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歳内 宏明(阪神)投手のルーキー回顧へ



 歳内 宏明(福島・聖光学院)投手 182/82 右/右
 




                 「最後は、馬力だ!」





投手に一番大切な要素って何だと思います?ボールの伸びやキレ?いやそうではありません、最後は球のそのものの力です。私がかけだしだった頃、スカウトが選手にこうアドバイスしていのを耳にしたことがある。そして、その球の力を生み出す力こそ馬力だと言うことを、今年の夏ほど強く実感した年はなかった。甲子園で優勝した吉永 健太朗(日大三)投手は、まさにそれを象徴する投手だった。

また昨年まで個人的にはピンと来なかった歳内が、ハッキリプロと言うものを感じさせてくれたのは、間違いなく、彼にその馬力が備わってきたからだろう。体の底から沸き上がってくるような地力こそ、プロで最も大切な要素だと私は考える。





(投球内容)

この夏一年ぶりに彼をみて驚いたのは、線の細さが気になった体格がこの一年で見違えるほど逞しくなっていたことだった。そのため故障を誤魔化しながらの投球が明らかでも、最後の最後は彼の持つ馬力の違いでピンチを潜り抜けて行く力強さに心打たれるものがあった。

ストレート 130キロ台後半~MAX144キロ

甲子園での2試合、生での一試合含めて、この夏3試合ほど彼の投球をみた。けしてストレートのキレや伸びはイマイチだったが、多少甘いゾーンでも相手を押し込める球威が彼のストレートには出てきた。昨年までは、スピリットに光る落差はあっても、ストレートの球威に欠け物足りないものがあったからだ。アマの好投手から、プロの球に成長していたのだ。

変化球 スピリット・スライダー・カーブなど

昨年までは、スプリットばかりを多投していため、試合の中盤になると相手にも馴れられ、それでもスプリットをピンチで多投する、汲々となるようなピッチングだった。しかし今年は、スライダーやカーブの割合を増やし、追い込んだらスピリットやストレートで仕留めると言う、ピッチングに幅が出てきた。一試合を、トータルで組み立てられるようになってきたのだ。

ストレートとスライダー、あるいはたまにカーブ織り交ぜながら、ボールを両サイドに散らせて来る。追い込むと自慢のスピリットで面白いように空振りを奪う。わかっていても打てない、それが彼のスピリットだ。

ただ彼の投球をみていると、ヒットを打たれるのは、甘く入ったスライダーやカーブであることが多い。ストレートを更に磨くことも不可欠だが、こういった武器ではない二つの変化球の精度も、より高めて行きたいところ。

その他

ピッチングの幅が広がって、精神的にも余裕が生まれたのか、実に冷静に投球できるようになってきた。また下半身の安定が、両サイドへの投げ別けも安定させ制球力も改善。どちらかと言えば、今でも力投派のリリーフタイプではあるが、自信に裏打ちされた落ち着いたマウンド捌き、経験豊富な投球術を魅せるようになっている。

牽制も、基準以上の鋭さがあるし、昨年は球種によって到達タイムに波があったクィックも、1.1秒前後で安定して素早く投げ込めるようになってきた。相当細部まで考え、自己を向上を図ってきた一年であったことが、その投球から伝わって来る。

(投球のまとめ)

課題だった単調な投球の改善、物足りなかったストレートの球威に、アバウトだった制球にも細かさが出てきた。更に元々持っていたスピリットのキレは健在で、この球はプロでも通用するキレがある。あとは、この球を生かすためにも、ストレートのキレ・球速に磨きをかけることが求められるだろう。

(投球フォーム)

大きく足の横幅を取って、勢いよくノーワインドアップで投げ込んで来る力投派。その投球フォームを見る限り、短いイニングで持ち味を発揮する、リリーフタイプの投手との印象を受ける。

<広がる可能性>

引き上げた足を、比較的高い位置でピンと伸ばします。そのためお尻の一塁側への落としはそれなりで、体を捻り出すスペースが確保できています。すなわち見分けの難しいカーブやフォークのような縦に鋭く落ちるフォークのような球種を無理なく投げられるフォームなわけです。ただスピリットと言う少し握りが浅い球を使っているのが一つミソでして、彼のお尻の落としは際だっていいわけではありません。その中で体の負担の小さな、スピリットにしているところは、大変興味深いわけです。それでもフォーク級の効果を、作り出しているのは見事としか言えません。

<ボールの支配>

グラブは内にしっかり抱え込めているわけではありませんが、最後まで体の近くにはあります。そのため大よそ両サイドに投げ別けることができています。

足の甲での押しつけは、それほど長い時間押しつけられていません。そのためストレートが、やや上吊る傾向が見られます。ただ彼の場合、スピリットで低めに意識が行くので、高めの球は意外に効果的です。むしろ高めにでも、もっと伸びやキレのある球が行くようになると、今の両サイドの投げ別けと低めだけでなく、高めと言うゾーンを意識させることができ、投球の幅は大きく広がるでしょう。

「球持ち」は、それほど良いわけではありません。指先まで力を伝えていう繊細な投球よりも、あくまでも一球、一球の威力で勝負して行くタイプになると思います。

<故障のリスク>

あれだけ縦の変化を多投しているので、肘への負担は相当なものでしょう。例え握りの浅いスピリットで負担を軽減させていても、大きなリスクがつきまといます。実際に投球フォームをみていても、ボールを持っている肩が上がり、グラブを抱えている肩が大きく下がってリリースしています。これは、完全に無理して投げている証であり、将来的には肘だけでなく肩をも痛めてしまうことも否定できません。

ただ彼は、縦の落差が命であり、この縦の変化が鈍るようなフォームへの移行は難しいでしょう。できるだけ肩への負担がかからない投げ方の模索も大事ですが、それこそカーブやスライダーなどの少し力を抜いて投げられる球を増やし、スピリット多投の投球を改善することが、体への負担を軽減させる一番の方法委ではないのでしょうか。

<実戦的な術>

背中を少し後ろに傾けつつ、前にステップしてきます。「着地」までの粘りはそれほどでもなく、体の「開き」も少し早くボールが見やすいタイプかと思います。そのため彼のストレートは、それほど打者からは苦になりません。

縦の変化をしっかり行うために、腕の振りは体に絡んできています。打者からは、ストレートを投げたのか変化球を投げたかの区別は、なかなかつかないと考えられます。「体重移動」も、思ったよりも上手くできているので、ボールに体重の乗った球は投げられています。140キロ前後でも、意外に長打を浴びないのは、彼の球に球威を感じさせるだけのボリューム感があるからだと考えられます。これは、昨夏からの大きな成長です。

(投球フォームのまとめ)

やや「開き」の早いフォームが気になります。「着地」や「球持ち」も平均的で、特に際だつものはありません。ただ「体重移動」はしっかりできているので、将来的にもっと良いストレートを投げられる可能性は充分秘めていると思います。

制球も繊細さはないにしろ、大崩れするような大きな欠点はありません。あとは、打ち易いフォームの改善に、もう少し工夫が欲しいところでしょうか。

(今後は)

この一年間で、私が昨年から課題とあげていた、単調な投球、体の線の細さ、ストレートの球威の無さなどを、見事に改善してこられました。その改善のために、意識的に体重を10キロ増やすなど、計画的に物事に取り組める意識の高さと忍耐力は高く評価いたします。

それでも故障への不安と、ストーレートの球速、キレの無さなどの課題も、まだまだ残ります。恐らくスピリットのキレに関しては、プロでも充分通用するでしょう。あとは、この球が見極められないための工夫が求められます。そのことに成功すれば、球界を代表するリリーバーに育つのではないのでしょうか。

ただその前に、体がついて行かないで故障し、持ち味が発揮できないまま終わる危険性も否定できません。そういった危ういバランスの上に立っているのと、投手としての総合力に、まだ物足りものを感じます。そのためドラフト上位指名で指名するのには、怖いなと言う気が致します。恐らくプロ志望届けを提出した場合、3位前後での指名になるのではないのでしょうか。将来クローザーが欲しい球団にとっては、充分魅力溢れる素材だと思います。


蔵の評価:☆☆ (中位指名級)


(2011年夏・甲子園)












歳内 宏明(福島・聖光学院)投手 181/72 右/右


(どんな選手?)

 高速スプリットを武器に、名門・広陵を破り、この夏一気に株を上げた投手です。来年のドラフト候補として、早くも期待を集めております。





(投球内容)

 勢いと角度を感じさせる常時140キロ前後のストレートは、2年生としては上位ランクの球を投げ込みます。変化球は、スライダーよりも圧倒的にスプリットのような高速フォークとのコンビネーションが主。クィックは、1.1~1.3秒ぐらいと、結構バラツキを感じます。牽制も並で、それほどマウンド捌き・投球技術も高いとは思いません。やはりセンスよりも、球そのものの力で勝負するタイプなのでしょう。

 ただ気になるのは、線がまだ細い上に、少し遠回りにテイクバックされてくる投げ方。来夏までに、故障をしないで順調に乗り越えて行けるのかには不安を覚えます。制球も適度に両サイドに散らせるのですが、フォークボーラーに陥りやすい、球種の少なさが目立ち、投球が苦しくなればなるほど窮屈に感じられる点を、今後改善して行けるのかが気になります。

(今後に向けて)

 確かに2年生としては、世代でもトップクラスの技量をすでに示せております。ただそれが、順調に来夏まで続くかと言われると、いろいろな面で心配になるタイプです。そうならないためにも、体をしっかり作り、負担の少ないフォームを研究し、投球の幅も広げて行って欲しいと思います。まだまだ来年の目玉と呼べるような、絶対的なバランスの上に成り立っている投手ではありませんから。


(2010年・夏)