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 森 雄大(東福岡3年)投手 184/76 左/左
 




               「本当に調子が良くなかったのか?」





高校NO.1左腕と言われ注目を集めた 森 雄大 。しかし敗れた準々決勝の福岡大大濠戦では、1回4安打5失点で降板。一回途中から、マメが潰れ思い通りのピッチングが出来なかったからとも言われている。しかし実際、それがこの試合に何処まで影響したのか? 私は、本質的な問題ではないのではないかと思っている。


(この日の投球)

 初回制球が定まらず、ヒットなどでランナーを貯めると満塁策を取る。しかしタイムリーを打たれて立ち上がりから先制を許す。2回は落ち着きを取り戻したかと思ったが、先頭打者に詰まりながらもレフト前に運ばれる。続く打者が送りバント処理をした時に、森自身が一塁に悪送球。そこであえなく降板。

 この投球を見る限り、自ら招いたピンチで満塁策を取るもタイムリーを浴び。送りバントを悪送球して傷口を広げるという、自分で招いたミスばかりだった。





(投球内容)

 テイクバックは小さめで、ダイナミックなフォームで投げるタイプではありません。しかし腕に角度をつけて振り下ろしてぐらいフォームではあります。

ストレート 常時145キロ前後~MAX148キロ

 立ち上がりからボールがバラついて、コントロールに苦しんでいたのは確か。しかし球速に関しては、この夏最速タイの148キロを記録。ただ実際見ている感じだと、130キロ台後半~140キロ前半ぐらいの球速に感じられ、驚くような速さは感じられなかった。これは一つ、彼自身の球が球威型ではなく、ピュッと来る感じのキレ型なのにも原因があるのだろう。

変化球 スライダー

 変化球は、スライダーとのコンビネーションのみ。この球自身のキレはよく、上のレベルでも使える球ではあるだろう。ただカーブで緩急をつけたり、シュート系の球を使って投球を広げるとか、そういったことは出来ていない。配球としては、極めて単調な配球だと言えよう。

その他

 ランナーが出塁しても、鋭い牽制は入れません。あくまでも「間」を入れるために、軽く投げる程度。クィックは1.15~1.35秒ぐらいであり、あまり上手いとは言えません。フィールディングの動き自体は悪くありませんでしたが、なんでもない当たりを悪送球してしまうあたりに、精神的余裕の無さを感じます。こういった投球以外の部分を、あまり磨いて来なかった3年間というのは、野球への取り組みという意味では不安が残ります。

(投球のまとめ)

 現状、速球でもスライダーでも、時々オッという球はありますが、まだまだバラつきを感じます。実際ボールは両サイドに散っていて、それほど真ん中近辺には集まっていませんでした。むしろしっかりコントロールしていたにも関わらず、甘くない球を打ち込まれていた点が気になります。

 結構ランナーを背負うと、しっかり間合いを長く取り、ジックリとと投球を行なってきます。そういった「間」を意識した投球は、この投手はできます。確かに細かいコントロールは元々ないようですが、5回戦の東海大五戦までの27イングで四死球は7個。基準であるイニングに1/3以下を充分満たしており、四死球で崩れるタイプではなさそう。

 実際この試合を見ていて思ったのは、ボールの走りが驚嘆に悪かったわけでも、制球を大きく乱したわけでも、途中までは精神的に余裕がなかったわけでもないと思います。では何が問題だったかというと、甘くない球でも打たれてしまう投球フォームと、肝心なところで力を出せない詰めの甘さがある精神面の部分に、私は不安を感じるところがありました。


(投球フォーム)

では今度は、投球フォームの観点から、彼の可能性について考察したいと思います。

<広がる可能性> 
☆☆

 引き上げた足を地面に向けてピンと伸ばすので、お尻が三塁側(左投手の場合は)に落とせるフォームではありません。そのためカーブで緩急を効かしたり、フォークのような縦の変化にもは向きません。

 また「着地」までの粘りもそれほどでもないので、身体を捻り出す時間も確保できません。そういった意味では、球速のある小さな変化球は習得できても、大きな曲がりで空振りを誘うほどの変化球を身につけられるのかは微妙です。

<ボールの支配> 
☆☆☆

 グラブは内に抱えられているので、両サイドの投げ分けは出来ています。また足の甲での地面の押しつけもできており、ボールにも角度があって高めに抜ける球は少なく低めに結構来ます。ただ「球持ち」は浅く、指先の感覚はイマイチ。そのためリリースも安定せず、まだ球筋が安定しません。ただ大雑把には狙ったところにはコントロールでき、将来的には制球が仇になるタイプではないと思います。

<故障のリスク> 
☆☆☆

 お尻は落とせませんが、カーブやフォーク、シュート系を多投するわけではないので、肘への負担は少ないでしょう。むしろ心配なのは、かなり角度をつけて投げ下ろす肩への負担です。テイクバックした時も、少し背中に入り込みますし、あまり無理すると肩の故障は否定できません。

<実戦的な術> 
☆☆

 「着地」までの粘りがイマイチなので、身体の「開き」自体は早くはないのですが、打者としては合わせやすい側面があるのではないのでしょうか。実際に、コースに散っている球が打たれるのは気になります。

 またもっと腕が絡んで来るほど振れているのかと思ったのですが、思ったほどではありません。ただそれよりも気になったのは、ボールに上手く体重が乗せられておらず、打者の手元まで球威のある球が行かないのだと思います。そのため球威に欠けるので、甘く入ると長打を浴びる危険性は感じます。

(投球フォームのまとめ)

 「開き」こそ悪くありませんが、「着地」「球持ち」「体重移動」に課題があり、けして実戦的なフォームとはいえません。このままだと、ただの球の速い奴で終わってしまう可能性も否定できません。

(最後に)

 身体が出来てくれば、まだワンランクは球速をあげることも期待できるでしょう。特に現時点では、おっと思わえる球の確率が低いのですが、身体ができてくればその頻度も増すはず。

 制球もピッチングセンスも、けして悪い選手ではありません。ただ実戦的ではないフォームと、勝負どころでの甘さを考えると、凄い球を投げても、勝てる投手になれるのかは微妙だと言わざるえません。そういった意味では、福岡大大濠時代の 川原 弘之(ソフトバンク)投手と、少しダブルものがあります。素材としては素晴らしいですが、大成させるにはかなりの育成力や忍耐力など、周りの後押しが求められる素材なのではないのでしょうか。個人的には、当たれば大きな素材だと思います。しかし不発で終わる可能性は、結構高いリスキーな素材だと思います。


蔵の評価:
☆☆☆


(2012年 夏)