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安部 建輝(25歳・NTT西日本)投手 180/81 右/右 (近大出身) 




                      「ようやくプロ入り」



 近大時代は、通算1勝しかあげられなかった投手。しかし卒業後すぐに挑んだ春のスポニチ大会では、いきなり無名ながら147キロを記録し、今すぐドラフトにかけても1位指名に入るだろうというほど、素晴らしい投球を披露。間違いなく2年目には、上位指名でプロ入りする選手だと思っていた。しかし1年目の夏の都市対抗の頃には不調に入り、すっかり春先の勢いはなくなっていた。その後、ルーキーイヤーの勢いを取り戻せない長い不調に入る。

 入社3年目を迎えた昨年のスポニチ大会で、再び彼らしい勢いのあるボールが復活。この時私が計測したMAXは、93マイル(148.8キロ)まで到達し、完全復活を予感させた。しかし大会期間中に震災が発生し、大きく社会人野球は日程の変更を余儀なくされた。以後結局勢いのあるボールは陰を潜め、プロ入りへのラストチャンスと思えた昨年も指名なく終わる。

 彼の場合春先は好いのだが、年間を通しての安定した投球に課題があった。しかし今年は、一番大事な都市対抗予選・本戦でも好調を維持。入社4年目の今更ながらの指名は、この安定した投球が評価されてのプロ入りだとしか思えない。現状の 安倍 建輝 投手のピッチングを分析してみた。

(投球内容)

 元々145キロ前後のストレートと、変化球を交えてコンビネーションで打ち取るタイプの投手だった。しかし今は、かなり縦の変化を多く織り交ぜる投球にシフトし、以前ほどのスピードはなくなっている。

ストレート 常時130キロ台後半~140キロ台前半

 球速が、他球場よりも2キロ~5キロ程度は厳しく出る東京ドームでの試合ということもあるのだろう。しかし今年の都市対抗では、130キロ台後半~140キロ台前半と、以前に比べるるとストレートの球速は落ちている。しかし実際そのボールを見てみると、高めに決まるストレートはグッと体重が乗って力強いだけでなく、打者の空振りを誘う場面が多い。少なくても打者にとっては、この球速表示よりかなり速く感じられているはず。

変化球 スライダー・チェンジアップ・ツーシーム・フォーク

 チェンジアップのようなカウントを稼ぐフォークと(これがツーシームということはないと思うが)、明らかに空振りを誘う縦に鋭く落ちるフォークを使い分けているように見える。特にこのチェンジアップ気味のフォークのような球を、投球の中で多投する。

 右打者の外角には横滑りするスライダーも投げるが、あまりこの球は上手くコントロール出来ていない。落ちないでシュート回転して曲がってくる球があり、これが恐らくツーシームなのだろう。特に右打者には、内角への厳しい攻めが見られる。

その他

 クィックは、1.1~1.2秒ぐらいで投げ込んでおり基準レベル以上。結構鋭い牽制で、ランナーを刺しに行く。ただ以前は、必要以上にランナーを牽制するなど、投球に集中できない神経質な一面が目立った。そういった意味では、この選手はやはり先発の方が向いているのだろう。フィールディングもそれなりで、ボール処理に問題はない。

(投球のまとめ)

 先発では珍しい、速球と縦の変化球のコンビネーションで組み立ててくる。ただボールは両サイドに散らされており、高低・左右・更に多彩な球種の変化もあり、非常に的を絞り難い。またストレートは、真ん中~高めに集まりやすいのだが、ボールに勢いと伸びがあるので、それほど打たれることはない。むしろ甘く入ったフォークを打たれるケースが多い。そのため高めに意識を集中させると低めでフォークを落とされ、低めに意識が行っていると、伸びのある高めのストレートを振らされてしまう。

 コントロールも、都市対抗予選の24イニングで5四死球と制球で自滅することはない。課題は、ランナーを背負ってからの投球にあったが、この辺もだいぶ改善されつつある。年間を通して調子を維持するという課題を、今年はクリア。精神面・肉体面の成長があったからこその、今年の指名だと考えられる。
(投球フォーム)

 実はこの投手、過去何度も取り上げてきたにも関わらず、投球フォームを細かく分析していないことに気がついた。

<広がる可能性> ☆☆☆☆

 引き上げた足は、比較的高い位置でピンと伸ばせており、お尻の落とし自体は悪くはない。実際に縦の変化を多投するわけだが、身体への負担は比較的小さいはず。だからこそ先発投手でありながら、縦の変化とのコンビネーションというのが可能なのだろう。

 ただ「着地」までの粘りは平均的で、それほど身体を捻り出す時間は長くない。こうなると変化球の絶対的なキレにも影響し、意外に落差の大きな変化よりも球速のある小さな変化球が中心となってしまう。都市対抗予選の24イニングで、奪三振は10個。縦の変化を武器にする割に三振が少ないのは、実は空振りを奪えるほどの変化球がないことを示しているのではないのだろうか。今後「着地」の粘りを意識してキレを増すかはわからないが、多彩な球種を操っているという意味では現在でもそうなりつつある。

<ボールの支配> ☆☆☆

 グラブは最後まで身体の近くにあるので、両サイドの投げ分けは安定。ただ足の甲の地面への押しつけが浮きがちで、ボールは真ん中~高めに集まることが多い。また「球持ち」は平均的で、物凄く指先の感覚に優れているとか、そういった印象は受けない。

<故障のリスク> ☆☆☆

 お尻を無理なく落とせたり、腕の角度にもそれほど無理は感じない。しかし縦の変化を多く投げるので、肘への負担は大きいはず。足を勢いよく引き上げるタイプであり、腕も強く振って来るなど結構な力投派で、肉体の消耗度はけして小さくはない。年間を通しての好調を維持できなかったのは、この辺のフォームにも大きな影響があったからかもしれない。疲労を貯めると故障の原因になりかねないだけに、アフターケアには充分注意してやってもらいたい。

<実戦的な術> ☆☆☆

 「着地」までの粘りや身体の「開き」は、けして合わせにくいフォームではないはず。特にセットポジションになると、よりその辺は顕著に現れて来る。彼がランナーを背負ってからの投球に課題があったのは、精神的な部分だけでなく、フォームにも一つ要因があったからではないのだろうか。

 腕は強く振り抜けており、速球と変化球の見分けは困難。またボールにシッカリ体重が乗せられており、速球に関しては中々前に飛ばすことが難しい、グッと重い球が、打者の手元まで伸びてくる。

(投球フォームのまとめ)

 「着地」や「開き」は平均的で、セットポジションになると余計にこの辺の問題が浮き彫りになる。また「球持ち」も平均的だが、「体重移動」に関しては良い感じ。将来的にもストレートに関しては、プロでも押せるボールを投げるのではないのだろうか。

(最後に)

 年間を通しての好不調の波を小さくし、ランナーを背負ってからの投球にも踏ん張りが利くようになってきた。更に縦の変化に磨きがかかり、相手に的を絞らせない投球を確立。今年は、チームで絶対的なエースに成長した。

 特に春先は好い投手だけに、キャンプ~開幕の期間ではアピールを期待できそう。縦の変化で投球を組み立てるという、ベイスターズの投手陣にはいないタイプ。そういったことで上手くアピールできれば、一年目から開幕ローテーション争いを演じるぐらいは期待できるだろう。

 実際チームでの位置づけは、開幕ローテーションに入っても5,6番目ぐらいの位置づけにはなりそうだが、上手く波に乗れれば年間5勝前後~7,8勝ぐらいまで期待できるのではないのだろうか。実力的には☆☆☆をつけられるぐらいの内容だが、適齢期を過ぎての入団ということで少しマイナス評価とさせて頂く。ただ個人的にはずっとイチオシの選手だっただけに、思い入れの強い選手。ぜひ遅かったプロ入りの分も、取り返せるだけの活躍を一年目から期待してみたい。


蔵の評価:☆☆


(2012年 都市対抗)


 





安部 建輝(25歳・NTT西日本)投手 178/80 右/右





「この調子を一年間持続できれば!」





 近畿大学時代、巽 真吾(ソフトバンク)の陰に隠れて、4年間で1勝しかあげられなかった 安倍 建輝 。しかしNTT西日本入社後間もない東京スポニチ大会で、MAX147キロのストレートと鋭く曲がる変化球とのコンビネーションで、今すぐドラフトにかけても1位指名で消えるのではないかと言うほどのピッチングを魅せてくれた。しかしその年の夏の都市対抗では、すでに調子は下り坂。更に再び指名解禁となった入社2年目の昨年も、その時の輝きを取り戻せないでいた。そんな待ったなし3年目の春。舞台は同じ、神宮で行われたスポニチ大会。安倍 建輝は、入社当初の輝きを取り戻しつつあった。




(投球内容)

 この日の安倍は、立ち上がりから140キロ台の球速を連発し、私のスピードガンでは最速93マイル(148.8キロ)まで到達。手元までしっかり伸びてくる球質で、打者はワンテンポ差し込まれるような勢いがあった。しかし安倍の持ち味は、そのストレートを魅せ球に、スライダー・チェンジアップ・フォークなどの変化球を織りまぜた絶妙なコンビネーションにある。多少ストレートが高めに甘く入る時はあるが、制球力もけして悪くない。牽制だって、フィールディングだって、クィックにしたってプロの基準以上レベルを満たしている。マウンド捌きなども、けして大きな問題があるようには思えない。それなら上位指名確実?と言いたいところだが、話はそんなに単純ではない。


(気になるところ)

 投げ込まれるストレートや変化球など一球一球は、上位指名に相応しい球を投げ込んで来る。これだけの素材が、どうして大学時代通算1勝しかあげられなかったのか? 更に素晴らしい投球を魅せた入社後、それを取り戻すまでに2年の月日を費やしたのか。そこには、何か大きな問題があるのではないのか?と言う疑問はどうしても湧いてくる。彼は、完全復調と思われる今回のスポニチ大会までの2年間も、別に大きな怪我をしていたわけではない。関西の名門社会人チーム、NTT西日本の主力投手として、この期間投げ続けていたのだ。


(その問題点とは?)

 その一端が垣間見られたのが、ランナーを背負ったときの場面にある。一塁走者は、けして足が速く積極的に盗塁を仕掛けて来ると言うほどの選手ではなかった。更にそこまでランナーを気にするほどの場面でもないにも関わらず、彼は必要以上に、一塁走者に牽制を繰り返すのだ。何か物凄く神経質な一面があるのか?私には、もっと打者に集中した方が良いのではないかと思えた。

 また実際ランナーを出しセットポジションになると、それまで安定感があったピッチングが、急にソワソワして不安定なものになって行くのが手に取るようにわかる。精神的に非常に微妙なバランスの上で、この投手の投球が成り立っているのではないのか?と言う疑問を抱くのだ。

 こうなると非凡な資質を持ちながら、大学時代1勝に終わったこと。ドラフトでも上位指名級の能力がありながら、復調するのに2年の月日がかかってきたことも確かな不安材料になる。ただこの日の投球は、掛け値無しに、プロ入りを意識するのに充分内容だ

(少しずつ進化)

 しかしこの2年の月日は、けして無駄ではなかった気がする。ランナーを背負ってフワフワと頼りなくなってきた投球の中でも、ボールが先行してカウントが悪い場面でも、あと一歩のところで踏みとどまる強さを身につけつつあるからだ。以前だったら、そのまま失点を重ねていたところを、今は踏ん張りが効くようになってきた。これは、偶然なのではなく、彼の成長した部分だと判断したい。


(指名を決定づけるには)

 やはりこの投手に求められるものは、年間を通しての安定した活躍だろう。ただ残念なことに、今年は東日本大震災の影響で、多くの公式戦が中止になった社会人野球。本当の意味でのアピールできる機会は、都市対抗の予選と都市対抗の本戦のみと言っても過言ではない。ここでスポニチ大会並の投球で、スカウトたちに能力をアピールすることができるのならば指名も濃厚になるだろう。





(プロでの可能性)

 もし春のスポニチ大会の力が本物ならば、ドラフトで3、4位ぐらいで指名される力はあると評価する。ただ25歳の年齢も考えると、1年目の開幕からローテーション投手への期待も高まる選手。そのぐらいの完成度と球の力を持っているが、ただその力を素直に発揮できるだけの、環境適応能力があるかにかかっている。指名へのラストチャンス、そのぐらいの気構えで、ぜひ挑んで欲しい都市対抗。その最高の舞台で、その見事な復調ぶりをスカウト達に見せつけて欲しい。

蔵の評価:☆☆

(2011年 スポニチ大会)








 安部 建輝(24歳・NTT西日本)投手 178/80 右/右

(どんな選手?)

 春先のスポニチ大会では、全く無名ながら大会屈指の投球内容を示し、来年の上位候補を予感させてくれる内容でした。近大時代は、巽(ソフトバンク)の陰に隠れ、僅か通算1勝に終わった投手です。

(投球内容)

 都市対抗予選でも苦しみましたが、かなり投球フォームのバランスを崩しており、本戦でも身体が時々前に突っ込んでいたのが気になりました。

 球速は、130キロ台後半~MAX141キロ程度と、スポニチ大会の頃の145キロ強の球速は陰を潜めておりましたが、球の勢いはそれなりに感じさせてくれました。変化球は、スライダーとフォークとのコンビネーション。牽制は並ですが、クィックは1.1秒台とまずまずで、フィールディングも思ったより上手いです。投球自体も、元来それほど破綻のないタイプで、けして球の力に頼るような素材型ではありません。バランスさえ気をつければ、それなりの投球は、コンスタントに期待出来るタイプだと思います。

 右打者には、両サイドに球を散らし、左打者には外角中心に速球とフォーク(チェンジアップ?)を集めるスタイルです。この試合では、右打者に対し甘く入った球を痛打されておりました。

(今後は)

 まずは、フォームの立て直しでしょうか。速球にしても変化球にしても、威力のある投手で、持ち得る力は来年の社会人でも上位候補であるのは間違いない存在です。ただ、これまで積み重ねてきた実績はない投手だけに、本当の意味でエースとしての期待やドラフトと言うものを意識する2年目は、何処まで自分の能力を示せるのか試金石の年になりそうです。


(2009年・都市対抗)