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岸 敬祐(巨人)投手の藁を掴む!へ




岸 敬祐(23歳・四国・九州IL愛媛)投手 180/75 左/左





                        「適度にまとまっているね。」





 
関西学院高-関西学院大-関西独立リーグ・大阪ゴールドビリケーンズと進み、今年からアイランドリーグ・愛媛に移ってきた 岸 敬祐。ようやく今年、悲願のプロ入りを実現できた。今回は、この苦労人の投球を、考察してみたいと思う。今回も、幾つかの映像は確認できたものの、評価に値するほどの情報を持ち得ていないので、具体的な評価づけはできないことをご了承願いたい。





(投球内容)

ストレート 130~135キロぐらい

 幾つかの映像があったので確認したところ、大体130~135キロぐらいの球速と言った感じです。どちらかと言うと球威よりはキレで勝負するタイプですが、打者の内角を突いて詰まらせる強気の投球が自慢です。ただボール全体が高い傾向にあり、甘く入ると怖い側面があります。

変化球 カーブ・スライダー・シュートなど

 ブレーキの効いたカーブで、投球にアクセントとカウントをしっかり整えて来る。小さく横滑りスライダーも、打者の空振りを誘うと言うよりは、きっちりカウントを稼いで来る球。また左打者の懐を突くシュートボールも大きな武器。他にもフォークがあると言うが、私が確認した限り、縦の変化はよくわからなかった。


<右打者に対して> 
☆☆☆☆

 打者に決まるカーブでしっかり整え、両サイドにしっかり投げ別けて来る投球スタイル。特にインハイに速球やスライダーで厳しく突いたかと思えば、アウトローのストレートでズバッと見逃しの三振を奪うなど、コースへの投げ別ける制球力は安定している。

<左打者に対して> 
☆☆☆

 左投手であるが、左打者への制球は意外にアバウトだ。細かいコースの投げ別けよりも、ストライクゾーンの枠の中にボールを集めて来るといったスタイル。ただ左打者のインハイに、速球とシュートで厳しく内角を突くのが、最大の特徴。

 その反面真ん中高め近辺に、甘く入る球も少なくない。外角にも速球やスライダーを決めることができるが、投球の多くは内角で詰まらせるのが特徴となっている。ただスリークオーターなので、左打者の背中越しから来る独特の球筋であり、制球自体はアバウトも内角を厳しく突く投球は、左打者にとっては厄介だろう。


(投球のまとめ)

 球威・球速不足は否めないものの、それを補うだけの厳しい内角攻めがあるのが特徴。ストライクを先行できるだけの制球力があり、四球で自滅するようなことはない。そのため春先の早い時期ならば、実戦的でもあり頭角を現しそう。ただ打者が仕上がって来るオープン戦後半になると、内角攻めが通用するのかが一つポイントになりそうだ。完全にスケールで勝負すると言うよりは、まとまり実戦型投手。一年目から勝負したいタイプだろう。





(成績から考える)

 2010年度のアイランドリーグでの成績は、


38試合 6勝9敗1S 124回2/3 88奪三振 43四死球 防御率 3.18


四死球は、イニングの1/3以下 


 
四死球率は、34.5%と若干基準である1/3以下には収まらなかったものの、打者の内角を厳しく突く投球が身上の投手なのでどうしても死球が多くなってしまう。そのためこのぐらいの誤差ならば、それほど1/3以下になってなくても、悲観はすることはないだろう。ただ四球で自滅するタイプではないが、左打者への制球はアバウトな傾向があり、甘く入る球も少なくない。

奪三振 ÷ イニング数 = 1.0前後 

 奪三振率は、1イニングあたり0.71個と言うことからも、全く三振が奪えなくはないが、基本的に三振を奪うタイプではないことがわかる。打者の内を突いて詰まらせるのが、この投手の持ち味なのだ。

防御率は、1点台が望ましい 

 今シーズンの防御率は、3.18と、アイランドリーグの打力を考えても並程度の数字。強気の内角攻めは、読まれていれば絶好のカモとなるだけに、彼の特徴がわかってくると狙い打ちされる可能性は否定できない。またNPBの打者は、内角への見極めや捌きは格段に優れているので、紅白戦やオープン戦の序盤あたりは抑えられても、シーズンに入る頃にはどうだろうか?


(データからわかること)

 制球力こそ悲観する内容ではなかったが、過去アイランドリーグからNPB入りした投手の多くが、彼よりも優れた成績で入団している。しかし未だかつて、アイランドリーグ出身の投手で、NPBで大成した投手は皆無。このことを考えると、かなりの苦戦が予想される。





(投球フォーム)

 今度は、投球フォームの観点から考えてみたい。

<踏みだし> 
☆☆☆

 ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んで来る。足の引き上げは静かながら、その高さはそれなり。自分の「間」を重視した、先発タイプの「踏みだし」となっている。

<軸足への乗せとバランス> 
☆☆☆

 足を引き上げた時に、軸足の膝から上が真上に伸びてしまい膝に余裕がない。膝から上がピンと伸びきって余裕がないと

1,フォームに余計な力が入り力みにつながる

2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい

3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い

などの問題が生じる。ただ彼の場合、全体のバランスは取れており、軸足の股関節にも体重を乗せていることはできている。

<お尻の落としと着地> 
☆☆

 引き上げた足を空中でピンと伸ばした時、その足先が地面に向かって伸びており、お尻の落としが甘くなっている。お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労しやすいことにつながる。こうなると将来的に、見分けの難しいカーブや縦に鋭い変化は修得し難く、投球の幅を広げられないで伸び悩む可能性が高い。

 着地のタイミングは、可も不可もなしと言った感じ。着地を遅らせる意味としては

1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。

2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。

3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。

<グラブの抱えと軸足の粘り> 
☆☆☆

 グラブは内に抱えられているものの、途中後ろに抜けてしまい、しっかり抱えきれてない。グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになる。左打者に対する制球力のアバウトさは、この辺の動作が影響しているのかもしれない。

 足の甲の押しつけは、結構深く粘りのあるものになっている。足の甲で地面を押しつける意味としては、

1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ

2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える

などの働きがある。ただ実際には、彼の球は高めに浮きやすいので、それ以外の要因が考えられる。

<球の行方> 
☆☆☆

 セットポジションなので、テイクバックした時に、前の肩と後ろの肩が真っ直ぐ打者に伸びてしまい、ボール隠せていない。ただ「着地」の瞬間では、まだボールを持っている手は打者から見えておらず、身体の「開き」と言う意味では平均的だと言えそうだ。

 腕は、かなり下がったスリークオーター。左打者には、背中越しから来るような感覚の上、内角を厳しく突く投球は厄介。身体への負担も小さく、使い減りしないタイプではないのだろうか。

 ただ腕の角度がない上に、それほどリリースを押し込むような指先の感覚の良さはないので、どうしてもボールが上吊る要因も作るし、繊細なコントロールはつけにくい。。ちなみにボールを長く持つ意味としては

1,打者からタイミングが計りにくい

2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる

3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい

などがあげられる。

<フィニッシュ> 
☆☆☆

 身体に巻き付くような腕の振りではないが、しっかり腕は振れている。また前にグッと体重が乗ると言うほどではないが、投げ終わったあとバランスを崩さないフィニッシュで、適度にまとめれたフォームだ。

(フォームのまとめ)

 お尻が落とせない上に、スリークオーターの腕の振りなので、将来的に縦の変化で投球の幅を広げるのは難しそう。ただ身体への負担は少ないので、使い縁減りしないリリーフでの活躍なども期待できる。力量が伴えば、自分で試合を作る、先発の方が向いてはいそうだが。

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の観点でいえば、「球持ち」に、もう少し注意を払いたい。フォーム全体には、大きな欠点も長所もない、適度にまとまったフォームと言った印象。ただ左スリークオーターながら、左打者の内角を突く独特の球筋は面白く、左打者への制球が改善できてくると存在感が出てきそうだ。


楽天


(最後に)

 投球にもまとまりがあり、実戦的なので、育成枠でも早くから頭角を現しそうなタイプではある。ただその投球が、シーズンに入っても通用するのか?と言われると、個人的には疑問が残る。

 ストライクを先行できる反面、制球が甘い部分があり、外角の活かし方に課題を残す。あくまでも投球の基本は、外角で組み立てられることであり、これができないと同じ相手との対戦が多いプロでは苦しむことになるだろう。

 そういった欠点をプロ入り後改善できれば、NPBでも貴重な戦力に成り得る可能性は秘めている。ただ現時点では、そのことには不安があることは否めない。今後の上積みよりも、早めの結果を求めたいタイプで、春のキャンプから存在感を示すことを期待したい。強気の内角攻めが、どの程度通用するのか、ぜひ確認してみよう。


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