパ~んと打ち込まれる傾向は変わりません。この試合も日大打線につながら、失点を重ねていました。

(最後に)

この投手は、左投手でボールにも力があるだけに、ドラフト指名される可能性は高いと思います。実際中位~5位ぐらいまでの間には、大きな故障や不調がない限り、指名されるのではないのでしょうか。

もし今のまま課題を克服できないとなると、指名されても即戦力の期待には応えられない可能性がかなり高いのではないかと思います。ただあえて単調な投球や右打者に弱いことを把握して起用するという手もあります。

それは、左打者相手のリリーフでの起用という手段。それであるならば、単調なコンビネーションでも、相手が球筋に慣れる一回りまで、それも投球が苦に組み立てられる左打者相手ならば、ボールの威力でプロでも生き残って行ける可能性があります。そういった割り切った上での指名ならば、ありなのではないかと思うわけです。

現状では、課題の克服ができておらず、正直プロでの活躍は期待できません。とりあえず現時点では、左打者相手に、短いイニングであればという限定評価ならばということで、☆ をこの時期でも付けてみたいと思います。シーズン中に課題を克服して、この ☆ の数を増やすような投球を期待してみたいものです。


蔵の評価:



(2013年 春季オープン戦)








岩貞 祐太(横浜商科大3年)投手 182/75 左/左 (必由館出身)
 




                   「こちらはキレ型」





 チームメイトの 西宮 悠介 が、球威のある重い球を投げ込む剛球タイプならば、岩貞 祐太 は、ビシッと捕手のミットに突き刺さるキレのある快速球タイプ。西宮の通算が 15勝10敗 防御率 1.97 と比べ岩貞は、16勝10敗 防御率 1.89 とタイプこそ違えど、二人の実績は殆ど差がない。岩貞が、本格化したのは2年生になってから。入団早々主力投手として活躍し、その後伸び悩んだ 西宮 とは対照的。しかしこの秋は、西宮 の方が、ボール・存在感としても上だった。この二人のライバル関係が、最終学年で上手く合致すれば、大学選手権の出場活躍も期待できる。

(投球内容)

ストレート 常時140キロ台~MAX147キロ

 キレのある快速球が売りの選手ですが、球速豊で好調時には145キロを超えてきます。ストレートは、右打者にも左打者にも内外角に投げ分けることができ、時には強烈に胸元を突いてきます。特に西宮ほど制球に不安がないので、彼が第一戦を任されることが多いのも頷けます。特に3月のベイスターズとのオープン戦では、ベイスターズ打線を翻弄するなど、その存在感をプロに示すことも出来ています。

変化球 スライダー シュート系など

 投球の多くは、切れ味鋭いスライダーのコンビネーション。殆どの三振は、このスライダーで奪っています。他にもシュートのような球もあるのですが、殆ど曲がっておらず効果も薄いものと思います。最大の欠点は、コンビネーションが単調なため、イニングを重ねて行くと相手に馴れられてしまう引き出しの少なさにあります。

(投球のまとめ)

 適度に試合を作って行けるまとまりはありますが、その際にピッチングを広げて行けないので、段々馴れられてしまいます。今後は球種を増やすなり、間合いを工夫したりと、相手に的を絞らせない投球を意識することではないのでしょうか。ボールそのものには、プロにも通用するだけのものを持っているので。

(成績から考える)

彼の成績も、西宮との比較という意味で、この秋の成績を参考にしてみましょう。

8試合 3勝3敗 50回1/3 37安打 18四死球 47奪三振 防御率 1.97(6位)

1,被安打は、イニングの80%以下 ◯

 被安打率は、73.6% と絶対的な数字ではないが基準を満たすだけのものはある。どちらかというとキレ型なので、甘く入ると痛打される可能性が高い。また単調なコンビネーションなので、相手に馴れられると打たれる傾向もあるので、このような数字になっているのだろう。

2、四死球は、イニングの1/3以下 △

 四死球率は、35.8%と基準である33.3%を僅かながら超えてしまっている。制球は比較的安定しているように見えるが、微妙なコントロールがあるといったほどではない。

3、奪三振は、イニングの0.8個以上 ◎

 先発投手の基準である1イニングあたり0.8個以上を上回り、0.93個を記録。これは、リリーフ投手の基準も満たしている。スライダーを武器に、三振を奪える投手だということがわかる。

4、防御率は1点台以内 ◯

 通算防御率は、1.89。この秋は、1.97となんとかこの数字をクリアはしている。ただ2年春こそ0.93という圧倒的な数字を残したものの、2年秋・3年春 と防御率は2.50以上と物足りない数字だった。地方リーグの数字だけに、やはり1点台前半~0点台後半ぐらいは残せる成績を期待したい。

(成績からかわかること)

 実際見たイメージどおり、爆発力では西宮が上回るが、制球に大きな破綻がないなど、まとまりでは岩貞の方が安心して観ていられる。ただ二人とも、絶対的な成績を収めたことはなく、その辺が全国大会への切符を、自らの力で掴み取れない大きな要因ではないのだろうか。

逆に、突き抜けた成績をリーグで残せるようになれば、自ずと全国大会、上位候補への道も切り開かれるはず。





(投球フォーム)

ではそのためには、フォームのどの辺に問題があるのか考えてみたい。

<広がる可能性> 
☆☆

 引き上げた足は地面に伸び、お尻は三塁側(左投手の場合)には落ちません。そのため、カーブで緩急をつけたり、フォークのような縦に鋭く落ちる変化球は向かないはず。

 「着地」までの粘りもそれほどないので、いろいろな変化球をものに出来るといったタイプではないような気がするます。カットボールやツーシームなど、ストレートに近い小さな変化球が、この投手には向いているのではないのでしょうか。

<ボールの支配> 
☆☆☆☆

 グラブは最後まで内に抱えられており、両サイドの投げ分けは安定。足の甲での地面の押しつけもよく、高めに抜け気味に行くことは殆どありません。ただ全体には、真ん中~高めのゾーンのボールは少なくありませんが。「球持ち」は平均的で、指先の感覚も並といった感じでしょうか。

<故障のリスク> 
☆☆☆

 お尻は落とせませんが、カーブやフォークなどの球種も投げませんし、シュート系も多投はしません。そういった意味では、身体への負担は大きくないのでは。

 更にスリークオーターなので、腕の振り下ろしに無理はありません。そういった意味では、身体への負担は小さくく、故障のし難いフォームではないのでしょうか。

<実戦的な術> 
☆☆☆

 「着地」までの粘りはさほどなく、身体の「開き」も平均的だと思います。けして嫌らしいフォームではないので、投球が単調になると怖い部分はあります。

 最大の特徴は、腕の振りが強く鋭いこと。これにより、キレのある球を生み出します。また速球とスライダーの見極めが難しいのが、多くの三振を生み出す要因だと考えられます。ただボールに体重を乗せるのは下手で、「体重移動」が上手く出来ていません。この辺が、球威のある球を投げられない大きな要因ではないのでしょうか。もう少し下半身に粘りが出てくると、フォームに粘っこさ、ボールには力強さが増してきそうです。

(投球フォームのまとめ)

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の観点で見ると、「着地」「開き」「球持ち」が平均的で、「体重移動」には課題を残します。そういった意味では、フォームの観点で云えば、それほど実戦的な投手ではないことがわかります。あと一歩成績が突き抜けない要因の一つに、投球フォーム嫌らしさがないからかもしれません。

(最後に)

 3年生を終えた時点では、西宮 とは本当に良いライバルといった成績です。タイプこそ違いますが、二人が両方好調で挑めれば、全国大会への出場も期待が持てます。

 どちらかというと、大化けすれば 西宮 は最上位の12名に入ってきそうですが、このまま伸び悩めば中位以下になるでしょう。逆に岩貞は、安定して2位、3位あたりの順位で納まりそうなタイプではあります。

 いずれにしても、学生球界屈指の左腕二人が同じチームにいるのですから、今年の横浜商大は大変注目の学校であるのは間違いありません。ぜひ有終の美を、最高の形で締めくくって欲しいですね。


(2012年 横浜市長杯)