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小川 泰弘(創価大)投手 171/79 右/右 (成章出身) 
 




                    「意外に甘いだよな」





この秋わたしは、小川 泰弘 を2度ほどみた。昨年の寸評にも書いたのだが、この投手、物凄く実戦的に見えて、ちょっとプロなら見逃さないだろという、甘い球が多く見られる。学生時代文句なしの完成度と実績を積んできた投手だが、私には何かピンと来るもの感じられない。

(今シーズンは)

 今シーズンも小川は、新東京リーグで 9試合 6勝0敗 防御率 0.31 と素晴らしい成績を残した。しかし神宮大会代表決定戦である横浜市長杯では、東海大に2-0で、初戦で敗れている。本当にレベルの高い相手と戦うと、その甘さが露呈される。

(投球内容)

 「和製ライアン」と呼ばれるように、あの速球王・ノーラン・ライアンを彷彿させるように、足をガバッと引き上げてから投げ込んでくるダイナミックな投球フォーム。ただそのフォームとは裏腹に、ピッチングは実に大人しい。

ストレート 135~140キロ台中盤

 新東京リーグのリーグ戦では、常時135~140キロ台前半と、球速を抑えて投げている。そのため170センチそこそこの体格も相まって、ストレートの威力はやや物足りない。ただ下級生の頃は、全国大会で140キロ台中盤を連発したように、けしてそういった球が投げられないわけではない。横浜市長杯の東海大戦でも、初回140キロ台中盤の速球を連発してみせたが、力を入れて投げると力みからコントロールを乱す傾向にある。この投手、勝負どころで絶妙なところに決めるとか、そういったコントロールはない。ストライクゾーンの枠の中でカウントを稼ぎ、常に精神的に有利な状況を作るのが上手い。ただその過程においては、真ん中高め近辺に甘く入る球も少なくなく、それほど細かいコントロールがあるわけではない。

変化球 スライダー・カットボール・カーブ・フォーク・チェンジアップなど

 球種は実に多彩だが、スライダー・カットボールなどでカウントを整え、低めのスライダーやフォークを振らせるのが上手い。どの球にも絶対的な切れはないが、ボールゾーンに上手く投げる技術があるので、空振りを誘える。また両サイド・緩急・曲がりの違い・高低 と多彩なコンビネーションが作り出せ、相手に的を絞らせない。

その他

 ボールを拾って投げるまでの動作が極めて早く、フィールディングは素晴らしい。クィックも1.1秒前後と素早く、クィックも鋭いものを織り交ぜて来る。投球以外の部分にも優れ、非常に野球センスに優れていることがわかる。

(投球のまとめ)

 どうしても力技をすると、制球を乱す傾向にあります。平常心で投げている時は、プロとしてはやや球威・球速が物足りません。その割に結構甘い球も多く、その辺が気になります。

 しかし球種の多彩さだけでなく、左右・高低と幅広いコンビネーションが可能であり、的を絞らせません。ただ見ている感じでは、青学時代「不沈空母」と称された 高市 俊 を思い出します。奇しくも指名されたのは、同じヤクルトというのも因縁深いものを感じます。


(成績から考える)

4年間投げ続け、相手にも研究されているはずの彼のリーグ戦成績を検証してみたい。

9試合 58回2/3 32被安打 55奪三振 6四死球 防御率 0.31

1、被安打はイニングの80%以下 ◎

 58回2/3イニングで、被安打は32。四死球率は、54.6% であり、極めて優秀。多彩なコンビネーションと球の威力が、相手の連打を許さなかったことが伺える。

2、奪三振は、1イニングあたり 0.8個以上 ◯

 58回2/3イニングで、奪三振は55個。1イニングあたり、0.94個とこれも優秀。先発なら0.8個以上、リリーフならば0.9個以上奪えていれば合格点であるが、図抜けていればイニング数以上は奪えるはず。そういった意味では、ある程度の決め手はあるものの、プロの打者を想定すると絶対的な数字ではない。

3,四死球は、イニング1/3以下 ◎

 58回2/3イニングで、四死球は6つ。四死球率は、10.2%であるから、群を抜いて安定。まず無駄な四死球を与える心配はないが、意外に枠の中でのコントロールは甘く、その辺がプロレベルの打者相手にはどう出るかが気にはなる。

4、防御率は1点台、もしくは0点台 ◎

 大学生の防御率ならば、1点台は最低でも望みたい。そして上位指名候補ならば、0点台の図抜けた成績も、何処かのシーズンで欲しいところ。そういった意味でも、申し分のない成績を残している。

(成績から考える)

 地方リーグとはいえ、彼が残した成績は群を抜いている。ただこれが即、プロの成績に直結するかと言われると疑問が残る。しかしアマ時代に残す成績としては、これ以上を望むのは酷だろう。そのぐらい素晴らしい実績を、この選手は残した。1年からリーグ戦で活躍し、その集中力を最後まで持続した意識の高さは評価されるべきポイント。


(最後に)

 すでに完成されている投手だけに、1,2年内に結果を残したい。ただ今のままだと、全く使えないということはないと思うが、一軍半ぐらいの投手かなという印象は受ける。特に、ロを想定すると、ボールの迫力・コントロールの甘さが拝見できるから。

 ただ試合を作るセンス・投球術などは、プロでも一軍ローテーションレベルに到達しているのは間違いない。特に意識の高い選手なので、壁にぶち当たっても創意工夫で、これを乗り越えて行けるかもしれない。ただ過去の完成度の高い投手たちに比べて、彼が図抜けて完璧な印象はうけない。もし、今のレベルで通用しなかったら? 今後の大きな上積みが望めないタイプだけに、怖さも残る。個人的には、全く使えないということは考えづらいが、物足りなさも感じるので、評価は極めて控えめにしておこう。


蔵の評価:



(2012年 秋)










小川 泰弘(創価大)投手 170/74 右/右 (成章出身) 





                 「まだ3年生だったのか・・・」





大学1年生の頃からリーグ戦で活躍し、2年生からは不動のエースに成長。随分と長くこの選手を見続けているものだから、この選手はもう4年生だと思っていた。しかしよ~くみたら、彼はまだ3年生。その体格からも、ドラフト候補とは考えにくいのだが、年々資質を伸ばしてきた意識の高さからも、最終学年でもチェックを入れてみようと思わせるだけのものがあった。

(投球内容)

 知り合いが言っていたのだが、まさにあの伝説の豪速球投手 ノーラン・ライアン の投球フォームソックリ。セットポジションながら、足を物凄い勢いで空高く体の近くまで引き上げる。

ストレート 130キロ台後半~140キロ台前半

 ボールはしっかり伸びてくるが、球威・球速は驚くほどではない。それでも1年生の頃には、145キロ前後を連発したように、リリーフで登場すれば、いつでもそういった力で押す投球も可能だということだろう。時々真ん中近辺に甘く入る球も見られるが、この秋 71回1/3イニングで、四死球は僅か11個。四球で自滅するようなタイプでは、けしてない。

変化球 スライダー・チェンジアップ・カーブ・カットボール・縦スラ・フォークなどなど

 下級生の頃は、フォークとのコンビネーションで単調な印象を受けました。しかし今は、実に球種が多彩だということ。特に右打者には、縦・横二種類のスライダー中心に、左打者にはチェンジアップを中心に投球を組み立てます。その間にその他の変化球も織り交ぜ、コンビネーションの中に上手く溶けこませてきます。

その他

 ボールを捕球してから、次の動作への移行がものすごく早い。そのため、フィールディングは非常に上手いです。更に牽制なども、右投手ながらアウトが狙える代物。クィックも1.1秒前後で投げ込めるなど、プロに混ぜても平均レベルにあります。下級生の頃は、1.2~1.25秒ぐらいかかっていたことを考えると、こういった細かい部分もまで、常日頃意識を持って高めて行こうという姿勢が感じられました。

(投球のまとめ)

 ボールの微妙な出し入れ、「間」の取り方などをみても、マウンド捌きは社会人のベテラン投手のような風格。

 ただ左打者に対してコントロールが甘くなることが多く、痛打を浴びる傾向が見られます。また新東京リーグでは、71回1/3イニングで、実に68個とイニングに近い数の三神を奪えていますが、プロを想定すると絶対的な決め球に欠けるところが、やや物足りません。

 ただ一年生の頃から比べても、目に見えて球威・球速は変わっていません。しかしその中身は、極めて細部にまでこだわって、追求し進化を遂げてきたことが伺われます。この秋のリーグ戦で、8勝0敗 防御率 0.12 という圧倒的な成績の陰には、彼の人並みならぬ努力の賜物だったと言えるでしょう。

(投球フォーム)

<広がる可能性>

 引き上げた足は、地面に向けて伸ばします。そのため、お尻を一塁側には落とせません。見分けの難しいカーブや縦に鋭く落ちるフォークのような球の習得には、けして適したフォームだとは言えないでしょう。しかし「着地」までの時間を稼ぐことで、そういった球種以外の球は十分に活かせるだけの下地があります。現在は、持ち得る能力を十分生かして、多彩な球種を操ります。

<ボールの支配>

 グラブを最後まで内に抱えられており、両サイドの制球は安定。足の甲でもしっかり地面を押し付けられており、ボールを押し込むことが出来ています。ただ「球持ち」はそれほどではないので、その辺が残念です。あと一歩繊細なボールコントロールに欠けるのは、この指先まで力を伝えきれていないからではないのでしょうか。

<故障のリスク>

 お尻が落とせない割に、カーブやフォークなどの球種も投げ込みます。ただ下級生の時のような、フォークに依存するピッチングスタイルではなくなったことで、あまり負担がかからなくなりました。また降り下ろす腕の角度にも多少無理があるので、肩への負担も少なくありません。故障には十分注意して欲しいのですが、意識の高い選手なので、日頃からの体の手入れは入念にしているものだと考えられます。

<実戦的な術>

 前に足を大きくステップさせることで、「着地」のタイミングは遅らせることができています。また体の「開き」自体は、けして遅くなくボールの出所は苦になりません。ただ大きな足の引き上げなどに気を取られ、なかなか打者としてはフォームに幻惑されてしまいます。

 投げ終わったあとに、腕が体に巻き付いてきません。意外に空振りが取れないのは、この腕の振りに鋭さがなく、速球と変化球の見分けがつきやすいのかもしれません。また「体重移動」も、思ったほど前には体重が乗っておらず、もっと勢いのある球を投げることは可能だと考えられます。彼は、まだまだ完成品の投手ではありません。

(投球フォームのまとめ)

 実戦を司る投球フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の観点で考えると、「着地」以外は、まだまだ改善の余地があり、思ったほど実戦的ではないことがわかりました。この辺が最終学年で改善されてくるようだと、この体格でも手がつけられない投手になるでしょう。

(最後に)

 すでに球威・球速を増すという段階ではなくなり、いかに実戦的な術を磨くかという段階に入ってきている。そんな中、左打者へのコントロールと武器になる変化球の習得という課題が残る。

 また投球フォームにしても、実戦的なフォームという意味では、まだまだ発展途上であることがわかった。しかしこの投手、まだまだ進化して行けるのではないかと、私が実感した一つのエピソードをご紹介したい。

 愛知学院戦、彼は一塁に走者を出すと、自慢の牽制でアウトにしようと執拗に牽制を入れます。そうしているうちに、ボークと判定されました。

 しかしその直後、二塁に進んだランナーに対し、アウトギリギリとなる、鋭い牽制を投げ込みます。普通ボークを取られた直後、それも二塁に進んだランナーに対し、アウトになろうかという鋭い牽制を投げ込む投手はおりません。この気持ちの強さ、今度はボークにならないという確固たる自信は、彼の日頃の練習の裏うちされたものではないかと思います。

 けしてドラフト候補と呼べるタイプの投手ではありませんが、彼が示してきたパフォーマンス・そして野球への取り組みの跡は、そういった括りで区別してしまうのには、なんとも惜しい人間です。来春再び出会う時までに、何処まで進化を続けているのか? それを確認してからでも、その判断を下すのは遅くはないと思います。

(2011年 神宮大会)

 







小川 泰弘(創価大)投手 170/74 右/右 (成章出身) 

(どんな選手?)

 成章時代は、小柄でまとまった好投手タイプといった感じで、それほど伸びしろが残されているようには思えませんでした。しかし135キロ出るか出ないかぐらいの投手だった彼が、神宮では145キロ前後を連発して力で押す姿を見せて非常にびっくりしております。

(投球内容)

 バランスの取れたフォームから繰り出す球は、常時140~147キロを記録。ただリーグ戦の流通経済大との試合を観ましたが、そのときは135~後半ぐらいの球速で、実際神宮での投球を観ても、そこまでは速さは感じないと言うか、打者にとっては苦にならないタイプの速球だと思います。変化球は、スライダーもありますが、大塚同様にフォークとのコンビネーションが目立つ投手です。

 クィックは、1.2~1.25秒ぐらいと平均的ですが、フィールディングもまずまずで、牽制は中々上手いものがあります。元々まとまり型の好投手タイプなので、マウンド捌き・制球・投球術共に安定しており、それなりに野球センスのある選手だと思います。

(今後は)

 ただ「開き」が早く、苦にならないフォームはどうでしょう?これでは、いくら球速をあげても、全国の強豪校・更に上のレベルなどを想定すると、厳しいかなと思います。まだまだ一年生なので、そういった相手に嫌がられる「イヤらしさ」「怖さ」みたいなものを、追求して行って欲しいですね。たとえ145キロ級の球を投げてても、正直あまり意味のある速球ではないように思えます。その辺、もう一歩深く投球を追求して、残りの大学生活を取り組めば、まだまだ良い投手になるのではないのでしょうか。

(2009年・神宮大会)