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久古 健太郎(ヤクルト)投手のルーキー回顧へ




久古 健太郎(24歳・日本製紙石巻)投手 182/80 左/左





                「見る人は見ているね。」





 青学時代、日産自動車時代も見ていると思うのだが、それまで何とも思ったことがなかった 久古 健太郎 投手が、この夏の都市対抗で大きく変貌したことに驚かされた。日本製紙石巻のエースとして、チームを初の東京ドームへと導いた。


(投球スタイル)

 左のサイドハンドに近いスリークオーターから投げ込まれる独特の球筋が、この投手の特徴。両サイドを広く使って、ボールを投げて別けて来る投球スタイルだ。





(投球内容)

ストレート 135~MAX142キロ

 格別球威・球速はなく、むしろ左サイドに近いフォームから投げ込まれる、独特の球筋が特徴です。両サイドに大雑把に投げ別けるコントロールがありますが、結構ストレートの制球は暴れます。ただその分、腕は強く振れておりますので、変化球を効果的に使える特徴があります。

変化球 スライダー・スクリュー

 右打者の内角高めと左の外角高めに決まるカウントを整えるスライダーと、右打者の真ん中低めで引っかけさせるスライダーがあります。ただ都市対抗では、低めで引っかけさせるスライダーを、ことごとく見極められて効果的に使えなかったのは痛かったです。

 もう一つの武器は、右打者の外角に逃げながら沈むスクリューボール。この球が非常に効果的で、大きな武器になります。ただこの球を使えない左打者に対しては、ややピッチングが窮屈に感じられます。

その他

 クィックは、1.2秒~1.3秒ぐらいと、やや基準である1.2秒より遅く、けして素早く投げ込めるタイプではありません。ただ一塁走者の動きが視界に入りやすい左投手だけに、それほど悲観することはないと思います。牽制に関しては、一応のレベルにもあるようです。

 ただ試合をまとめる能力には破綻はないのですが、けしてピンポイントで決めると言うような繊細な制球力の持ち主でも、抜群の投球センスのある選手ではないように思えます。

<右打者に対して> 
☆☆☆☆

 アウトコース高めにストレートとスライダーでカウントを整えつつ、インコースに食い込んで来るスライダーを投げることで、外角への踏み込みを封じます。追い込むと外角低めに逃げるスクリューを効果的に使ったり、真ん中低めあたりに決まるスライダーで引っかけさせるのが、この投手の持ち味です。

 縦の変化や緩急には乏しいのですが、右打者に対してのバリエーションは豊富で、結構投球の幅は狭くありません。とかくサイド投手は、球種が乏しく投球が単調になりがちです。しかしこの投手の右打者に対する攻めは、そのようなことはなさそうです。

 特にスライダーで内に曲がって来るのか、それともスクリューで外に逃げて行くのか、あるいは速球でコースを突いてくるのか?コースの投げ別け・球速の変化もあり、的は絞りにくいと思われます。

<左打者に対して> 
☆☆☆

 左の横手から来る独特の球筋を生かせそうなものなのですが、どうも左打者への投球は窮屈に感じられます。基本的には、外角に速球とスライダーを投げ込む投球スタイル。時々インハイに胸元を突きます。

 スライダーの曲がりが、ストライクゾーン~ボールゾーンに切れ込むような曲がりではないので、どうしても振らせる球に欠けるきらいがあります。そのため、打者に踏みこれて長打を浴びる、そういった怖さがあります。左横手投げながら、あまり左打者を得意としていると言う感じは受けませんでした。


(投球のまとめ)

 それほど球威・球速があるタイプではないので、長いイニング投げていると、打者に慣れられて打たれるケースが多そうです。それだけにプロレベル相手ならば、あくまでもリリーフとしての登板が期待されます。

 ただ上記でも書いたように、左投手ながら左打者をそれほど得意とはしていない点を注意して起用すべきだと思います。制球にさほど不安があるタイプではないので、制球が乱れて大崩れしない安心感はありますが、この投手は自信を持って腕が振れるのかにかかっています。





(投球フォーム)

 ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んできます。足を高い位置まで勢いよく引き上げる力投派で、元来はリリーフ向きな投手だと思います。

 左横手の腕の振りもありますが、お尻を三塁側(左投手の場合は)に落とせるフォームではありません。そのため、将来的にも見分けの難しいカーブや縦に落差のあるフォークなどを修得するのは難しいです。

 グラブは身体の近くにはありますが、しっかり抱え込むことはできていないので、やや両サイドへの制球はアバウトな傾向があります。足の甲での押しつけは、ソコソコできているので、変化球を中心に低めに集まる傾向があります。ただ腕を外からブンと振ってくるタイプなので、それほど繊細な制球力は期待できないかもしれません。

 腕の角度に無理はなく、身体への負担は少なそうなので、それほど故障に悩まされるタイプではないと思われます。それでも故障には、充分注意してもらいたいものです。

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の観点でみれば、最大の特徴は「開き」の遅さにあります。左横手独特のボールを長く隠すことが、打者にとっては厄介です。ただ「着地」の粘りはイマイチなので、球の出所が見難い割には、その効果は薄そうです。

 腕をブンと強く振ることで、ボールに勢いを出すタイプです。「体重移動」をしっかり行って、ウエートを乗せて投げ込むタイプではけしてありません。そのため、腕が振れてなんぼの投手であり、腕が振れなくなると打ち込まれる傾向が強そうです。





(データから考える)

 都市対抗予選では、主戦として活躍致しました。その時の成績は、

2試合 13回1/3 10安打 12奪三振 0四死球 防御率 1.35

それほどサンプルとしては多くないのですが、この成績が特徴をよく現しております。

 被安打率は、75.2%。都市対抗本戦のヤマハ戦でも、5回2/3イニングで4安打と71.4%と似たような傾向が見られました。まずプロの一軍を意識するのであれば、被安打率は70%以下に抑えたいことを考えると、微妙な力の投手であることがわかります。

 奪三振は、1イニングあたり0.9個。都市対抗本戦でも、4個の奪三振を奪っておりました。元来、それほど三振をバシバシ奪うタイプではないように思います。それでもソコソコ三振が奪えるのは、左腕故の特性ではないのでしょうか。

 都市対抗予選では、四死球0と制球が安定。しかし本戦では3個を出すなど、やや制球に苦しんだことがわかります。恐らくその理由は、先にもあげた通り、右打者真ん中低めのスライダーを見極められるなど、普段振ってくれるボールを見極められ、自分のペースに持ち込めなかったことからだと思われます。当然プロの打者は、もっと見極める選球眼や打力がありますから、その辺では結構微妙なところで成り立っている制球力なのかな?と言う気は致します。

 予選では防御率1点台と安定しましたが、全国レベルのヤマハ相手には3失点致しました。現状、長いイニングではプロ相手だと厳しいかなと言う印象は否めませんでした。


楽天


(最後に)

 最初見た時は「おっ!」と思って見ていたのですが、イニングが進むにつれて、どうなのかな?と言う不安を感じました。実際今回詳しく見てみても、かなり力的には微妙なのかな?と言う印象は残ります。

 ただ左横手の希少価値を活かした面白い存在であるのは確かですし、相手が馴れるまでの1巡りぐらいまでと言う限定ならば、ある程度プロでも使える面白味はあるかなとも思います。

 不安な部分もあるのですが、自分の資質を地道に高めてきた姿勢は高く評価できます。プロに入るならば、あえて今がピークだと思われる節もあり、ここは下位指名ならばありなのかな?と言う気は致します。あえて面白い左腕と言う部分を買って、指名リストに名前を残すことに致しました。


蔵の評価:
(下位指名級)


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(2010年・都市対抗)