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伊藤 隼太(阪神)外野手のルーキー回顧へ




 伊藤 隼太(慶応大)右翼 178/84 右/左(中京大中京出身)
 




                      「いまさら言うことない!」





彼のすべてを語るには、この春のプレーを観れば充分だろ。その後の世界大学選手権での不調や今シーズンのプレーを観ていても、改めてそう思う。あと一本で三冠王を逃した春のシーズン、そこに彼が取り組んできた野球のすべてが集約されていた。


(プレースタイル)

ガッチリした体格から、腰の据わった構え。難しい球まで打ててしまうという天性の柔らかさやボール何処まで飛ばして行くような圧倒的の長距離砲ではない。自分の打てる球が来るのをジッと待ち、その球が一気に振り抜く。この振り出しの鋭さこそ、伊藤 隼太 の真骨頂!

(守備・走塁面)

先輩の高橋由伸のような(守備だけど)無理なキャッチングで突っ込むようなファイターではなく、実にソツなく無駄なくプレーする選手だという気が致します。守備範囲が物凄く広いとか、キャッチングが非常に上手いとかそういった派手さはありません。あくまでも身の丈の合った、無難な守備を魅せます。そのため右翼から無理な返球もしませんが、必要に応じては強肩を披露するときがあります。地肩に関しては、超強肩ではないにしろ、プロでも強い部類であり、どんピシャのダイレクト返球も充分期待できます。プロに混ぜても、中の上レベルではなく、上位レベルの強肩を兼ね備えており、隠し味となっています。

一塁までの塁間は、4.1秒前後。これは、プロの基準以上でありますが、それほど際だつ数字ではありません。実際に六大学でも足でアピールしたのは、2年秋の5盗塁のみ。けして動けない選手ではありませんが、プロで足を売りにすることはないと思います。ただその動きを見ていると、意識次第ではプロでも年間10盗塁ぐらいまでは期待できるスピード能力はありそうです。

こと守備・走塁に関しては、中の上ぐらいだと認識して頂ければ良いのではないかと思います。派手さはありませんが、基本は抑えられているのかなという印象があります。状況に応じては、足や守備で魅せてくれることもあろうかと思います。それだけの身体能力は、秘めています。





(打撃内容)

元々少し膝に固いところがあり、柔軟性に欠ける部分がありました。しかし打席での集中力を研ぎ澄まし、自分の打てる球を逃さず叩く「鋭さ」を身につけることにより、六大学の中で文句なしの成績を残すに至りました。本質的には、高橋由伸が中長距離タイプだったのに比べると、伊藤の場合は完全に中距離タイプであるように思えます。ただプレー一つ一つの意味を噛みしめ、状況に応じたプレーをすると言う意味では、大学時代の高橋より上だと言えるでしょう。

<構え> ☆☆☆☆

前足を少しだけ引いて、グリップの高さは平均的。腰の据わり具合がよく、両目で前を見据え、実にバランスよく構えられています。適度な緊張感を保ちながら打席に立てており、あとは余計に力まないように、リラックスを心がけたいですね。

<仕掛け> 平均的仕掛け

投手の重心が下がりきったあたりで始動する「平均的な仕掛け」を採用。典型的な中距離・ポイントゲッタータイプであり、彼もそういった打者を目指しているように思えます。ある程度の対応力と長打力を兼ね備えた打撃であり、3割・20本タイプ。しかし勝負強さを持ったような稲葉(日ハム)的な活躍が期待されます。

<足の運び> ☆☆☆☆

足を地面から少し浮かす程度の高さで、まわしこんできます。始動~着地までの「間」があるので、いろいろな変化に対応できます。踏み込みは、ほぼ真っ直ぐ踏み出すので、内角の球でも外角の球でも捌けます。踏み込んだ足下もインパクトの際にブレないので、外角の球に対しても素直にバットがでてきますし、身体が突っ込みません。

<リストワーク> ☆☆☆☆

打撃の準備である「トップ」を作るのは、早すぎず遅すぎずと平均的。少しトップが浅く、打球の反発力がどうかな?という部分はありますが、あれだけの打球を飛ばすのですから、その辺は気にしなくてよさそう。

バットの振り出しもよく、特に始動してからボールを捉えるまでの振り抜きが素晴らしいですね。ボールを捉えるまでも、バットの先端であるヘッドが下がらないようにスイングできているので、打球がフェアゾーンに飛んで行きます。

大きな弧を描きつつ、スパッと最後まで力強く振り抜けています。強打者ですが、大きなロスのないバランスの取れたスイングです。特にミートが素晴らしいとか無駄がないと言うよりも、甘い球が逃さず叩くんだという打席での集中力とボールの見極める選球眼の良さが、この選手の打撃を支えています。

<軸> ☆☆☆☆

足の上げ下げが小さく静かなので、目線のブレが少ないのが良いですね。踏み込んだ足下もブレないので、身体の開きを我慢。軸足にも安定感があり、軸を起点にしっかりした打球が飛ばせます。

(打撃のまとめ)

世界大学選手権の前あたりから、その責任感の強さからか、自分の打撃を崩しました。そういった経験も、彼がより大きく育って行くためには、必要なものだったと捉えたいですし、そう思って欲しいです。

けして天才的な打者ではないのですが、野球に向かう姿勢、打席での意識の高さが、すべてを集約しています。今自分にできることをする、まさにプロの職人のようなプレーを、すでに大学生でありながら実践できている唯一のアマチュアプレーヤーではないかと思います。





(あの瞬間)

冒頭に、春のプレーに彼のすべてが集約されている と述べたことについて触れます。彼は、三冠王の懸かった大事な打席、あと一本打てるば三冠王が獲得できるという打席でも、チームの勝利を優先して四球を選び、あとの打者に託しました。「フォアザチーム」と口で言うのは優しいのですが、一生に一度しかないかもしれないチャンスでも無理はせず、いつもの打席を心がけ仲間につなげました。この姿勢をみて、この選手は「本物」なんだなと強く実感した次第です。

その後チームメイト達も、なんとか伊藤にもう一打席まわすのだという、強い気迫がナイン達から伝わってきました。彼が4年間やってきた野球が、まさにここに集約されていると感動させられました。これほどのプレーヤーは、そう易々とは出てきません。そういった意味では、鳥谷 敬(早大-阪神)以来の大学生打者だと言えるでしょう。

(最後に)

春のリーグ戦で、この4年間の集大成を見せつけられたので、その後の不調などは問題ではないと考えております。あくまでも、彼がより大きくなるための試練ではないかとしか。

とにかく彼のようなプレーヤーは、常に優勝争いを狙えるような、常勝チームでプレーすることを期待します。彼のようなリーダーがいるチームこそ、チームが一つにまとまる集団なのです。数年後彼もまたプロの世界で、その歓喜の輪の中心にいるはず。そんな未来のチームリーダーになる男、 それがこの 伊藤 隼太 という男なのだ!


蔵の評価:☆☆☆☆ (1位指名級)


(2011年 秋季リーグ戦)










伊藤 隼太(慶応大)右翼 176/82 右/左(中京大中京出身)


(どんな選手?)

 全日本でも4番を任されるなど、どっしりした下半身を元に、勝負強さが売りの選手です。すでに、来年のドラフト候補としても注目される存在です。この春は、打率.286厘・2本塁打・12打点とやや物足りない数字。それでも自身初のベストナインに輝きました。

(守備・走塁面)

 下半身がガッチリした体格なので、それほど足が早そうには見えません。それでも塁間を4.1秒前後で走り抜けるなど中の上レベルの脚力はあります。ただ春のシーズン13試合で、盗塁は僅か1個と言うことからも、走力を売りにするタイプではありません。

 右翼手としての動きは、まずまずだと思います。地肩もまずまず強いですし、守備に関しては、中の上レベルはすでに期待できます。そういった意味では、大学の先輩・高橋由伸(巨人)を彷彿させますが、彼よりはワンランク守備に関しても劣る気が致します。





(打撃内容)

 自分の型を崩さない打撃が魅力であり、その一方で膝の固さから来る柔軟性の無さが、少し気になります。ただその勝負強い打撃は、ポイントゲッターとしての魅力は感じさせます。

 軽い左オープンスタンスで、グリップを高めに添える強打者スタイル。腰がグッと深く沈み、安定した下半身を元にバランスの良さを感じます。両目で前を見据える姿勢も良いのですが、自分のリズムを刻めるタイプではないので、少し脆いと言うか硬い印象を受けます。

 仕掛けは「遅めの仕掛け」を採用するなど、長距離打者が多く採用するスタイルです。実際のプレーを観ていると、明らかに中距離タイプの打者に見えるので、将来的に対応力を増すために始動を幾分早めることになるかもしれません。

 始動が遅い割に足を少し回し込むので、水準以上のスピード・キレのある球には差し込まれる可能性があります。左打者らしくアウトステップする打者なので、基本的にレフト方向へ流す打撃よりも、ライト方向に巻き込む打撃を得意とします。それでも踏み込んだ足下がブレないで叩けますので、ある程度左方向への打撃も期待はできます。

 あらかじめ捕手方向にグリップを持ってきているので、「トップ」を作るのが遅れることはありません。しかしトップ自体をしっかり作ることができない選手で、また非常に浅い中途半端な選手です。

 それでもバットのヘッドを立てながらスイングできるので、ボールをフェアゾーンに落とす確率が高いです。大きなロスは感じさせないスイングで、スイングの弧・フォロースルーは強打者らしく、それなりに大きいです。ただスイングの形を見る限り、スラッガーと言うよりは、完全に中距離打者との印象が強いです。

 最大の良さは、頭の位置も安定し、身体の開きも我慢でき、軸足も安定しております。体軸が大きく崩れないので、安定した打撃は期待できます。打球を遠くに運ぶと言うよりは、強い打球で野手の間を抜けて行く二塁打の多い中距離タイプです。


(今後に向けて)

 守備・走力は、売りにできるほどではないにしろ、プロの基準レベルを満たします。打撃の実績・内容からも、大学球界を代表する存在です。ただ個人的には、高校時代から少し固さを感じており、あまりピンと来るタイプではありません。

 高橋由伸の大学時代よりは数段劣りますし、同じ六大学ならば稲葉(日ハム)のような勝負強さとパンチ力を兼ね備えた強打者に育てばと思います。ただ残した実績・内容からも、来年の上位候補。またプロでの活躍も期待できるだけの下地もあり、今後も要注目の1人ではないのでしょうか。


(2010年 大学選手権)