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笠原 大芽(ソフトバンク)投手のルーキー回顧へ








笠原 大芽(福岡工大城東)投手 185/75 左/左 
 





                 「凄く良くなっているんじゃないかな」





 昨夏までは、大きな体を持て余し気味で生かしきれていなかった素材型投手、そんなイメージが強かった 笠原 大芽。しかし実際には確認出来なかったが、完全試合の動画を見ながら、昨夏との変化について考えてみた。試合の最初~最後までの投球を収めたものなので、これで評価づけを行なっても良いのだが、あえて動画のみの確認となってしまったので、今回は具体的な評価づけは避けたいと思う。


(昨年からの変化)

 昨年は、ゆったりしたモーションから投げ込む大型左腕といった感じ。しかし何処か大型投手にありがちな、モッサリした印象は否めなかった。しかし一冬越えて、非常に上半身を鋭く振ることができ、フォームのゆったり感と上半身の鋭さによるギャップが生まれ、打者はワンテンポ差し込まれるキレが生まれてきた。元々角度を生かした打ちにくさがあった上に、このキレが加わったことで打者にとっては相当厄介な投手になったことは間違いない。


(投球内容)

ストレート 常時140キロ~中盤ぐらいは

 この試合の動画を見る限り、常時140キロ台~MAXで140キロ台中盤ぐらいまで到達しているのではないかという勢いとキレが感じられた。ボールは昨年同様に、大まかにコースに散らせる程度であり、速球が決まるのは真ん中~高めのゾーンが多い。細かいコントロールはないが、テンポよくストライクゾーンには集められている。

 昨年は角度と球威で詰まらせる感じの球質だったが、今年は高めのストレートでも思わず手が出てしまうキレが出てきた。フォームから生まれるギャップ・実際のキレ・高さを生かした角度と、三拍子揃ったストレート。

変化球 スライダー・カーブ・スプリット

 投球の殆どは、曲がりながら沈むスライダー的な球とのコンビネーション。それにもう少し緩いカーブと速球との見分けの困難なスピリットがあるように見える。昨年に比べ、狙って空振りが取れる変化球を修得したことは大きい。

 最大の特徴は、速球と見分けが困難なまま、低めのボールゾーンに切れ込んでゆく、このスピリットの威力にある。見分けが困難なこの球は、高校生レベルでは見極めは厳しい。逆にこの球で上手くボールゾーンに切れ込んだり、スラーブでカウントが整えられないときは、中々思い通りのピッチングができないのではないのだろうか。

 速球のレベルが高いのに加え、一つ武器になる変化球を持っていることは大きい。フォームの違いはあるが、高校時代の 内海 哲也(敦賀気比-東京ガス-巨人)の時によく似ている。内海の場合は、プロ入り後にチェンジアップを覚えたことにより、劇的に投球の幅が広がった。

その他

 牽制やクィックなどは、観た試合が完全試合だったのでよくわからかった。そこで昨年のレポートから、引用させて頂きたい。フィールディングは、瞬時の判断力に優れ、冷静な一面も垣間見せ、動作自体の動きもいい。牽制も、左腕らしくまずまず上手い。自信を持って二塁への牽制も織り交ぜることからも、かなり鍛えられているのだろう。クィックは、1.2~1.3秒ぐらいと平均的。ただ左腕なので、ランナーは二塁に行くまでは、なかなかモーションを盗むことは難しいだろう。


(投球フォーム)

 昨年から試行錯誤を続けたというフォームには、いかなる変化があったのか見てみたい。

<広がる可能性> ☆☆

 昨年は、引き上げた足を比較的高い位置でピンと伸ばしていたのを、地面に向けて伸ばすようにした。これにより緩急をつけるカーブや縦に落ちるフォーク系の球の修得は厳しい。しかし負担の少ない小さなスピリットならば、縦の軌道の腕の振りを生かし、上手くピッチングに取り入れることができている。

<ボールの支配> ☆☆☆

 グラブを内に抱えられるのは、昨年と一緒。足の甲の押し付けが短いのも、昨年とあまり変わっていないように思える。そのためストレートは、真ん中~高めに集まりやすい。「球持ち」も長く持つような粘っこさよりも、鋭く腕や上半身を振ることでキレを生み出すことを重視。そのため、細かいコントロールはつきにくいのかもしれない。

<故障のリスク> ☆☆

 お尻が落とせない投げ方なのに、スピリットを使うことで肘への負担は増しているはず。またかなり腕の角度をつけて投げ下ろしてくるので、肩への負担は少なくないだろう。ただ彼の場合、この角度こそが生命線の一つなので、これを緩和することもは持ち 味を失いかねない。日頃からアフターケアには充分注意を払って行きたい。特にテイクバックした時の肩の入りやスピリットによる負担は、けして少なくはないだろう。

<実戦的な術> ☆☆☆☆

 「着地」までの粘りはソコソコも、テイクバックした時の肩の可動域が柔らかく、ボールが中々見えて来ない。そこからピュッと鋭く投げ込まれるので、どうしても打者はワンテンポ差し込まれてしまう。このボールの出所の見難さが、彼の最大の特徴だと言えよう。

 素晴らしいのは、振り下ろした腕が体にシッカリ巻きつく程の腕の振り。そして最後体が覆いかぶさるほどの、豪快なフィニッシュにある。ここまで豪快なフィニッシュで投げ込める日本人は、稀だと言えよう。昨年のような、投げ終わったあと上体が流れることもなくなり、受け止める下半身とのバランスも格段に進歩した。

(投球フォームのまとめ)

 お尻の落とし方こそ変わったものの、根本的な部分では大きく変わっていない。ただ全体的には、試行錯誤の結果、かなり好い方に好転してきたと言えそう。かなりいじるのが難しい癖のあるフォームであったが、よくぞここまでまとめられたと言えるのではないのだろうか。非常に打ち難くかつ、かなり実戦的なフォームになりつつある。「着地」「球持ち」などはさほど改善されていないが、「開き」「体重移動」の良さを残したまま、肉体の成長により安定したフォームと鋭い腕の振りを修得する形となっている。


(最後に)

 まだまだ成長途上の投手との印象は受けるが、着実にこの一年で大きな成長を遂げてきた。イメージ的には、高校時代の内海哲也にかなり近く、球速以上にボールが見えない打ち難い投手になったと評価する。

 昨年は、父親・兄がプロ野球選手であり、かつ大型左腕という期待込みの部分が大きかったが、今年は真にドラフト候補としての実力を身につけてきた。2,3年ファームで漬け込む余裕のあるチームならば、将来のローテーション候補として育ててみたいと思わせる素材ではないのだろうか。実際に見ていないので具体的な評価づけはしないが、限りなく ☆☆☆ 以上の評価に値する選手ではないのだろうか。


(2012年 春)