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上本 崇司(広島)内野手のルーキー回顧へ






上本 崇司(明治大)遊撃手 170/68 右/右 (広陵出身) 
 





                   「兄に比べると華がない」





 広陵高校時代から甲子園を湧かし、高校球界のスター選手として早大に入学。黄金期の早稻田を支えた主力選手として活躍し、プロ入りした 兄・博紀(阪神)。しかし弟の 崇司 の方も、同じ広陵高校に進み活躍し、明治でも主力選手として活躍。むしろ身体能力では兄以上のポテンシャルを持ちながら、兄に比べるとその実績、プレースタイルは地味に思える。この2人の違いなんなのか? 今回は、改めて考察してみたい。

(守備・走塁面)

 高校時代は、遊撃手として活躍。明治では遊撃だけでなく、二塁手として出場することもある。遊撃手としては、独特のリズム感を活かしダイナミックのプレーを披露。二塁手としては、前に突っ込みながらも難しい体勢からファインプレーを数々決めるなど派手なプレーが魅せる。特に兄が魅せなかった地肩を活かしたプレーができる特徴があり、思わず唸らせる魅せるスーパープレーが得意。その一方で結構ポカがあり、堅実なプレーヤーというわけではない。その守備は、プロでも二遊間を担える一方で、安定感の部分で信頼を得られるかは不安になる。

 一塁までの塁間を、右打者ながら4.25~4.30秒ぐらいで走り抜ける。これを左打者に換算すると、4.0~4.05秒ぐらい。プロの打者としても、俊足の部類に入る。

常塁間の目安となるのは、

3.9秒弱  プロで足を売りに出来るレベル

4.0秒前後 足を売りに出来るのかは走塁センスにもよるが、プロでも俊足の部類

4.2秒前後 スカウトが、プロの基準と判断するタイム

4.3秒以下 プロの基準以下となり、割り引いて考える

脚力自体はけして悪くないのだが、昨秋のシーズンが4盗塁。この春も2盗塁ということで、けして盗塁技術は優れていない。脚力自体はプロでも中の上レベルだが、盗塁を決めるなどの実戦的な走力は平凡。ただ純粋な脚力に関しては、兄以上のポテンシャルは秘めている。こと地肩・走力は、高校時代から言うように、兄以上の身体能力があると言えよう。ただ堅実な守備、盗塁技術に関しては、兄より劣る印象は否めない。ちなみにこのタイムを、2012年度にドラフト指名された右打者の走力を偏差値化すると、走塁偏差値は 53 ぐらい。まさにプロに混ぜると、中~中の上程度であることがわかる。


(打撃内容)

兄 は対応力のあるアベレージタイプだったが、弟は意外にパンチ力を秘めた力強いスイングをする。何だか兄は、独特のメカニズムと感覚でヒットを連発していた天才肌だったが、弟は理屈で説明できるオーソドックスなタイプ。兄は綺麗に捌く天才肌ならば、弟は難しい球でも喰らいつく泥臭さがある。

昨秋に、打率.283厘を残し、大学野球にも本格的に対応。しかし今春のリーグ戦では、再び

14試合 1本 3打点 2盗塁 打率.227厘

と低迷した。この成績を見る限り、ドラフト戦線からは後退したと言わざる得ない。

(打撃フォーム)

今度は、昨秋と比べ打撃フォームに変化があったのか考察してみたい。

<構え> ☆☆☆

 前の足を軽く引いて、グリップの高さ平均的。秋は、もう少しグリップを下げて、脱力を意識したスタイルだった。腰の据わり具合・全体のバランスは良いが、両目で前を見据える姿勢は平均的な点は変わらない。

<仕掛け> 早めの仕掛け

 ボールをよ~く引きつけてから叩く生粋の二番タイプが採用する「遅めの仕掛け」から、早めに始動しいろいろな球に対応しうる「早め仕掛け」に変えてきました。より高い対応力を目指した末の決断だと思いますが、残念ながらそれが必ずしも功を奏したとは言えないようです。幅広くボールに対応するよりも、狙い球を絞りその球を逃さないスタイルの方が、彼には合っているのかもしれません。ただ高校時代は「平均的仕掛け」で打っていたように、この選手は始動のタイミングをいろいろ変えて模索しているようです。

<足の運び> ☆☆☆

 早めに始動して着地までの時間を稼ぐため、速球でも変化球でも対応しやすい打ち方ではあります。真っ直ぐから少しベース側に踏み込む傾向があるので、真ん中~外角の球を意識したスタイル。

 気になるのは、踏み込んだ足下が少しインパクトの際にブレてしまうようになり、身体の「開き」が顕著になってしまったこと。実際踏み込んだ足先を見ると開いて踏み込んでおり、右方向にはじき返すというよりは引っ張りにかかっていることがわかります。外の球を無理に引っ張りにかかれば、当然ボールを引っかけるケースが増えるでしょう。こういったことが、彼の打撃を狂わせていた大きな要因だと考えられます。

<リストワーク> ☆☆☆

 打撃の準備である「トップ」を作るのは平均的。バットの振り出しも悪くはないのだが、ボールを捉える時にバットの先端であるヘッドが下がり気味で、ボールがフェアゾーンに落ちにくいスイングになっていました。秋のスイングは、綺麗なスイング軌道を描いていた春に比べると、この辺も率を落としていた要因かもしれません。

<軸> ☆☆☆

 頭の動きは平均的、軸足の形も並ぐらい。やはり「開き」が我慢しきれなくなった下半身の安定が、打撃に与えた影響は少なくなさそう。

(打撃フォームのまとめ)

 一番の違いは、始動のタイミングを変えてきたこと。これが、上手く自分の打撃に馴染まなかったのかもしれない。また引っ張りにかかり下半身の不安定さにつながり、自慢のスイング軌道も狂いが生じていた。

 試行錯誤で良いものを追求したいという姿勢は買えるが、残念ながら集大成である4年春のシーズンに、それを結びつけることは出来なかった。


(最後に)

 実際のところ守備や走力に大きな変化は感じられず、打撃でも冴えない打席が続いた。打撃には新たな試みを行ってはみたが、まだ自分のものに出来ていない。この内容からも、ドラフト戦線からは大きく後退した感は否めない。

 兄と弟の一番の違いは、守備でも打撃でも走塁でも、試合に入って行けるゲーム感覚の差にあるように思える。兄はこの点では素晴らしいものがあり、弟はその辺が平凡。その兄でさえプロであれだけ苦しんでいるのを考えると、今の崇司が、プロで通用するとは考えにくい。

 ただあの上本の弟だというネームバリューもあり、兄以上のポテンシャルがあると判断して、下位や育成枠あたりで拾う球団が現れるかもしれない。ただ常識的にみてプロ入りの「旬」は言えず、社会人に進む可能性は高いのではないのだろうか。


(2012年 春季リーグ戦)