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伊藤 拓郎(DeNA)投手のルーキー回顧へ



伊藤 拓郎(東東京・帝京)投手&一塁 185/81 右/右 





                「なんだかとても脆く見えますが・・・」





 横浜が9位で指名した 伊藤 拓郎 を 横浜は野手としても高く評価していたと言う。私自身彼を野手として観たことがなかったのだが、今回は改めて見なおしてみた。今回は、野手 伊藤 拓郎 を考えてみたい。


(守備・走塁面)

 投げない時のポジションは、ファースト。ただ急造一塁手としていった感じで、キャッチングもぎこちなく、危なっかしい。また細かいポジションニングなども、上手く理解していないようだった。ただ慣れていないだけと言うよりは、根本的に一塁手としての適正が高いようには見えない。球団としては140キロ台を連発できる強肩も生かして、外野手として考えているようだ。

 一塁までの塁間を、4.5秒前後で到達。これを左打者に換算すると、4.2秒に相当しプロの基準レベル。その動作を見ていると、あまり動けるタイプには見えないがタイムは悪くない。実際にこの夏の東東京予選の8試合で、投手ながら5盗塁を決めている。ただ上のレベルで、足を売りにするほどではないように思える。

 まあ守備のセンスは疑問だが、走力・地肩の身体能力は、左翼ならば問題ないだろう。


(打撃内容)

 この夏の東東京大会では、8試合で 1本 8打点 打率.440厘 を残し三番打者として活躍。確かにあの体だから、ボールをしっかり捉えれば飛んで行く。しかし柔軟性に欠け、非常に脆い印象は否めない。

<構え> 
☆☆☆

 両足を揃えたスクエアスタンスで、グリップの高さは平均的。腰の据わり具合・両目で前を見据える姿勢などもよく、全体にバランスが取れている。ただ構え全体が固く、柔軟性に欠けるの印象は否めない。もう少しリラックスして、自分のリズムなども刻みたいところ。

<仕掛け> 遅めの仕掛け

 投手の重心が下がりきって、前に移動する段階で始動する「遅めの仕掛け」を採用。この仕掛けは、長距離打者が採用する仕掛けとなる。またこの選手は、右に左にセンターへと、どの方向にも打球を飛ばせる。

<足の運び> 
☆☆☆

 ボールをよ~く引きつけてから、足を軽く上げて始動する。始動~着地までの「間」は短いので、打てるポイントは限られる。あらかじめ狙いを定め、その球を逃さず叩く「鋭さ」が求められる。

 引き上げた足は、ベース側に踏み込むインステップを採用。外角の球を強く意識したスタイルで、外の球を強く叩くことができる。インパクトの際にも足元がブレないので、右方向にもしっかりはじき返すことができる。

<リストワーク> 
☆☆☆

 打撃の準備である「トップ」は、遅れずに作れている。ただ「トップ」自体はあまり深くないし、しっかり「トップ」を作れているという感じではない。打撃の準備としては、少し中途半端なまま降りだしてくる。

 スイングも少し遠回りを軌道しながら、バットの先端を下がらないにして、最後まで振り切る。そのためドアスイングというほど、大きなロスは感じられない。フォロースルーの段階でも、グリップを高く引き上げてボールを運ぶといったタイプではなく、最後までしっかり振りきって来るスイング。そのためボールが上に上がるよりも、強い打球で野手の間や頭の上を越すような当たりが多くなるのではないのだろうか。現時点では、スイングを見るかぎりは、長距離砲ではない。

<軸> 
☆☆☆☆

 足の上げ下げは静かなので、目線の動きは小さく安定。体の開きも我慢でき、軸足にも強さと安定感を感じる。柔軟性はないが、体軸の安定感は強く感じられる。

(打撃のまとめ)

 体の強さと軸のしっかりした打撃は認めるが、柔軟性・ボールを捉えるセンス・ボールを見極める能力などに特別なものは感じられない。特に膝が硬いので、低めに投げておけば大丈夫との印象を強く受ける。


(今後は)

 投手としてダメだったら、野手でもと言う感じの指名だろうか?しかし私には、野手としての素質はあまり感じない。まあ肩や足は悪くないのだが、この固さはかなり打者としては致命的なのではないのだろうか?それでも「仕掛け」と「軸足の強さ」からは、長距離打者の可能性は感じられる。あとは、フォロースルーなどを上手く使い、ボールを上手く運べるようになる、オーバーフェンスも増えてくるかもしれない。

 またこの選手、性格的には野手というよりは投手タイプだと思う。野手のように攻撃的でガンガン行くというよりは、きめ細かく心根の優しい青年といった感じだからだ。

 とにかくまずは、投手として育てて欲しい。ただ投手としてもある程度形ができている選手なので、2年ぐらいやってメドがつかなければ、野手へのコンバートもありかなとは思うのだが・・・。いずれにしても、投打共にかなり厳しいプロ生活が待っているだろう。心して、プロの世界に飛び込んで来てもらいたい。


(2011年・夏)


 




 伊藤 拓郎(東東京・帝京)投手 185/81 右/右
 




                「結局本質的には変わっていなかった。」





 伊藤 拓郎は、復活したとか、思っていたよりもいいじゃないか。そんな声が、東東京大会を勝ち抜いた、彼の評価になりつつあった。しかし私は、自らのツィッターの中で、春と根本的には何も変わっていないと指摘していた。その通り、甲子園では一旦リズムを崩すと一人相撲をとってしまう悪癖を覗かせ、4回途中で降板することになる。伊藤の復活神話は、無残に崩れ去った。

 私は、春季大会で寸評を残したあと、日米野球東京都選抜で登板した投球も生でみて、更に東京都予選の模様もTVで見ていた。今回の甲子園での投球も含めて、彼の最終寸評を更新したいと思う。


(投球内容)

 非常に今のフォームは、試行錯誤の末出来上がったフォームなのだろうが、小手先で投げている印象が強い。1年夏に登場してきた時に、甲子園でいきなり148キロのストレートを投げ込んで魅せたが、その球速を最後まで取り戻すことはできなかった。

 今は、制球を重視し、常時140キロ前後~145キロぐらい。以前はキレがなく球威型の球質であったが、今は以前よりもボールがピュッと切れるようになってきた感じがする。ただ幾ら以前よりも制球重視になって球質が変化したとはいえ、彼のストレートは並の高校生では振り遅れるだけの勢いがあるのも確か。

 スライダーの曲がりも非常に鋭いのだが、力むと打者の遠くから大きく曲がるので、あまり実戦的ではない。力が抜けて、打者の体の近くで程よく曲がるのが、彼の良い時のスライダー。それにチェンジアップの威力も悪くない。一つ一つの球は素晴らしいのだが、それが投球という一つの形に上手くまとめられないのが、この投手の最大の欠点であるように思える。

 この投手、牽制はそれほど鋭くないし、フィールディングも平均的。クィックこそ1.1秒前後と素早いが、それほど野球センスに優れたタイプではない。やはりプレーを見ていると、圧倒的な肉体のポテンシャルが勝ったタイプだと言えよう。

 特に右打者には、外角に速球とスライダーを織り交ぜる制球力は確かなのだが、左打者には両サイドにアバウトに投げ分けつつも、甘く入る球が多い。痛打を浴びる多くは、左打者からだという特徴がある。そして自分のリズムが崩れると、必要以上に動揺して、四死球を連発したり、ワイルドピッチで傷口を広げ、置きに来た球を痛打されるなどの悪循環に陥る。良い時とと悪い時の差が激しく、これを根本的に改善して行くことは、なかなか深刻な問題だと言えよう。この選手をみていると、大きな体には似つかわしくなく、とても気持ちが優しい青年なのがわかってくる。

(投球フォーム)

<広がる可能性>

 引き上げた足を地面に向けて伸ばすタイプで、見分けの難しい腕の振りのカーブや縦に鋭く落ちるフォークのような球を修得するのは、将来的にも厳しいだろう。そのためスライダーやチェンジアップ・更にカットボールやツーシーム的な、球速豊かな変化球などを磨くことで、投球の幅を広げて行くことになりそうだ。

<ボールの支配>

 最後までの体の近くにはグラブがあるので、大まかに両サイドにはボールが投げ分けることができる。ただ投げ終わった後に、肩がクロス側に入り込むので、右打者内角、左打者外角を狙った球は抜けやすい。

 また足の甲の押し付けができず、完全に足が地面から浮いてしまっている。これだと思いっきり腕を振ると高めにみんなボールが抜けてしまうのを、「球持ち」を良くすることで小手先でコントロールするようになる。これにより、腕は振れなくなったものの、ある程度の制球はつくようになった。ただボールを置きに来るような傾向が強くなり、生きた球はなかなか投げ込んでこられない。


<故障へのリスク>

 以前のような角度のある腕の振りではなく、今は無理のないスリークオーター気味になっている。これより故障の可能性は減ったが、投げ降ろして来るような角度のある球ではなくなった。ただ現状は、何処か痛くて能力を発揮できない、そういった危険性は、ほとんどなくなっているのではないのだろうか。

<実戦的な術>

 「着地」までの粘りが甘いので、打者からはタイミングが合わせやすい。そのためその球威・球速よりは、打者が苦にならない球だと言えよう。また体の「開き」も早く、ボールの出所も見やすい。打者からは、どんな球が来るのか読みやすく、甘くない球で捉えることができる。

 腕の振りは良いので、速球と各変化球との見分け難しい。ただ「体重移動」は十分ではないので、グッとウエートが乗ったようなボールが行くことはなくなり、上半身の腕の振りの鋭さでキレを生み出すしかなくなっている。


(投球フォームのまとめ)

 「球持ち」こそ悪くないが、「着地」「開き」「体重移動」には、課題を残すフォーム。すなわち制球はつくようになったものの、小手先での投球であり、生きた球が行かない上、その球も打ちやすいということだ。上のレベルでも、もう一度フォームを大きくいじる必要性があるのではないのだろうか。

(今後は)

 搭載しているエンジンの大きさ・それを発揮するだけの基礎体力には、確かなものがある。しかしその能力を活かす術に課題があり、十分にその良さが発揮できないのだ。

 「心技体」の3つの要素でいえば、「体」の持ち得る才能や体格、基礎体力などの部分は十分にプロ級だと言える。しかしながら「技」の部分にも大きな改良が必要なだけでなく、「心」の部分ではプロ向きではないのではないかと心配になる。

 そう考えると、プロ入りへは「旬」なのかと言われれば、完全にNO.であると言わざる得ない。しかし彼のような圧倒的なポテンシャルを秘めた選手を、アマでチマチマ育成したところで、上手く才能を開花させられる環境があるのかは、これまた大いなる疑問。あえて育成に自信のある球団が、下位指名か育成あたりで指名して、育てるというのもありなのかな?とも思えてくる。ただ私ならば指名リストに、彼の名前を載せることはしないであろう。果たして、その才能を開花させる日は来るのだろうか?



(2011年 夏)






楽天



 伊藤 拓郎(東東京・帝京)投手 185/81 右/右
 




               「伸び悩みの中で・・・」





入学間もない1年春からネット裏では、伊藤 拓郎 の話題で持ちきりだった。その伊藤が、全国の舞台に登場したのは、その年の夏。一年生離れした骨太の体格から、MAX147キロの速球に多彩な変化球を操るスーパー1年生として我々の度肝を抜いてみせた。

しかし2年生だった昨年は、完全に伸び悩み。スーパー1年生から大きな上積みが感じられない思考錯誤の日々が続く。そんな日々の中、最終学年を迎えた。吉本 祥二(足立学園)の投球を確認した30人以上のスカウト達が、全員東京の大田スタジアムに移動してきたかのように思われたこの日。更なる衝撃が、伊藤を襲った。


(成長した姿を魅せるはずだった・・・)

東京都春季大会。相手は、東京の中でも実力校として知られる世田谷学園。それでも全国屈指の強豪校である帝京が、こんなところで負ける相手ではない。誰しも、試合前はそう思っていた。実際に伊藤のその姿は、試合前から体格・雰囲気共に異彩を放っている。投球練習の時から、ズシリとミットに収まる音が違った。一目その投球練習を観れば、並の高校生とは全く異質なものであることは誰の目にも明らかだった。


(衝撃の瞬間)

立ち上がりから伊藤は、常時135~MAX88マイル(140.8キロ)の球威のある球を投げ込んでくる。投球モーションもゆったりとなり、そういった「間」も少しずつ意識し始めている。ただ伊藤の速球は、球威こそあるが空振りを誘える伸びやキレに欠ける代物。あくまでも、球威・球速を活かして詰まらせるのが身上。立ち上がりの手探りな状態では、甘く入れば打ち返されてしまう。そのため立ち上がりから、世田谷学園の各打者に高めに浮いた速球や甘いスライダーを狙い打たれることに。ただヒットを打たれただけではなく、死球も連発。あれよあれよと三失点。一回終了を待たずして、無念の降板となった。ドラフト最上位候補と呼ばれていた男の、あまりに不甲斐ない投球に、周囲は凍りついた。


[高画質で再生]

伊藤 拓郎(東東京・帝京)投手 [携帯HP] 


(それでも成長の跡も)

確かに、球威・球速などの成長は、正直感じられなかった。と言うよりも、エンジンがかかる前に終わってしまったとしか言いようがない。しかし投球モーションがゆったりとなり、フォームにはタメが観られた。そういった「間」を投球に取り入れて行こうと言う姿勢が感じられ、フォークの落差は見事で、綺麗に指から抜けるようになっており、かなりこの球が武器に使えるようになっているのではないのかと言う期待は抱かせてくれた。

僅か二つのアウトしか取れずに終わった春。その中でもこの冬の間、取り組んで来たことの片鱗は、垣間見せてくれた。けして私は、この結果を見て、彼の取り組んできたことが間違いだったと否定する気にはなれなかった。


(野球への姿勢)

1年生から圧倒的な能力を示しながらも、けして御山の大将といったオレ様気質の投手ではありません。試合前の集合の際も、我先に集まると言うタイプではなく、仲間と同じような感じで集まる協調型。けして自分の存在感を、チームメイトに固辞しようと言う感じは致しません。その辺は、逆にプロの世界では少し気弱な印象は受けます。

ただイニング間の投球練習でも、最後の球までしっかり集中して投げられています。このことからも、けして手を抜かず野球に取り組む姿勢を伺うことができます。

ネクストバッターボックスでも、前の打者の対戦に集中して目線を向け試合に入れています。プレー1つ1つに集中力も感じられますし、試合にしっかり入れております。ただいろいろ思考錯誤を繰り返しても、それが現状上手く行っていないと言うのが、伸び悩み要因だと考えられます。けしてこの2年間、努力を怠ってきたから、伸びていないと言うタイプではないはずです。最後の夏に、その努力が華開くことを期待せずにはいられません。


(最後に)

当然、この日の投球だけでは評価を決めるのは難しい。伊藤の潜在能力の高さは、誰もが認めるところ。六月に行われる東京都選抜VSアメリカ代表との交流戦でも、東京都の選抜メンバーに選ばれました。早ければこの試合で、再び伊藤の勇姿を確認できであろう。またその内容次第では、最後の夏の大会まで追い続けてみたい。ただ一つ言えるのは、ドラフト戦線において大きく後退したと言うこと。この不名誉を、最後の夏までに払拭できるのか、それが今年の高校球界における、一番の注目すべきポイントではないのだろうか。



蔵の評価:追跡級! 



(2011年 春季東京大会)







伊藤 拓郎(東東京・帝京)投手 185/81 右/右





               「なんかピンと来ないんだよな」







 2年春のこの時期に、150キロ近い球速を連発し、それでいて、変化球や制球力・マウンド捌きにも大きな破綻がない凄い投手。しかしながら、何かこの選手に関しては、私をときめかせてくれるような、訴えかけてくるものがないのだ。2011年度の世代を引っ張って行けるだけの素材 伊藤 拓郎 に、私は疑問を投げかける。





(投球スタイル)

 上記の動画は、1年夏の甲子園。彼は、基本的にこの頃と、ほとんど変わっていないように思えます。1年生から頭角を現したスーパー1年生が、その後そのまま3年生になって行く。そんな選手を何人みてきたことか・・・。彼もそんな道を辿るのではないかと心配になります。

 この投手、何故そんな風に感じられるのか考えてみます。一つは、投球のリズム・間が一定で、投球にメリハリがありません。ただストライクゾーンの枠の中に、威力のあるボールを投げ込んで来るだけ。状況に応じて、力を入れたり抜いたりと言う、強弱が付けられないように思えます。感情の起伏も、良く言えば安定し、悪く言えばアドレナリンを分泌すべき時と、そうではない時の区別がない。そのため投球が、非常に淡泊な印象を受けます。球一つ一つは素晴らしくても、投球全体で考えると、何か物足りない。そんな感じのピッチングです。

ストレート 140~MAX147キロ

 角度と球威はありますが、それほど手元で伸びてきたり、キレたりと言う特徴がありません。そうかと言って、着地までの粘りがあったり、低めを丹念に突くような粘っこさも感じられません。ただ速球に関しては、以前よりもコースに集められるようになったのではないかと思います。

スライダー 125キロ前後

 速球以外にカウントが取れる球、球速差があると言う意味では、この球の存在は大きいです。ただ曲がりに際だつものはありませんし、ストレートに比べるとコントロールが悪く、甘く入るケースが多いです。これでは、上のレベル達は見逃してくれないでしょう。スライダーの精度をあげることが、一つ投球の大きな課題だと言えるようです。

フォーク(縦スラ?) 120キロ前後

 縦に意識的に落とす球があります。ただこの球も、まだ絶対的な精度はなく、大事場面で多投するほどの信頼度はないようです。こういった球に磨きがかかれば、また投球の幅は広がって行くのでしょうが。

カーブ 110キロぐらい

 精神的に余裕がある時には、使えるようです。ただこういった球は、そういった余裕がない時でも使えることが、一つ大きなポイントになります。ランナーを背負っている緊迫した場面でも、決め球に投げられるような精度がないと、とりあえず、こんな球もありますよと言う程度にしか役に立ちません。

その他

 牽制は、中々鋭いです。ベースカバーなども素早く、大型ですが緩慢ではありません。またクィックも1.15~1.30秒ぐらいと平均的で、けして上手くはありませんが、破綻はないレベルです。こういった部分に関しては、さすがに名門中の名門の投手、よ~く鍛えられている気が致します。

<右打者に対して> 
☆☆☆

 アウトコースに速球とスライダー、インコース高めにのボールゾーンに、やや抜け気味に速球とスライダーを投げ込んできます。身体の開きが早くボールが見やすいのか?内角を突いている割に、それほど甘くない外角球を、踏み込まれて打たれるケースが目立ちます。

 けして両サイドの投げ別けができないわけでも、制球に破綻があるわけでもないのですが、緩急・縦の変化などに乏しく、右打者には単調な印象を受けます。

<左打者に対して> 
☆☆

 左打者に対しては、スライダーなどの変化球の割合がとても増えます。恐らくそれは、ストレートが抜け気味になり、球筋が安定しないからだと思います。そのためスライダーでカウントを整えるのが、投球の基本パターンになります。

 ただそのスライダーの制球はバラバラで、とりあえずストライクゾーンの枠に投げてストライクになればといった感じで、甘い球も少なくありません。その代わり、カーブを織り交ぜたり、縦の変化を積極的に織り交ぜて、コースよりも球の変化で討ち取ろうと言う配球に変わっています。けして制球力は良くありませんが、ヒットは右打者よりも少ない傾向にあります。

(投球のまとめ)

 細かく観てみると、右打者にはコンビネーション不足。左打者には制球不足の課題があることがわかりました。また冒頭から述べているように時間を意識した「間」を操ったり、力の入れ加減を変えるメリハリがなかったりと、まだまだ投球をしていると言うレベルには到達しておりません。いかんせんまだ新2年生です。あえて球の威力を追求するだけでなく、投球を作り出す感性と言うものを意識的に磨いて欲しいですね。まずは、自分の球だけに酔いしれるのではなく、相手をもっと洞察することから初めて欲しいと思います。


楽天


(データから考える)

新チーム結成以来の秋の成績は


11試合 54回2/3 31安打 51奪三振 11四死球 防御率 0.99


1,被安打は、イニングの70%以下に

 
被安打率は、56.8%と、けして多くはない。1年秋の数字としては立派だが、全国レベルでも通用する配球を身につけたいところ。

2,四死球は、イニングの1/3以下に

 四死球も、イニングの1/5以下と言うように、非常に少ないことがわかる。逆にストライクゾーンの中で、勝負しすぎかなと言うきらいもある。もっとボール球を振らせる術も磨いてゆきたい。

3,奪三振率は、1イニング1個前後

 1イニングあたり0.93個と、けして悪い数字ではない。ただ150キロ近い速球を投げ込み、多彩な変化球がある投手にしては、数字的に物足りない。そこに、彼の課題が残されている。

4,防御率は、1点台が基準。0点台が望ましい

 防御率は、0.99と、このファークターもクリア。1年秋の時点で、ほぼすべてのファクターをクリアできる完成度を持っている。確かに凄いことなのだが、ここから更に伸びて行けるのかが、この選手の課題となってくる。データ的には、ほぼ理想的な選手なのだが・・・。





(投球フォームから考える)

 お尻をしっかり一塁側に落とせる選手です。ただお尻を一塁側に落とすことを重視するばかりに、重心が深く沈み過ぎて、かえってバランスを損ない、いち早く着地を促す悪循環になっております。確かにお尻を落とすことは、見分けの難しいカーブや縦の変化を投げるための身体のスペースを確保するためには不可欠ですが、着地が早くなっては意味がありません。お尻の沈み込みを少し緩和させて、着地までの時間を稼げるフォームにして欲しいです。彼のフォームは、「イチ・ニ・サン」なのです。それを「イチ・
ニ~の・サン」にする意識を、投球フォーム持ちたいです。これを身につけられれば、随分と投球の「間」を支配でき、フォームの淡泊さや投球の一辺倒さも解消できるものと考えられます。

 また足の甲の押しつけに粘りがないのも、この部分が改善されれば、もっと良い変化球や低めへの押し込みも期待できるはずです。最近私が好まない投手の傾向がわかってきて、それはフォームに粘りがない投手と言うことがわかってきました。彼もそういったタイプの投手の一人なのだと思います。常々言うように、投球フォームの核とは「着地」なのです。このことを意識できない投手に、一流投手はいません!

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の観点でみると、「着地」に大きな課題を残します。しかし「球持ち」「開き」「体重移動」は、思いの外平均的で、大きな欠点がないことがわかりました。以前よりもボールを隠せるようになっており、そういった努力のあとは感じられます。できるだけ打者に正対するのを遅れさせる、フォームの粘りが身につけられるのか注目したいですね。




(今後に向けて)

 すでに1年生の時点で、ある程度投手としての形はできておりますし、肉体的な成長も遂げている選手。それだけに、今後爆発的に球威・球速があがるとか、ダイナミックな進化は期待できないかもしれません。

 しかしながら、それならば投球も完成形なのかと言われれば、まだまだ改善の余地はたくさん残されているわけです。ここから1年半もの時間は、その投球技術・フォーム技術に磨きをかけるのに費やすことになるでしょう。人よりも成長が早いと言うことは、それだけ違うことに専念できるだけの土台があると言うこと。これから先は、人から教わるだけでなく、
自分で考え作り出す感性を磨いてください。これがないと、プロの世界では長く活躍できません。彼にはあえて、今の時点からプロを意識して、野球に取り組んで頂きたい!そういった領域に、彼はすでに足を踏み入れてしまっているのだから。


この記事が参考になったという方は、ぜひ!


(2010年・選抜)


 





(どんな選手?)

 春先から関係者の間で大いに話題になっていた大器です。夏の甲子園でも少し投げましたが、今回は先発でじっくり観られましたので、おおよそのイメージはつきました。一年生にして破格な肉付きと球速が自慢の投手です。

(投球内容)

 それほど力を入れなくても、常時130キロ台後半~MAX148キロの球速は、1年生としては破格の球速の持ち主です。少々リリースにバラツキが目立ちますが、角度と球威のあるボールを投げ込みます。変化球も、カーブ・スライダー・フォークなど、すでに一通りの球を持っており、牽制こそ並レベルですが、ベースカバーも素早く、クィックも1.2秒前半とよく鍛えられている印象です。

 投球は、まだ自分のリズムと言うか「間」が使えません。ただストライクゾーンに投げ込んでいるだけと言う感じです。その一番の理由は、投球フォームにおける「着地」までの粘りがない点。またそのため「身体の開き」も誘発し、例え非凡な球速があっても打者の空振りがあまり誘えない部分があります。またもう一つ空振りを誘えない理由として、体重移動が不十分で、前に乗って行かないので、ボールに勢いが出てこない印象があります。

 けしてお尻を一塁側に落とせない選手でもないですし「球持ち」も悪くありませんし、不器用な投手とも違うようです。ただその投球からは、センスと言うものは感じられませんし、不思議と肉体の完成度からも、今後爆発的に伸びるといった印象も薄いです。

(今後は)

 現時点では、スーパー1年生ではありますが、これから世代を引っ張って行くだけの存在感を示せるかと言うと全然別になると思います。まずは、一つ一つの投球の意味と「間」を考えながら、もっと深い投球を目指して欲しいところです。選抜までの成長ぶりを、期待して見守りたいと思います。

(2009年・神宮大会)







(どんな選手?)

 春季大会のバックネット裏でも、大変話題になっていた全国屈指の1年生です。すでに完成しているのではないかと思わせる身体付きの選手であり、小さなテイクバックから、鋭い腕の振りに特徴がある選手です。

(投球内容)

 残念ながら甲子園の敦賀気比戦では、僅かな投球のみで、速球とスライダーを確認出来ただけでした。球速は、常時145キロ前後を記録し、MAX147キロまで到達。この時期の1年生としては、破格な球速の持ち主です。

 僅か数球の投球だったので、細かい部分はよくわかりませんでしたが、制球はまだアバウトかなと感じました。ただその球威・球速は、すでに3年生のトップクラスの投手と比較してもヒケは取りませんでした。

(今後は)

 現時点では、恐らくこの世代では全国屈指の存在なのだと思います。ただその反面、投手としては、不思議にあまり今後の伸びしろはあるのかな?と言う疑問も感じました。このまま球速は伸びて行くのかな?投球の質を、今後大幅に進化させて行けるのかな?と言う帝京の選手にはよく感じられるタイプです。

 このまま順調に一般的な高校生の成長曲線を辿って行けば、最終学年では常時150キロ前後で、MAX155キロ級に育つことかと思います。ただ今年の目玉である菊池雄星が、1年生の時に甲子園で投げたような衝撃は、残念ながら私は感じませんでした。

 その辺が何か引っかかるのですが、現時点ではまだまだ1年生なだけに、新チーム以後も期待を持って見守って行きたいですね。世代を引っ張って行く存在として、今までのアマプレーヤーにない領域にまで到達出来る可能性も秘めているわけですから、注目して見守り続けたいと思います。

(2009年・夏)