12dp-15





則本 昂大(楽天)投手のルーキー回顧へ








則本 昂大(三重中京大)投手 178/80 右/左 (八幡商出身) 
 





                           「申し分なし」





 2年前の大学選手権では、同じ東京ドームで149キロを連発した 則本 昂大 。その時は、ただただ速い球を投げる実戦力に欠ける投手だったと記憶している。しかし最終学年で全国大会にも戻ってきた彼は、実戦力も伴う実力派に変貌していた。


(投球内容)

 中背の体格ながらガッチリとしており、非常にオーソドックスなフォームで投げ込みます。

ストレート 140~MAX93マイル(148.8キロ)

 今大会の東京ドームのガンは、かなり辛めの私のガンと比べても常時3~5キロ程度厳しく、その東京ドームのガンではMAX147キロを記録した。しかしスカウト達の中には、MAX151キロを記録するガンもあったそうです。ビシッと捕手のミットに突き刺さる、勢いのあるストレート。特に追い込むまでは140キロ前半ですが、勝負どころでは140キロ台中盤以上のストレートを投げ込み、力の入れ加減を変えてきます。

変化球 カーブ・スライダー・チェンジアップ

 変化球は、横滑りするスライダーで投球を組み立ててきます。右打者には外角低めのストライクゾーンからボールゾーンに切れ込む絶妙なところに、左打者には内角胸元に食い込んで、外角球への踏み込みを封じます。この球でいつでもカウントが取れるところが、投球を楽にします。

 もう一つの武器は、チェンジアップ。ほとんど左打者にしか使わないのですが、大体大の各打者がこの球に対し、完全に腰砕けにされるほど、ストレートとの見わけが困難。このスライダーでもチェンジアップでも三振を奪えるところは、ただのストレートだけの投手とは一線を画します。

 投球に余裕が出てくると、ブレーキの効いたカーブでも、しっかり緩急を効かせてきます。速球だけでなく変化球レベルが高いのが、この投手の最大の特徴。

その他

 クィックに対しては、1.05~1.15秒ぐらいでまとめられるなど、素早く投げ込めます。フィールディングの動きも素早いですし、ベースカバーへの入りも悪くありません。投球以外の部分もしっかりしており、その辺の完成度も高いようです。

(投球のまとめ)

 ボールの勢い・変化球のキレ・両コーナーに散らす制球力・メリハリを効かせた投球など、この日の則本は申し分のない内容でした。更に不利な状況になっても、そこで崩れないで立て直せる、踏ん張れるハートの強さが際だちます。

 下級生の頃から彼を何度となく観てきた方によると、今までで一番好いという内容で、出来過ぎだったのかもしれません。それにしても、これだけのパフォーマンスを示せるのは、けしてフロックではないでしょう。ただ勢いだけで押していた、下級生の頃のイメージとは私自身も一遍致しました。


(投球フォーム)

 今度は、投球フォームの観点から、どのぐらい実戦的なのか検証してみたいと思います。

<広がる可能性> ☆☆☆

 引き上げた足を伸ばす時は、高い位置と地面に真下向ける中間ぐらいの位置で、全くお尻が一塁側に落とせないフォームではありません。少し甘めではありますが、お尻はある程度一塁側には落ちています。それでも着地までの粘りも平均的なので、見わけの難しいカーブで緩急をつけたり、縦に鋭く落ちるフォークのような球種は、やや甘くなる可能性があります。

 実際カーブはたまに投げますが、スライダー・チェンジアップ系の球種で勝負するスタイル。そう考えると、今の球種を軸にカットボールやツーシームなどの微妙にボールを動かす球などを用いて、更にピッチングを広げることになるのではないのでしょうか。

<ボールの支配> ☆☆☆☆

 グラブは最後まで身体の近くにあり、両サイドへの制球は安定しやすいタイプ。足の甲でも深く地面を捉えており、ボールも高めに抜けにくいはず。ただ実際には、ストレートは大体真ん中~高めに集まりやすく、左打者の外角へは高めに抜けてしまう球も少なくありません。ただその点は、ボールの勢いが最後まで衰えなかったこと、そしてコースにはシッカリ集められていていたことで痛手を悔いませんでした。「球持ち」自体は悪くなく、ボールもある程度コントロールできているように思えます。

<故障の可能性> ☆☆☆☆

 お尻の落としには甘さは残るものの、それほどカーブやフォークなどを多投するタイプではないので問題はなさそう。更に腕の角度も、思ったより腕が下がって出てくるので、肩への負担は少なそう。ただ力投派ではあるので、身体への負担は少なくないはず。疲れを貯めないように、日頃からアフターケアには充分注意して欲しいものです。

<実戦的な術> ☆☆☆

 「着地」までの粘りは平均的で、身体の「開き」も並みぐらいでしょうか。そういった意味では、フォーム的にはそれほど打ちにくいフォームとは言えません。

 ただ腕の振りは素晴らしいので、スライダーやチェンジアップとの見わけは困難。そのため、思わずバットが出てしまいます。「体重移動」が極端に好いとは思いませんが、適度にボールに体重は乗せられているのではないのでしょうか。

(投球フォームのまとめ)

 投球フォームの4大動作である「着地」「開き」「体重移動」「球持ち」と平均的で、投球フォームの観点からすると、可もなく不可も無しといった感じでしょうか。ボールが走って、制球も安定してノリノリの時は良いのですが、逆にそうじゃ無いときに、如何にピッチングを作って行けるのかが課題でしょうね。


(最後に)

 この日の投球だけ見れば、文句なし1位級です。ただこのあと、夏のオープン戦や神宮大会でのピッチングをみると、変化球が決まるときと決まらない時があります。また実際の投球フォーム・中背の体格などを加味すると、過剰に評価するのは、むしろ危険です。

 そう考えると、投げ込まれる球は1位級でも、実際のドラフト指名では2位や3位ぐらいに留め、その評価以上に使えるじゃないかという期待感を抱く指名の方が妥当のような気が致します。

 今ドラフトではお勧めの投手ということになりますが、その後の観戦で大学選手権での投球は出来すぎだったとわかりました。それでもランナーを背負った時の踏ん張りの利く投球と、勝負どころでのストレートが絶妙なところに決まる爽快感は、まさに上位指名に相応しい投手。一年目から、リリーフでなら大車輪の活躍が期待できます。新人王の、有力な候補の一人ではないのでしょうか。


蔵の評価:☆☆☆ (上位指名級)


(2012年 神宮大会)