11ky-30





川上 竜平(ヤクルト)外野手のルーキー回顧へ




 川上 竜平(光星学院)投手&中堅 181/80 右/右
 




                 「野手として急上昇!」





 この夏スカウトの間で、野手として評価が急浮上したのが、この 川上 竜平 。個人的には、今まで観てきてピンと来たことがなく、にわかに彼が上位指名候補だと聞いてビックリした。そこで改めて、この選手の野手としての可能性を検証してみたい。





(守備・走塁面)

 一塁までの塁間を4.5~4.4秒ぐらいで走り抜ける脚力がある。これを左打者に換算すると、4.2~4.1秒に相当する。

通常塁間の目安となるのは、

3.9秒弱  プロで足を売りに出来るレベル

4.0秒前後 足を売りに出来るのかは走塁センスにもよるが、プロでも俊足の部類

4.2秒前後 スカウトが、プロの基準と判断するタイム

4.3秒以下 プロの基準以下となり、割り引いて考える

となる。上記の数字は、左打者の目安であり、通常右打者の場合、タイムから、0.3秒を引くと、同等の走力が計測することが出来る。ただし、セーフティバントや左打者が一二塁間に引っ張ったような、最初から一歩目のスタートをきっているような場合は、参考資料とはならない。

川上の脚力は、プロの基準レベルから少し上回るぐらい。ただこの夏の青森予選6試合で3盗塁を決めるなど、その走力以上に積極的な走塁が目につく。プロで足を売りにすることはないと思うが、けして動けない選手ではない。

中堅手としては、この脚力を生かしまずまずの動きを魅せる。特別守備範囲が広くは見えないが、ボールを追いながら捕るのが上手く、球際での強さが目立つ。見た目のごつさとは違い、守備も基準を満たすだけのものがある。特にそのキャッチングに加え、投手としても140キロ台連発できる強肩の持ち主であり、プロとしては鍛えてみたいと思われる身体能力の持ち主だ。もう少し動作にキレは欲しいが、将来的には守備でアピールできる外野手に育つ可能性は秘めている。



(打撃内容)

甲子園の緒戦では、左中間への圧巻の飛距離に加え、ランニングホームランなど良いところを見せつける形となった。逆に二回戦では、良いところを見せつけられないなど、相手よって打てる時と打てない時があるように思える。打席での雰囲気は、何処か高校時代の清原和博を彷彿とさせる。

<構え> ☆☆☆

スクエアスタンスで両足を揃え、グリップの高さは平均的。腰を深く沈める独特の構えで下半身に安定感があり、両目を見据える姿勢や全体のバランスはそれなりといった感じ。ただ少し構えに固さが感じられ、もう少しリラックスして構えられる方が良いのではないのでしょうか。

<仕掛け> 遅すぎる仕掛け 投手のリリース前後に始動

投手の重心が沈む時に足のカカトを浮かし、リリースの直前に小さく踏み出す「遅すぎる仕掛け」を採用。この仕掛けは、多くの欧米人やキューバ人などは、このタイミングで始動する。狙い球を絞って、打てる球を引っぱたく、そんなスタイルを取る。ただこのようなスタイルは、非常に脆く打てる球は限られる。

 また始動~インパクトまでの時間が極端に短いので、スイングに不可欠な動作を端折ることで、インパクトを間に合わせようとすることになる。それでも打ててしまう欧米人のヘッドスピードと筋力の強靱さは、残念ながら日本人には真似出来ない。日本人の場合このタイミングでは、プロレベルの投手を相手には通用ないと私は考えてている。ただもしこのタイミングの始動を使いこなす日本人が現れた時、パワーで世界のスラッガーと対峙出来る存在になっているだろう。

<足の運び> ☆☆☆

足を上げてから降ろすまでの「間」がほとんどないので、打てる球は極限れた一点のみになる。そのためあらかじめ狙い球を絞り、その球逃さず叩く「鋭さ」が求められる。そういった「鋭さ」は悪くないが、打てる時と打てない時の波があるのは、この極端な仕掛けによるところが大きいようだ。勿論これを、将来的に改善して行くことは充分可能だろう。

ベース側にしっかりインステップして踏み込みます。この選手、外の球でもセンターからレフト方向に引っ張り込む傾向があり、右方向にはじき返すと言う打撃は殆ど観られません。外の球でも引っ張る感覚で振る、かなり難しい打撃を行いますが、それを可能にする踏み込みの深さと腕の長さがあります。そのため中途半端な外角ならば、引っ張り込まれて長打を喰らわせます。

それを可能にするのは、踏み込んだ足下がブレない下半身の安定感。ただ打てるタイミングが限られている上に、引っ張り込める球には限界があるので、打てる球種やコースは限定されていると考えて良いでしょう。この幅の狭い打撃をいかに改善して行けるのかが、今後の課題です。

<リストワーク> ☆☆☆

打撃の準備である「トップ」(バット振り出し始める場所)を作るのは、けして遅くはありません。始動が遅すぎる欠点を、ここで補うことで全国レベルのスピードにも対応してきました。バットの振り出しも上から最短距離にボールを叩く感じであり、強打者としては珍しいタイプです。そのためスイングの弧は、けして大きくはありません。それでも打球を飛ばせるのは、一つはボールを手元まで引きつけて叩くこと。そしてもう一つは、フォロースルーの使い方が上手く、ボールを上手く運ぶ後押しができている点です。それほどヘッドスピードが鋭いとか、打球が極端に強いわけではないのですが、上手く乗せて運べる打球や打ち終わりの形は、清原和博氏のフォームによく似ていると思います。そういった意味では、将来的に長距離砲としての可能性も高いのかもしれません。

<軸> ☆☆☆

足を上げ下げする割には、頭が動くタイプかなと思います。すなわち自分からボールを追ってしまうところがあるのかもしれません。そのため体の突っ込みには、充分注意したいところ。

体の開きは我慢でき、軸足には安定感を感じます。甲子園の時は、軸足が地面から真っ直ぐ上に伸びており、上手く軸を起点に回転できていました。

(打撃のまとめ)

仕掛けの遅さや打球の方向に偏りがあり、現時点では打てる球が限られている傾向にあります。ただ仕掛けのタイミングを若干早めることで改善できそうですし、スイング軌道にも大きな欠点はありませんから、それほど大きくいじらなくても修正は可能だと判断致します。

ボールを飛ばせる能力もありますし、ボールに対応する能力も悪くありません。多少時間はかかるかもしれませんが、上で通用する打者になる可能性は秘めていると思います。





(今後は)

個人的には、ミートセンスにあまり非凡なものは感じず、今までピンと来るものがありませんでした。またかなり限定された打撃からも、プロ入り後時間はかかりそうかなと言う印象は受けています。

ただこういった大型打者でありながら、守備・走力が一定レベル以上のものがあり、我慢して起用してもらえる下地があります。またプロの中でも、将来的に長距離打者になれる可能性もあることを考えると、希少価値のある素材ではないかと思います。必ず大成するかと言われると疑問ですが、その可能性を秘めた選手として、高校からぜひプロに入ってきて欲しいと思います。日本球界に不足する、真の長距離砲を期待します。


蔵の評価:


(2011年夏 甲子園)