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北川 倫太郎(楽天)外野手のルーキー回顧へ



 北川 倫太郎(高知・明徳義塾)左翼 185/82 右/左





                    「持っている男に!」





 1年秋から明徳の4番に座り、全国トップクラスの打撃を魅せつけてきた 北川 倫太郎 。しかし選抜では、打力の高さを示すものの、好機でヒットが出なかったり、勝利に結びつかないタイムリーを放ったりと、巡り合わせの悪さが目についた。むしろチームメイトの 先田 弦貴 の方が、好機の打撃では目立っていた。

また彼自身、よりスカウトにアピールすべく、選抜では長打力を意識した打撃にフォームを改造し、少し打撃が雑になっていた部分もあった。そんな北川が、最後夏どんなプレーを魅せてくれたのか検証してみたい。


(打撃内容)

 春~夏までの一番の成長は、精神面ではないのだろうか。夏の高知予選では、怪我のため本来の打撃ではなかったという。しかし集大成での甲子園では、彼の持ち味が思う存分発揮された。注目される中で、本塁打。打って欲しいところで、結果を残す。そんな圧倒的な打撃を魅せつけた。精神的にも何か、怪我を乗り越え一回り大きくなったのかもしれない。甲子園では、深い左中間やバックスクリーン横などに本塁打。やっぱり北川は、ただものではないことを、スカウトにも充分アピールできたはず。ましてAAA選手権の日本代表メンバーに選出され、木製バットでも安定した打撃で存在感を示して魅せた。その打撃を支えた、打撃フォームについてまず考えてみよう。

<構え> 
☆☆☆☆

 スクエアスタンスで両足を揃えて、グリップを高めに添えた強打者スタイル。腰の据わり具合もよく、両目でしっかり前を見据える姿勢もよく、非常にバランスの取れた好い構えだと言えよう。打席でも高い集中力が、その立ち姿からも伺える。

<仕掛け> 平均的な仕掛け 投手の重心が下がってきて底に到達したときに始動

 これが、最も平均的なタイミングでの始動となる。このスタイルは、ある程度の対応力と長打力をバランス良く兼ね備える万能型。主に中距離打者や打点を多く稼ぎたいポイントゲッターが多く採用。ただ一見完璧そうに見えるこのスタイルも、実はアベレージ打者なのか、長距離打者なのか、どっちともつかずの特徴の見えにくいスタイルに陥りやすい。個性のない打者の多くが、この仕掛けを採用している。

 彼の場合、元々このタイミングで始動していたのだが、選抜では「遅めの仕掛け」で始動するようになり、より長打力を意識した仕掛けに変わっていた。しかし最後の夏には、元のタイミングに戻すことで、彼の持ち味が遺憾なく発揮できている。甲子園で本塁打は連発したものの、その本質は「中距離打者」だと見て好いだろう。

<足の運び> 
☆☆☆☆

 足を引き上げて回み、ベース側に強打者らしくインステップして踏み出します。足を上げてから降ろすまでの「間」が取れているので、いろいろな球に対応できるタイプ。外の球でもしっかり叩けるように、ベース側にインステップしてきます。そのふみ込んだ足元も、インパクトの際にブレません。

 選抜の時は、この足元がブレるなど、上半身と下半身のバランスが崩れており、打撃も雑になっていた印象でした。しかし最後の夏には、しっかり修正して甲子園に戻ってきました。

<リストワーク> 
☆☆☆☆

 打撃の準備である「トップ」を、早めにつくることができています。秋ぐらいまでは遅かった欠点を、選抜までに修正。その形は、夏も健在でした。これにより、速いボールにも振り遅れることなく叩くことができます。

この選手の場合は、上からミートポイントまで振り下ろして来るダウンスイング。最短距離でボールを当てられる反面、ボールを捉える幅はレベルスイングよりも劣ります。その分、ボールを的確に射ぬくミートポイントの確かさが求められます。しかし彼の打撃技術の高さで、ダウンスイングでも的確に芯で捉えることができています。

 また最短距離でボールを捉える一方で、捉えたボールを大きな弧とフォロースルーで、しっかり振り切り叩きます。けしてボールを高く上げて運ぶスラッガーではないのですが、バットを捉える角度に工夫を施したのか?打球が上がるようになりました。上手くボールを捉えたときは、スタンドインの確率が増してきたように思えます。

 打席での雰囲気だけでなく、ヘッドスピードにも鋭さを増し、強打者としての技量を更に高めた夏でした。

<軸> 
☆☆☆☆

 足の上げ下げが静かな選手なので、頭の動きは小さく目線は大きくブレません。踏み込んだ足元もブレなくなり、開きを我慢してボールを引きつけて叩くことができています。軸足も地面から真っ直ぐ伸びており、波の少ない安定した打撃が期待できます。

(打撃のまとめ)

 春~夏にかけては、もう一度原点に戻り、基礎的な部分をしっかり見直してきました。仕掛けも彼らしい中距離スタイルに戻し、足元の磐石さも取り戻しています。結果打撃の精度が上がり、無理に長打を狙わなくても、自然にヒットの延長線上が本塁打という、中距離打者らしい長打も増え、それが好機への打撃にもつながったと考えられます。この選手の良さは、自分の身の丈を冷静に判断し、今できる中で最大のパフォーマンスを見せようという割り切りと意識の高さにあるように思えます。

(守備・走塁面)

 1年秋に初めて観たときは、守備も下手で肩も弱く打撃も中距離タイプで、ドラフト候補としては厳しいのではないかと思いました。しかしその後は、下手は下手なりの、肩が弱ければ弱いなりのプレーを心がけられるようになりました。更に今や打球への周り込み、クッションボールの処理、中継への素早い送球など、実にソツなくプレーできる実戦力を養いました。けして上のレベルでセンターや右翼が守れる守備力や地肩などはないのですが、左翼なら任せておけという安心感を与えるまでに成長。左翼手ならば、上手い部類にすらなってきたように思えます。3年間で一番成長したのは、この守備の部分だと言えるでしょう。

 走塁に関しては、足の怪我もありながら、高知予選の5試合で2盗塁。実戦の中でも、少しでも試合に貢献しようという意識が感じられます。走力自体はない選手なのですが、意識の高さで、今自分ができることを冷静に判断し、行って行ける積極的な姿勢が見られます。


(最後に)

 守備・走力でのアピールに欠け、打撃も中距離タイプの左打者。プロで最も多くあぶれてしまうタイプの選手であり、正直春までは、プロ入りは厳しいだろうなと思っておりました。

 しかし高校球界トップクラスの打撃技術を持つ選手であり、最後の夏には好機での強さ、打球への角度もつき、木製バットでの順応性も証明して見せることで、大きくプロ入りへ近づいた判断致します。

 また守備・走力・打撃においても、自分の身の丈にあったプレーを実戦できる選手。課題を少しずつも確実に、克服してきた意識の高さなど、野球へ向かう姿勢が素晴らしいです。

 「心技体」3つの観点からみると、野球への意識の高さ・勝負どころでも結果を残せるようになった精神的な成長からも合格点。技術的にも、春の雑な部分が解消され、原点に戻ることで技術の高さを取り戻しました。しいて言えば、プロに混ぜてしまうと埋没してしまいそうな個性に欠ける資質が、どうなのかな?という不安は、未だに残ります。しかしそれを超えて行けるだけの逞しさを、彼は今身につけつつあります。

 恐らく高卒ルーキーながら、一年目からファームでレギュラーとして出場して行ける技量は、すでに備わっていると思います。そこで求められるもの、足りないものを冷静に見極めるセンス、その欠点克服に挑んで行ける努力できる才能。プロ世界でも、戦い抜くだけの精神的な強さも身につけつつあるだけに、春からの評価を覆し、この選手を指名リストに加えることに致しました。順位にこだらわらずプロ志望届けを提出すれば、ドラフト会議で指名されることになるのではないのでしょうか。彼のような選手が、どんな自分の光りを放ってくれるのか、ぜひプロの世界で見てみたいと思います。


蔵の評価:
 (下位指名級)


(2011年夏 AAA選手権)










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北川 倫太郎(高知・明徳義塾)左翼 185/82 右/左

(どんな選手?)

 名門・明徳義塾において、1年生の頃から中心選手として活躍する強打者です。特に技術的には、秋の時点では全国でもトップクラスの野手でした。しかし神宮大会では、持ち味を充分発揮できずに終わり、これまでの頭一つ抜けた実力にも、陰りの見えた大会となりました。

(守備・走塁面)

 それでも課題であった左翼守備は、下級生の頃に比べると格段に上手くなりました。現時点でも際立って上手いとは思えませんが、すでに上のレベルでも左翼手としてならば破綻のないキャッチング・打球への反応を身につけつつあります。地肩も、以前はかなり弱い印象があったのですが、現在は中の下レベルには到達しているように思えます。まして高校生の中に混ぜれば平均レベルはありそうです。ポテンシャルの高い選手が集まる明徳義塾だからこそ左翼を務めている感じで、並の学校ならば中堅手でも任されているのではないのでしょうか。

 一塁までの塁間も、かなり走る意識が変わってきました。そのことは、新チーム結成以来の35試合で10盗塁を決めていることからも伺えます。以前は足は論外と言った印象でしたが、上のレベルでも破綻のない走力を今は身につけつつあります。

(打撃内容)

 守備・走力が破綻のないレベルまで引き上げることに成功した分、圧倒的な打力が薄れてしまった点は残念でした。元々スラッガーではないのですが、技術的にも頭一つ抜けた感じがしていたのですが、甘い球を打ち損じたり、スイングに迷いを感じさせる神宮大会でした。

(今後は)

 守備・走力が低い中距離タイプだけに、よほど選抜で打撃でモノの違いを魅せないと、ドラフト候補としては厳しいかもしれません。しかし持っている打撃の潜在能力は、世代でもトップクラス。センバツでは、圧倒的な存在感を示しても全然不思議ではありません。ぜひ一冬超えて、その凄みのある打撃で他の追随を許さないものを魅せて欲しいと期待します。


(2010年 神宮大会)






どんな選手?)

 1年秋から、チームの4番を任される強打者です。特に広角に打ち返す中距離打者なのですが、ボールをインパクトの際にしっかり押し込める打撃には、見るべきものがあります。凄みよりも、上手さが光るタイプです。

(守備・走塁面)

 ただこれだけの打力を誇りながらも、一塁まで塁間は4.6秒前後と、左打者としては遅いです。その辺は、高知予選の5試合で、盗塁0個の数字でも証明。けして、足を売りにできるタイプではありません。

 以前よりは、打球に対する反応・キャッチングは上手くなってきました。それでも高校生としては並レベル、上のレベルを意識すると中の下レベルぐらい。また肩も、中の下以下であり、けして強いとは言えません。そう考えると、守備・走力の能力は低く、来年ドラフト候補として注目するには、スペックが物足りないことは否めません。

(打撃内容)

 物凄くボールを捉えるミート力が非凡だとか、ボールを飛ばす能力が図抜けていると言うよりは、甘い球を逃さず押し込む「鋭さ」に磨きがかかってきました。

 スクエアスタンスで、懐深くバランスよく構えます。仕掛けは「平均的な仕掛け」を採用するなど、以前は「遅すぎる仕掛け」を採用していたのですが、だいぶ動作に時間的余裕が生まれました。打撃に「間」が取れるようになり、緩急などの対応が上手くなり、打撃の幅が大幅に広がってきています。真っ直ぐ踏み込んだ足下が以前はブレていたのですが、今はカカトを地面にめり込ませることで、だいぶロスが減り打ち損じも減りました。

 少しバットを「トップ」の位置まで持って来るのが遅れ気味でしたが、ボールを上から叩けるようになり、以前よりもスムーズにボールが捉えるられるようにスイング軌道を修正。そこからインパクトの際にしっかりボールを押し込みつつ、大きな弧を描いてボールを叩きます。フォロースルーの形などを見ると、遠くにボールを運ぶタイプと言うよりは、強い打球で野手の間を抜けてゆく中距離タイプ。あとは、目線のブレが大きいので、頭の動きが小さくなると、技術的には極めて完成度の高い打者になると思います。

(今後に向けて)

 昨秋に比べると、見違えるほど打撃技術を向上させて来ております。そういった意味では、同じ2年生の左の強打者である中内 大登(英明)や丸子 達也(広陵)などと比べても技術は、完全に上です。

 ただ守備・走力のレベルが低いのと、本質的に中距離打者と言うポイントからも、来年プロに行けるタイプかと言われると疑問が残るところ。大学などで実績を残すことで、その実力を証明してゆくタイプかもしれません。ただ現2年生世代では、すでに全国トップランクの打力であるのは確かで、これからもその進化ぶりを期待して見守ってゆきたい選手でした。


(2010年・夏)




楽天



(どんな選手?)

 1年秋には、チームの4番を任されている大型野手です。広角に打ち返す強打が、この選手の魅力です。

(守備・走塁面)

 一塁までの塁間は、4.65秒前後と左打者としては、かなり遅い部類です。実際のプレーを見ていると、もう少し早くは走れそうに見えました。ただ足を売りにするとか、そういったタイプではありません。

 守備も、地肩はよくわかりませんでしたが、左翼の守備は中の下ぐらいかなと思いました。やはり打撃で起用し、守備・走力は目をつむるといったタイプだと思います。ただ大型ですが、全く動けないと言うタイプではないように思えます。あと2年間、鍛え方次第では、破綻のない守備力は身につけられるのではないのでしょうか。

(打撃内容)

 前足を軽く浮かし、グリップを高めに添えた強打者スタイルです。気になるのは、やや打席で力み過ぎ。もう少し肩の力を抜いて、リラックスしたり、自分のリズムで打席に入ったりする意識を持ちたいです。

 仕掛けも、リリース近くで行うので「やや遅すぎる仕掛け」に属します。幾分動作に余裕を持たせる意味でも、少し始動を早めた方が良いと思います。足を小さくステップさせますが、「間」がない選手なので、打てるポイントは限られております。その打てるポイントを如何に逃さず叩くか、そこにかかっている選手ですね。

 残念なのは、そのために必要なインパクトの際の足元のブレを抑えることが出来ておりません。そのため打ち損じも多く、確実性に欠けるのでしょう。今は、非凡な肉体のポテンシャル・存在感で起用してもらっておりますが、今のままだと長い目で見て、信頼を得られる可は疑問です。

 打撃の準備段階である「トップ」を作るのは遅くないのですが、ややインパクトまでバットが外回りの軌道を辿ります。もう少し内側からバットを出すと言いますか、上から降ろす意識を持てると、ミートポイントまでのロスが減ると思います。それでもバットの先端が下がらないように意識は出きているのですが、スイングが波打ったり、スイングの弧・フォロースルーなどは小さめになったりしがちで、強打者にしては小さなスイングになってしまっております。

 打球は、左中間に伸びて行く打球が持ち味。ただ、まだスイングにキレに欠けるなど、まだまだ体に頼ったスイングをしているのが気になります。体の開きを抑えつつ、しっかり叩けるスイングを身につけて欲しいところです。

(今後は)

 すべてに課題の多い選手ですが、小柄な選手が多い明徳において、その存在感はピカイチです。技術的な問題はあっても、実戦でも破壊力のある打撃を魅せてくれております。スケールの大きな打撃をする選手として、その成長を期待したい強打者でした。


(2009年・秋)