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大嶋 匠(日ハム)捕手のルーキー回顧へ



大嶋 匠(22歳・日本ハム)捕手 180/95 右/左 (早大ソフトボール出身) 
 




                    「とにかく凄かった!」





 昨年のドラフト会議で、ソフトボール出身の選手が指名されたことで話題になった 大嶋 匠。 ドラフト後、何度か動画でその動作を確認できていたが、初めて実戦でのプレーを見ることができた。日ハムが、今年はじめて行う紅白戦。ここで、DHで出場。いきなりファーストストライクを叩いて、センターバックスクリーン直撃の特大の本塁打を放ってみせた。当たればパワーがあるのはわかっていたが、多くの人が注目するなか訪れた最初の打席で、それをやってのけたことは称賛に値する。

(打席内容)

投手・植村 祐介(23歳・6年目)右腕 勢いのあるストレートが自慢の若手投手

 足場を何度も何度も入念に馴らし、打撃への強いこだわりを感じさせる。ソフトボール時代よりも、深く腰を沈めて構えている。なんとも言えぬ独特の雰囲気が、彼の打席からは漂って来る。

初球: 外角低めのストレートを見逃しボール (カウント 1-0)

球筋をしっかり見極め、きわどいコースを見逃す。

2球目:真ん中低めフォーク 見逃しボール (カウント 2-0)

 打ち気に早る打者ならば、空振りをしてもおかしくないフォークを、平然と見切った。これを見て私は、この選手の「眼」の良さを強く実感する。

3球目:真ん中ストレート を センターバックスクリーンへ!

 カウントが、2-0 になれば、次は必ずストライクを取りに来るのを見越していたのだろう。真ん中に入ってきた甘いストレートを、逃すことなく振り抜いた。打った瞬間本塁打とわかる圧巻のホームランだった。


(第二打席)

この打席では、左の 乾 真大 に代わっていた。特に切れ味鋭いスライダーを武器にする。

 3-0までボールが先行するも、その後2球ストレートを見逃しカウント 3-2 に。ここから真ん中ストレートと内角高めのストレートをファールする。 ここで興味深いのは、大嶋がストレートでも変化球でも対応しようと、幅広い打撃に切り替えたことだった。もし前の打席のような決め打ちができる状況ならば、ここでもストレートをヒットしていても、おかしくはなかったのだ。しかし乾の決め球であるスライダーを意識して、ストレートでも変化球でも対応できるスイングに変えていた。

 しかし最後に、その意識していた スライダー を投げ込んできた。乾が過去多くの打者から三振を奪ってきたストライクゾーンからボールゾーンに切れ込むスライダーを、大嶋は見事に見切って四球を選んだのだ。

 それもだ、動き出してバットを止めたという際どい見逃しではない。明らかに乾のスライダーの軌道をそれまでの投球で把握し、これはボール球だとわかっていて見逃したのだ。まして前の打席に本塁打を放ち、更に色気が出ても、おかしくないはずなのに。

 この男の動体視力と精神力は、一体どうなっているんだろう?そういった末恐ろしいものさえ感じさせる打席でもあった。


(今日の打席を見て)

 ドラフト後のインタビューを聞いていても、中々好感の持てるナイスガイだとは思っていた。しかし実際に見るプレーぶりは、そこで受けた好感触を遥かに凌ぐものがあった。とてもルーキーとは思えない、精神力の持ち主。

 あの 王貞治氏を指導していたことで知られる 荒川 博氏の指導を受けていた 大嶋 匠。その荒川氏が、打球が「まるで中西 太(西鉄)のようだ」と嬉しそうな顔をして絶賛していたことを思い出す。あの往年の大打者・中西太を例に出された打者は、過去に松井秀喜した私はきいたことがない。確かに大嶋の体格は、何処か懐かしい時代の強打者達を彷彿させるものがある。


 早稲田のソフトボールの監督も、いつかソフトボールの選手を野球界に送ってみたいと30年以上指導していて、彼ならばと思い日ハムのスカウトに紹介したというエピソードを持つ。ソフトボールにはない、独特の軌道を辿る変化球への対応には不安を残すが、この「眼」と「精神力」を持ってすれば、それを克服して行ける可能性は充分あるのではないのだろうか。野球界の歴史を塗り替える男・その可能性を、たった二打席で私に実感させてくれたほど、この日の大嶋のインパクトは計り知れなかった。


(2012年 名護紅白戦)





 大嶋 匠(21歳・早大ソフトボール)捕手 180/95 右/左 (新島学園出身)


 ドラフト会議の話題を独占した、ドラフト史上初めて現役ソフトボール部から指名された選手。小学生までは軟式野球を経験も、中学では野球部がなかったためソフトボール部に入部。高校では、高校総体や国体での優勝経験あり。U-19の日本代表の4番を務めたり、早大では13試合連続本塁打を放つなど、ソフトボール界のトップ級プレーヤー。

 早大の監督にプロ野球のテストを受けてみたいと持ちかけ、日ハムのプロテストの機会を得る。最終的な結果を聞かされたのは、ドラフト会議での指名とのこと。その間社会人野球・セガサミー野球部で練習を参加していた。恐らくここでの練習姿勢を訊いたり、硬式への対応ぶりも含めて、日ハムは判断したのではないのだろうか。そういった意味では、野球への取り組みなどにも厳しくチェックを入れる日ハムスカウティングのお眼鏡にもかかり、関係者も認めたその実力は、単なる話題性で収まる素材ではないのだろう。何よりソフトボールプレーヤーとしての実績は確かなのだから。

 問題は、捕手としてのディフェンス面など、染みついているものがある分、それを拭うのも大変なこと。今回は、バッティング映像が見られたので、フォーム分析をしながら考えてみたい。


 


(打撃フォーム)

 ちょっと画像の位置や、始動の部分で投手のフォームが違うのでわからない部分あることはご了承願いたい。


<構え> 
☆☆☆☆

 前足を引いた左オープンスタンスから、グリップの高さは平均的に、軽く捕手側に添えて構えている。腰はそれほど沈めないが、背筋を伸ばして立てている。両目は前を見据えられており、全体にバランスの取れた構えと言えそうだ。特に打席では、リラックスして立てているのが好い。

<仕掛け>

 ソフトボールの投手のフォームガ特殊なので、硬式野球の始動を当てはめることはできない。ただボールを手元まで引きつけて叩いており「遅めの仕掛け」に近いものを感じる。これは、典型的な長距離打者が採用するスタイルだ。ただこの部分に関しては、かなり曖昧だと言わざるえない。

<足の運び> 
☆☆☆

 足を軽く上げて、踏み出して来る。基本的に硬式球以上に到達時間が短く、体感速度が速く感じられるソフトボールの世界では、大きな動作では厳しいのだろう。ベースから離れたアウトステップを採用しているように見えるので、引っ張って巻き込む打撃を得意にしているように思える。それでも踏み込んだ足下はインパクトの際にブレず、外角球にも対応できる動きとなっている。

<リストワーク> 
☆☆☆☆

 スイング軌道も上から、ミートポイントまで無駄なく振り抜かれている。それほどスイングの弧は大きく見えないが、最後までしっかりバットを振り切っている。特にフォロースルーの段階では、グリップが高い位置にあり、ボールを遠くに運ぶ後押しが出来ている。

<軸> 
☆☆☆☆

 頭の上げ下げは小さいので、目線の動きは小さい。体の開きも我慢でき、軸足も地面から真っ直ぐ伸びている。そのため打撃の波は、少ないタイプではないのだろうか。特に軸足にも強さが感じられ、強打者としての片鱗が伺われる。


(打撃のまとめ)

 下半身の使い方・上半身の使い方も、硬式ボールでも対応できる技術を持っている。また体幹速度は、ソフトボールの方が速いと言われるだけに、プロのスピードへの対応はそれほど問題ではないのでは?むしろソフトボールになかった球筋の球や変化球などに、いかに対応できるのか?あるいは外角をへの対応や左方向への打撃はどうなのか?その辺が今回の映像だけではよくわからない。

 ただ純粋に素材として見た時には、始動の遅さ・フォロースルーの上げ方・軸足の強さなど観点からも、長距離打者としての資質は充分あると考えられる。そういった意味では、大砲しての魅力は感じられる。今後に向けて、期待の持てる素材ではないのだろうか。

(最後に)

 
少子化で硬式野球だけでは、人材的にも枯渇しがち。そのためにも野球と系統の近いソフトボールにまで門戸を広げようする日ハムの試みは、大変興味深い。けしてこれは、奇をてらった指名だとは思えない。

 野球は小さいときからの積み重ねのスポーツだと私は考えているが、果たして彼のように類似したスポーツならば対応が可能なのか個人的には大変興味深い題材。しかしそういったこと以上に、この大嶋 匠 という男のキャラクターが、何かやってくれそうだという期待を持たしてくれる男だった。日ハムが最後に決断したのは、この男ならば賭けみたいと思わせるだけの、人間的な魅力があったからだろう。