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戸田 隆矢(広島)投手のルーキー回顧へ




戸田 隆矢(樟南)投手 180/68 左/左 





                   「荒削りな中にも」





2011年度のドラフト戦線において、高校生の左腕で最も速い球を投げ込むのは、この 戸田 隆矢 ではないのだろうか。私が彼を初めてみたのは、昨年の春季九州大会。荒削りで一辺倒なところはあったが、勢いのある球をバシバシ投げ込んでいたのが印象的だった。あれから一年、彼がどんな成長を遂げてきたいのか注目してみたい。

(投球内容)

 スラッとした投手体型ながら、腕をしなやかに使うと言うよりは、少し肘が突っ張った腕を強引に持ってくる荒削りなフォーム。足を勢いよく引き上げるそのフォームからは、ボールに後は聞いてくれ!といった、少々投げやりな投球に見えてくる。

ストレート 

 腕をしなやかに使い、ボールに指先まで力を伝えるようなフォームではないので、打者の手元でピュッと切れるとか、グ~ンと伸びるような球質ではない。バーンと勢いのあるストレートが、捕手のミットに突き刺さる。ハッキリした球速はわからないが、MAX148キロと言われるように、コンスタントに140キロ前後は出ていそうな勢いがある。全国的に観ても、コンスタントに140キロ台を叩き出せる左腕はほとんどおらず、そういった意味での希少価値は、今年の候補の中でも指折りだろう。しかしこのストレートは、全国レベルの強豪校ならば、けして打てない代物ではない。敗れた神村学園戦では、右打者達に内角のストレートを狙い打たれてしまい、持ち味を完全に奪われた形となった。

変化球 カーブ・スライダー・スクリューなど

 この投手の投球の鍵を握るのが、低めに切れ込むスライダーの出来にかかっている。この球が低めにしっかりコントロールできる時は、打者からも空振りを誘え、ポンポンとリズム好く乗って来る。逆にこの球が決まらないと、ストレートを狙い打たれ単調な投球に陥る。

 他にもカーブような緩い球や右打者の外角にシュート系の球も投げ込むが、現状それほど大きな意味を持つ球種ではない。あくまでも低めに切れ込むスライダーとのコンビネーションが、投球を構成していると言えよう。

その他

 基本的に大型で、不器用な選手との印象。左腕にしては牽制もさほど上手くはなく、クィックも1.3秒台前後と、けして素早くはない。フィールディングも動作が機敏だとは思わないが、落ち着いてボールを処理することはできている。そういった野球にセンスに優れたタイプと言うよりは、恵まれた肉体のポテンシャルに依存した素材型だと言えよう。

(投球のまとめ)

 この投手の投球を観ていると、指先の感覚も悪く、かなり荒れ球の印象を受け本当のコントロールに欠ける。しかし私の興味が惹かれたのは、ボールがストライクゾーンの外へ外へと決まり、真ん中近辺に甘く入る球が極めて少ない点だ。すなわち荒れ球投手として、相手打者からは的が絞り難い投手に育つ可能性がある。同じコントロールがアバウトでも、中へ中へと甘く入るタイプと、ストライクゾーンの枠の外側に散るタイプがあるのだが、彼は完全に後者のタイプ。勝負どころでしっかり決められるコントロールには欠けるものの、一球一球の投球を分析すると、実にストライクゾーンの外側ギリギリにボールが散っているのだ。ただそれでも甘くないコースの球でも痛打されてしまうこともあるのだが、これは配球やフォームをいじることで、まだまだ改善できると考える。

 投球の「間」や、微妙な勝負の駆け引き、確かな制球力などの投球センスには欠けるものの、勢いにかまけポンポンとリズムに乗せると、かなり厄介な投球が期待できる投手に育つと言う期待感を抱く。同じ荒削りなタイプと言っても、将来的にいろいろな可能性ががあり、返って欠点が持ち味になる投手もいるのだ。それを見極めることこそ、本当のスカウティングだと言えるのではないのだろうか。





(投球フォーム)

 ワインドアップで振りかぶり、足を勢いよく高い位置まで引き上げて来る力投派。そのため投球フォームの「間」を強く意識してマウンドをコントロールすると言うよりは、ボールの勢いで押すリリーフタイプ。

 足を伸縮させることで、「着地」までのあっさり感を取り除くことに成功。それでも足をピンと空中で伸ばす動作はなく、お尻を三塁側に落とせるタイプではありません。そのため左腕ながら、見分けの難しい本物のカーブの修得や縦に鋭く落ちるフォーク系の修得は厳しく、球種を増やしピッチングの幅を広げて行くことには苦労しそう。それでも昨夏までの課題であった「着地」が早すぎる欠点は解消され、フォームの淡泊さはだいぶ薄れました。

 グラブを内に最後まで抱えられており、両サイドに上手くボールは散っています。足の甲の地面への押しつけもできており、下半身のエネルギーを上手くフォーム後半に伝達。これにより、スピードボールを上手く投げるメカニズムが確立されています。ただコントロールがアバウトなのは、「球持ち」が浅く、指先の感覚の悪さに大きな原因があると考えられます。この辺を改善できてくると、もっとねちっこい投球も身につけられるのではないのでしょうか。

 「着地」までの粘りが出てきたことで、ボールの出所も見難くなり「体の開き」は、けして早くありません。ただテイクバックした時に肘が下がり、かなり強引に外旋する腕を振ってくるため、細かいコントロールがつかず荒削りな投球を作り出します。まずは、テイクバックした時に、肩のラインよりも上に肘を置き、そこから振り下ろす無理のない腕の振りを身につけることで、コンパクトなフォームが作り出すことだと考えます。腕は強く振り抜けており、「体重移動」も見た目以上に下半身を上手くリードしてフィニッシュにつなげております。腕の無駄の動きを改善できれば、もっと効率的に自分の意志をボールに伝えることができるでしょう。

(野球への意識)

 打者としても低めの球に食らいつくような、プレーに対する貪欲さを強く感じさせます。また一塁までも、全力で駆け抜けるように力を抜くようなことはなく、一所懸命さが伝わってきます。そういったプレーへの執着心は、これから先の成長を見込む上で高く評価できるポイント。

 しかし気になったのは、味方が援護点を取ってくれて、これからリズムに乗るだろうと思われる場面で、ことごとく、リズムに乗れず失点を重ねている点。これは、一体何なのだろう?と言う疑問は持ちました。確かに相手の神村学園は、実に上手く戸田のことを研究しておりました。戸田が苦しくなると、内角を多く使って来る配球を強く意識し、戸田のスピードボールへの対応を入念に行ってきたことが伺われました。それでも内角への投球を続け、ことごとく打たれたわけですから、そういった危険回避能力、状況判断などのセンスは、極めて欠如しているなと言う印象は否めません。あくまでも、自分の勢いで押せる相手だけには滅法強いですが、そういったことが通用しない相手に対し、上手くピッチングを組み立てる引き出しの少なさやセンスに欠ける点は、大いに気になりました。


(それでも)

 この不器用で、センスに欠ける部分が凶と出るか、ボールが散りアバウトな制球が返って荒れ球として、的を絞りにくい長所となるのか。まして一辺倒だが、野球には愚直に取り組んで行ける真っ直ぐな姿勢が、やがて大きく華を開かせるのかは、私にも半信半疑ではあります。

 ただ全国的に観ても、これだけのスピードボールを放れ、体格、伸びしろを秘めた左腕は、極限られています。そのことを考慮すると、ドラフトでも中位級で指名される可能性は充分秘めていると思います。やや夏の大会と言うこともありボールの勢いは鈍っておりましたが、その辺は過去の投球で確認済み。そのことも考慮すると、この夏の投球内容以上に、スカウト達が評価する可能性は充分あると考えます。あくまでも確実に大成する素材とは言えませんが、その可能性に賭けてみたい、そう思わせる器はあるのではないのでしょうか。


蔵の評価:☆☆


(2011年 夏)



 




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