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松本 竜也(巨人)投手のルーキー回顧へ




 松本 竜也(英明)投手 193/78 左/左





                  「規格外!」





迷スカウト歴26年目の中で、193センチの体格の左腕が、このバランスで投げ込んできたのは、初めてのケースではないかと思うのだ。それだけにこの選手の将来性を、どう位置づければいいのか?私にも正直掴みかねているというのが、率直な感想である。


(投球内容)

この投手が凄いのは、193センチという破格の体格ながら、その投球に違和感がないところにあります。普通ここまで大柄ならば、体を持て余して何かフォームに違和感が感じられたり、投球そのものに、物足りなさがあったりと、何処か首を傾げたくなるような部分が必ずありますが、この投手の投球はごく自然に受け止められてしまうところが凄いと思います。このサイズで、しかも左腕でありながら、こういった投手に私は、過去出会ったことがありません。それ故に、私は彼の評価に悩みました。

ストレート 130キロ台後半~MAX145キロ

それほど力を入れているようには見えないのですが、コンスタントに140キロ前後を記録し、勝負どころでは140キロ台中盤を記録する速球が、打者に向かってグワ~ンと近づいてきます。きっと手元で球が伸びるとかキレるという球そのものでなく、その体格、投球フォームの圧迫感で、思わず打者はバットを振ってしまっているという類の投手なのだと思います。この投手を考えるときは、球そのものよりも、もっと広い視野で見ないと、その能力を正確に推し量ることはできないのではないかと考えます。

変化球 スライダー、スクリュー・カーブ・フォーク など

変化球は、圧倒的にスライダーとのコンビネーションで組み立てられています。ただ時々緩いカーブ・外に逃げるスクリューボール・それにストンと縦に落ちるフォークのような球を投げるなど、結構持ち球は多い印象。ただ投球の軸は、あくまでもスライダーだと言えるでしょう。特にそのスライダーは、カウントを稼ぐ球と、低めのストライクゾーン~ボールゾーンに切れ込んで空振りを誘う、二種類の球を使い分けています。

その他

ボールを処理するときには、非常に落ち着いていて冷静です。そのためフィールディングには、安定感を感じます。またクィックは、1.1秒台と基準以上で、素早く投げ込むことができます。大型ですが、運動神経に優れた選手であるように思えます。ただ牽制に関しては、左投手で走者の動きが常に観えるので、それほど鋭く刺すようなものは見られません。むしろランナーに背をむける、二塁・三塁に走者を置いた時が、一つ投球の課題ではないかと考えます。

(投球のまとめ)

普段は、ゆっくりと足を引き上げ、自分のペースで淡々と投げ込んできます。それほど投球にメリハリなり、アクセントは感じられませんが、彼なり勝負どころでは力を入れたり、スライダーを振らせるようという意識を持ってやっているようです。

甲子園では、両サイドにボールを投げ別けられていて、制球も安定していました。実際初めて見る多くの人が、思っていた以上にまとまっている、そんな感想を持ったのではないのでしょうか。左腕にありがちな制球の粗さなどがなく、現時点での総合力の高さが、この投手の最大の魅力だと思います。プロを意識すると、それほど武器になるほどの球はありませんが、更にこれから伸びることを前提に考えれば、この選手には大きな可能性が感じられる。そう評価できるのではないのでしょうか。





(しかしながら)

とここまでは、甲子園を見ての感想です。しかしAAA選手権の高校生選抜メンバーに選ばれた彼から、意外な姿を見ることになります。私が観戦したのは、AAA選手権前の関東学院大との壮行試合でした。この日、リリーフで登場した 松本 竜也 は、それまでのイメージを一変させる投球を魅せます。

確か2点差リードの場面で、最後の9回に彼は登板したと記憶しております。交代してから、まったくストライクが入らず制球が定まりません。そのため四球を連発し、全く投球を修正できないまま、ランナーをどんどん貯めてゆきます。これにはたまらず、渡辺監督(横浜高校)もマウンドに行きましたが、それでも立ち直ることができず。最後は、タイムリーを浴びサヨナラ負けを喰らいました。

そう非常にバランスが取れて、まとまった投球をするというイメージがあった彼が、とても微妙なバランスの上で成り立っていることを思い知らされました。彼は、2年生の時から話題の投手であったのにも関わらず、甲子園でも登板がなければ、前年の香川大会でも大事な場面を任されない不安定な投手だったと聞いています。そんな彼が、一冬超えて見違えるほどピッチングができるように変貌したそうです。しかしそれは、本当に微妙なフォームのバランスや、僅かに芽生えた自信の上に成り立っていて、ちょっとリズムを崩すと、脆く崩れるものだということを知りました。そう彼が甲子園で魅せた姿も確かに彼の成長した姿ではありますが、脆くも崩れる側面がまだ払拭できていないのも、これまた彼の今の姿だということを。

(投球フォーム)

そんな彼が、今後どのような投手になるのか、技術的な観点から考えてみたいと思います。

<広がる可能性>

引き上げた足を地面に向けて伸ばすので、お尻を三塁側(左投手の場合は)に落とせるフォームではありません。したがって見分けの難しい腕の振りでカーブを投げたり、縦に鋭く落ちるフォークのような球は、正直適しておりません。実際に彼はこういった球も投げておりますが、大きな曲がりを期待できないだけでなく、投げる時に体への負担も大きいと考えられます。

更に残念なのは、着地までのタイミングが早く、フォームに粘りがないところにあります。そのためスライダーやチェンジアップ系中心の投球になり、球速豊かな変化球などで投球の幅を広げて行くしかないということになります。

<ボールの支配>

それほどしっかりグラブを抱えられているというほどではありませんが、最後まで体の近くに留めることができています。これにより両サイドへの投げ分けは、大まかにできています。ただ足の甲の押し付けが、爪先のみしか地面を捉えておりません。そのため腰高でストレートが、真ん中~高めに集まりやすいことになります。「球持ち」も平均的で、指先まで力を伝えて投げるような繊細なタイプではないように思えます。あくまでも大雑把に投げ分ける、そんな感じの投手になるのではないのでしょうか。

<故障のリスク>

お尻が落とせない上に、カーブやフォークなどを交えますが、それほど多くは投げません。またそれほど力を入れて力投するタイプではないので、体への負担は蓄積されにくいように思えます。それでもテイクバックした時に、肩が背中のラインよりも後ろまで入り込みますし、肘を低い位置から高い位置に引き上げる動作も見られ、けして負担の少ない回旋ではありません。そのためアフターケアには、充分に注意して取り組んで頂きたいと思います。

<実戦的な術>

「着地」までの粘りに欠けるので、打者からはタイミングは合わせやすいフォーム。体の「開き」は早くないので、ボールの出所は見やすくはありません。ただこの破格の体格は、打者からも相当なプレッシャーになるはずで、そういった意味での打ちにくさは、打者も強く実感しているはずです。

振りおろした腕が、それほど体には絡んできません。もう少し腕の振りもシャープになってくると、スライダーを振ってくれるようになるのではないのでしょうか。また「体重移動」は上手くできておらず、グッとウエートの乗ったような勢いのある球はなげられません。あくまでも腕を外からブンと振ることで、グワ~ンと鉛球が飛んで来るようなボールを投げ込んできます。大きなフォームに惑わされることなく冷静に球筋を追えれば、けして打てない球ではないはずです。少なくても空振りを誘うというよりは、詰まらせる感じのストレートだと言えるでしょう。





(最後に)

この類をみない体格から、適度なバランスと球速を誇るという意味では、素材的な価値は破格です。今まで日本球界にいなかったスケールの左腕だと言えるでしょう。ただ反面、現在のピッチングは、非常に微妙なバランスの上で成り立っているということも、一つ覚えておいた方が良さそうです。甲子園では、常に自分のペースで投げられ、悪い部分を露呈しないまま終わりました。それが実力のすべてだと考えると、非常に危険だと思います。

AAA選手権に選ばれた他の7人の投手と比べると、1人だけで悪い時に悪いなりの投球ができない。平常時では良い投球ができても、自分のペースで投げられないと脆さを露呈する。そういった踏ん張りの効かない投球には、正直精神的な部分で、これから先を考えると不安を覚えずにはいられません。

ただこの選手の素晴らしいのは、けして投手としてまだ完成型ではなく、まだまだ伸びるのではないかと言う素材的な可能性を感じさせてくれるところにあります。そういった未知の魅力と不安が混在する、非常に評価が難しい投手、それがこの 松本 竜也 なのです。内容的には、☆☆ ぐらいなのですが、今までにない領域の投手として、期待込みでもうワンランク上のの評価をしてみたいと思います。ドラフト会議でも上位12名の中に、入ってくることになりそうです。


蔵の評価:☆☆☆ (上位指名級)


(2011年 AAA選手権)