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上野 啓輔(ヤクルト)投手のルーキー回顧へ




上野 啓輔(24歳・四国・九州IL香川 )投手 193/92 右/右





                  「苦労が報われた男!」





 習志野高校から上武大に入学するも中退。そしてアメリカの独立リーグ・サムライベアーズに入団。更にテキサス・レンジャースの傘下で3シーズンを過ごした。その後、日本に戻り香川オリーブガイナーズに入団して2年目、プロアマ交流戦などでの好投が認められ、ようやくNPB球団への入団を実現した苦労人。


(投球スタイル)

 腕を大きく前に突き出すフォームから、角度のあるストレートを豪快に投げ込む本格派。特に豪快なフォームの割に、その投球は実に落ち着いている。彼の投球を詳しく観たい場合は、四国・九州アイランドリーグのHPにあるウエブスタジアムのコーナーに、彼の登板している試合の模様が、幾つかあるので参考にして欲しい。





(投球内容)

 腕を前に突き出すようなフォームで、190センチ台の体格を活かした角度のある投球が魅力の選手です。

ストレート 135キロ前後

 以前は、150キロ近い球を投げ込んでいたとの話しもありますが、今年のアイランドリーグの投球を観る限り、球速は常時135キロ前後ぐらいのようです。実際に球を観ても、それほど勢いは感じられる球ではありません。角度を活かした打ち難さとアメリカ帰りと言うこともあるのでしょうか?ボールをカットさせたりツーシーム的にシュート回転させたりと微妙に動かしている気が致します。そういった微妙に芯を外すことを重視したストレートが特徴です。

変化球 カーブ・フォーク(チェンジアップ?)

 緩急・カウントを稼ぐために、大きなカーブをアクセントに使います。この球は、コンビネーションの中でも大きな意味を持つ球です。あとフォークだか、チェンジアップだかわかりませんが、縦の変化があります。この球もドロンとしており、空振りを誘うと言うよりは、タイミングを外す球だと言えそうです。微妙にストレートは動かしますが、主な球種はこの3つの球で構成されている気が致します。

その他

 大型ですが、クィックは1.15~1.25秒ぐらいでまとめられるなど平均的です。牽制も鋭く、ランナーが飛び出しても慌てることなく、冷静に対処できる状況判断の良さが光ります。フィールディングも、190センチ台の大型投手とは思えない素早さがあります。

 制球自体は、細かいコースへの投げ別けはなく、ストライクゾーンに球を集めると言ったアバウトなタイプです。ただマウンド捌きは実に落ち着いていて、自分の「間」を大事に投球を組み立ててきます。経験が豊富で、すでに投球術としては熟練の領域に入ってきている気が致します。


<右打者に対して> 
☆☆

 
コースへの投げ別けに乏しく、ストライクゾーンの枠に中にボールを集めるといったタイプです。その球の殆どが高めに浮くので、際だつキレや伸びがなく、甘い球を痛打されるケースが目立ちます。

 緩急を活かしたカーブが一つ投球のアクセントになりつつ、フォークだかチェンジアップを勝負球に交えます。基本的に相手の芯を外し、打ち損じを期待する投球スタイルです。

<左打者に対して> 
☆☆☆

 右投手ながら、左打者への制球の方が安定している珍しいタイプです。特に左打者には、外角中心にボールを集めることができます。外にボールを集めつつ、カーブ・フォークを織り交ぜる投球スタイルで、打たせてとる投球パターンは、右打者と同じです。


(投球のまとめ)

 その投球を観る限り、際だつ球はありません。むしろ落ち着いて冷静だなというところに関心してしまいます。むしろ打力があったら、大型内野手か何かで育てたいほどの動きの良さと冷静なプレースタイルの持ち主でした。





(成績から考える)

2010年度アイランドリーグ成績

23試合 3勝0敗1S 67回1/3 28奪三振 25四死球 防御率 3.34

 
残念ながらアイランドリーグのHPには、被安打の項目がないので、それ以外の項目であてはめて考えてみたい。

四死球は、イニングの1/3以下 

 四死球率は、37.1%と、基準であるイニングの1/3以下には抑えられなかったが、それほど悲観するほどではない数字。ただこの投手問題は、四死球で自滅することは少ないがストライクゾーンの枠の中でのコントロールにある。本当のコントロールがない投手なので、NPBの強打者相手に神経を使っていると、四死球はかなり増えるのではないかと言う気はするのだが。

奪三振 ÷ イニング数 = 1.0前後 

 1イニングあたり0.42個と言う奪三振は、相当少ないと考えて頂いて結構だ。通常三振が奪える投手と言うのは、0.8個以上ぐらいの投手であり、0.5個を割ると言うのは、相当三振が奪えないと考えて好いだろう。その投球スタイルの通り、バットの芯をズラして打たせて取るのがこの投手持ち味なのだ。

防御率は、1点台が望ましい 

 過去アイランドリーグ出身で、NPBで一軍戦力と呼べるほど活躍した投手はいない。すでに毎年多くの投手が入団していても、彼よりも遥かに優れた成績でNPBの世界に飛び込んできている。そう考えると、この防御率ではかなり厳しいと言わざるえない。


(成績から考える)

 毎年のように選手をNPBに送り込むようになったアイランドリーグ。上野よりも遥かに優秀な成績で入団した選手は数知れない。しかし現在までは、誰一人一軍の戦力とまで活躍した選手はおらず、ここでの成績がすべてではないが、現状の力では厳しいと言わざるえない。





(投球フォームから考える)


<踏み出し> ☆☆☆☆

 足の横幅は、肩幅程度。ノーワインドアップから、ゆったりしたモーションで始動する。しかし足を引き上げる勢いがあり、高い位置まで引き上げられるなど、始動~足の引き上げまで加速が見られる、勢いのある「踏み出し」となっている。

<軸足への乗せとバランス> 
☆☆☆

 
軸足の膝が上がピンと伸びてしまい、膝に余裕がないのは残念。膝から上がピンと伸びきって余裕がないと

1,フォームに余計な力が入り力みにつながる

2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい

3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い

などの問題が生じる。ただ彼の場合、全体のバランスは取れており、軸足の股関節にも体重を乗せていることはできている。

<お尻の落としと着地> ☆☆

 引き上げた足を空中でピンと伸ばす時に、その足先が地面に伸びている。そうなると、お尻の一塁側への落としは甘くなる。お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労しやすいことにつながる。こうなると将来的に、見分けの難しいカーブや縦に鋭い変化は修得し難く、投球の幅を広げられないで伸び悩む可能性が高い。

 また「着地」までの粘りにも欠け、実にあっさりしているところも残念。着地を遅らせる意味としては

1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。

2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。

3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。

<グラブの抱えと軸足の粘り> 
☆☆☆

 グラブはしっかり内に抱えられていると言うほどにはないにしろ、最後まで体の近くにある。グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになる。

 ただ足の甲での押し付けが、地面から浮いてしまっているのは残念。足の甲で地面を押しつける意味としては、

1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ

2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える

などの働きがある。彼の場合、上体が腰高で下半身が使えていないので、どうしても球が高めに集まってしまうのはそのせいだろう。

<球の行方> ☆☆

 グラブを前に大きく突き出しているので、ボールを隠せているようにみえる。しかしグラブを前に出すのならば、斜め前でないとボールを隠すことはできない。実際に「着地」の時点では、ボールは打者からみえはじめており「開き」は、むしろ早い方ではないのだろうか。

 腕に角度をつけ、190センチ台の長身とこの角度で、かなり打者としては威圧感を感じさせる球筋となっているだろう。この角度こそ、この投手の生命線だとも言える。ただかなり腕の角度には無理があるので、体への負担は少なくない。充分にアフターケアに注意してもらいたい。

 「球持ち」自体は、平均的にみえる。むしろもっとボールを押しこんでもらいたいと思うぐらいだ。ちなみにボールを長く持つ意味としては

1,打者からタイミングが計りにくい

2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる

3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい

などがあげられる。

<フィニッシュ> 
☆☆☆

 振り下ろした腕は振れ、体へも上手く絡んで叩けている。ただ「体重移動」はイマイチで、前へしっかり移っていっていない。そのためボールに手元までの勢いがなく、棒球になりがちなのだ。


(投球のまとめ)

 お尻が一塁側に落とせないだけに、投球の幅を広げられないで伸び悩む可能性が考えられる。また体への負担も少ないフォームなので、故障には注意したい。

 また両サイドへのある程度の投げ分けは期待できても、高めにボールを浮く傾向を改善したい。実戦力を司る、投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」でも、それぞれの動作で甘さが残り、投球フォームの観点からも、即戦力とは考えづらい。


楽天


(最後に)

 こうやって考えていると、実際の投球・残した実績・フォーム技術等でも、すべてにおいて、NPBで即戦力となるのは考えづらい。当然育成枠であることからも、数年かけて一軍への戦力を期待しての獲得だろう。

 それにしても厳しい条件が揃っており、よほど投球が劇的に変わらない限り厳しいと考えられる。しかし数多くの苦難を乗り越え、NPB入りを実現した選手。その高い壁を乗り越えて行って欲しい。ぜひその成長過程を、ファームでの試合で確認して行きたい!


この記事が参考になったという方は、ぜひ!


(2010年・春)