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山野 恭介(広島)投手のルーキー回顧へ








山野 恭介(大分・明豊)投手 179/71 右/右





              「いいものは持っているのだけれども」





 2010年度の九州NO.1右腕として、前年から期待されていた 山野 恭介。しかし最終学年において、イマイチその評価が上がってこなかったのは何故だろうか?4月に観戦した春季九州大会から3ヶ月余り。それからの山野を追いかけてみた。





(投球内容)

 下記の寸評にもあるように、私が観戦した春季九州大会2回戦では、故障のためその球速は120キロ台~MAXで130キロ台中盤ぐらい。まるでキャッチボールような投球で、それも序盤での降板で全く参考にならなかった。それに比べると、最後の夏の大分大会では、ようやくその全貌が明らかになった。

ストレート 135~MAX143キロ

 春季九州大会でも、私が観戦できなかった試合では、MAX144キロまで到達していたと聞いている。ただ元々球威よりもキレやボールの勢いで勝負するタイプであり、多彩な変化球と織り交ぜて初めて、その持ち味が発揮されるタイプ。特に最初は意識的にシュート回転させるようなツーシームを使っているのかなとも思ったのだが、どうもナチュラルにシュートしているだけのような気がする。その球が中に甘く入ると、球威に欠ける分怖い側面がある。けしてストレートには、威圧感のある球質ではない。

変化球 カーブ・スライダー・フォーク(チェンジアップ?)

 100キロ台のカーブよりも、普段は110キロ台中盤のスライダーとの中間球でカウントを稼いできます。更に120キロ台中盤のスライダーもあるのですが、それよりもこの110キロ台のスラーブ的な中間球を投球の核として使用してます。その他、フォークのようなのですが、変化はチェンジアップのような縦の変化も、投球では大きなアクセント・決め球として使用します。ただ絶対的なキレがないので、どうしても空振りよりもタイミングをずらす役割を担うことが多いです。

その他

 フィールディングは、けして下手ではありません。ただ集中力に欠ける部分があるので、なにやら凡ミスを犯しそうな印象は受けます。けして、丁寧にボールを扱うタイプではありません。牽制も、動作自体は鋭いのですが、何処かスムーズさに欠ける部分があります。クィックは、1.05~1.20秒ぐらいでまとめられるなど基準以上。運動神経に優れ、野球センスも悪くないので、器用にこなせます。

 適度にピンチになれば、マウンドを外すような危険回避能力はあります。元々指先の感覚も悪くなく、器用なところはある選手です。ただ春季大会でも気になったのが、投手らしいきめ細やかさがなく、雑な一面がみられます。けして試合をまとめるセンスがないわけではないのですが、結果甘くなったところを打たれるようです。

<右打者に対して> 
☆☆☆

 基本は、外角にストレートと110キロ台のカーブのような球でカウントを整えます。たまにスライダーなど他の球種を織り交ぜつつ、武器になるフォークボールを、チェンジアップのようにストライクゾーンに落として仕留め来ます。

 内角を厳しく攻めているのかは微妙ですが、内角にもカーブとフォークが決まるので、全く内角に行かないわけではありません。ただストレート系で厳しく攻めているわけではないので、打者の踏み込みを抑えると言う効果には薄いのではないのでしょうか。

 四球で自滅するタイプではないのですが、真ん中高め近辺に甘く入ることが多く、その球を痛打される場面が目立ちます。そういった細かい制球力がないところが、この選手の最大の課題です。

<左打者に対して> 
☆☆☆☆

 むしろ内外角をきっちり投げ別けられると言う意味では、左打者に対しての方が安定しております。左打者には、ストレートもアウトローに集まりやすく、インハイにも厳しく付くことができます。カーブやスライダーでカウントを稼ぎつつ、最後は、外角低めにフォーク落とします。

 空振りを取れるような絶対的な球はないのですが、制球・意図とする配球も明確で、しっかり投球を組み立てることができています。

(投球のまとめ)

 球速も多いですし、マウンド捌きも悪くありません。ただ性格的なものなのか?勝負どころで甘くなったり、雑になったりとせっかくの良さを生かし切れない欠点があります。元々の野球センスも高いと思うのですが、何処か器用貧乏な側面が見え隠れします。

 またこの選手は、鋭い腕の振りが持ち味で、腕が振れてナンボと言うタイプです。故障などの不安を抱えて、腕が振れなくなると持ち味は大きく半減いたします。そういった悪い時に、悪いなりにまとめると言った部分には、あまり優れているとは言えなそうです。





(投球フォーム)

<踏みだし> 
☆☆☆

 足を軽く引いて、足の横幅は狭めに構えます。すなわちバランスよりもボールの勢いを重視した立ち方になっております。足をなかなか引き上げないなど、投球フォームの「間」を意識した先発タイプです。足を引き上げる勢いは大人しく、引き上げる高さもやや低めと、「踏みだし」自体は、けして躍動感溢れるタイプではありません。

<軸足への乗せとバランス> 
☆☆

 足を引き上げて軸足一本で立つときに、軸足の膝から上が真上にピンと伸びてしまっている。膝から上がピンと伸びきって余裕がないと

1,フォームに余計な力が入り力みにつながる

2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい

3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い

などの問題が生じる。また全体のバランスもやや悪く、軸足への体重乗せ具合も不十分に見える。

<お尻の落としと着地> 
☆☆☆

 春季大会の頃より良くなったのか?私の春観た時の見方が悪かったのかは定かではないが、お尻の落としは春より悪いようには見えなかった。ただそれでも、引き上げた足をピンと空中で伸ばす時に、地面に向かって伸びていないので、どうしてもお尻の落としには甘さが残るのは確か。そのため見分けの難しいカーブや縦に鋭く落ちる変化にも、どうしても切れ味・ブレーキが鈍ってしまうのは、そのせいかもしれない。お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労しやすいことにつながる。

 着地までの粘りも、可もなく不可もなしと言った感じ。着地を遅らせる意味としては

1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。

2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。

3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。

<グラブの抱えと軸足の粘り> 
☆☆☆

 グラブも内にしっかり抱えられているわけではないのだが、結果として最後まで身体の近くにあるのは確か。グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになる。

 足の甲での押しつけも、けして深くはないが、押しつけて時間は短くない。すなわちボールを低めにはあまり押し込めないが、エネルギーを後半のフォームに伝達することはできていることになる。足の甲で地面を押しつける意味としては、

1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ

2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える

などの働きがある。

<球の行方> 
☆☆

 テイクバックした時に、前の肩と後ろの肩が、打者に真っ直ぐ伸び気味だ。そうするとフォームが直線的になってしまい、打者からはボールが常に見やすい。更に「着地」の瞬間には、身体が開き始めており、球の出所が見やすい。球が見やすいと、どうしても球筋や球種が早く読まれやすいので、幾ら速い球を身につけても、その効果は薄い。

 また腕を無理に高いところから振り下ろそうとしてしまい、身体への負担が大きい。目安としては、テイクバックした時に、ボールを持っている腕が上がりすぎず、グラブを持っている腕が下がり過ぎないで投げられるのが負担の少ないフォームだと言える。春季大会の時も故障で能力を出し切れなかっただけに、プロ入り後も充分なアフターケア注意しつつ、フォームの修正に心がけるべきではないのだろうか。

 「球持ち」に関しては、けして悪い感じはしない。あとは、もっとボールを押し込めるようになれば、制球も安定して来るだろう。ボールを長く持つ意味としては

1,打者からタイミングが計りにくい

2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる

3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい


<フィニッシュ> 
☆☆☆

 この選手の生命線は、如何に腕が振れるのかと言う部分。ただそういった意味では、この夏は振れており投げ終わったあとに、身体に絡んできていた。また前への「体重移動」も、けして悲観するほど悪くはない。ただ足をポンと蹴り上げるような躍動感は感じられず、まだまだ発展途上の印象を受ける。この部分が良くなってくると、もっとボールに体重が乗り、手元まで勢いのある球が投げられるようになるだろう。

(フォームのまとめ)

 お尻の落との甘さや着地までの粘りにも甘さがあり、どうしても球の切れを鈍らせる要因を作っている。また腕を無理に振り下ろすフォームからも、故障への不安は拭い切れない。

 また制球へを司る、グラブの抱えや軸足の粘り、「球持ち」にも甘さが残り、まだ制球が不安定。投球の4大動作である「着地」「球持ち」「体重移動」は、発展途上ながらも努力次第ではまだまだよくなりそう。あとは、根本的に「開き」の早いフォームを、如何に改善できるのかにかかっている。


楽天


(最後に)

 持っているポテンシャルは、本会議でドラフト指名された選手とヒケはとらないはず。ただやや順調さを欠いた故障への可能性と、高校から野球で飯を食うんだと言う意識の部分では、不安を感ずにはいられない。特に昨夏からほとんど伸びてきた印象はなく、そういった部分でもマイナス材料だ。

 特に勝負どころでの甘さ・きめ細やかさに欠けるプレースタイル。開きの早いフォームなど、今後も伸び悩む要素も少なくない。ただその辺の甘さを、精神的・技術的に改善して行ければ、将来的に一軍で活躍できる素質は充分あるだろう。

 ただ個人的には、まだ「旬」の時期ではなく、大学や社会人などに進んでからの方が好かったと評価する選手。才能は確かだが、それを活かすことができるのか?これからも注目して行きたい。


この記事が参考になったという方は、ぜひ!


(2010年・夏)





山野 恭介(大分・明豊)投手 179/71 右/右


 福岡で行われた春季九州大会。私は、この 山野 恭介 の成長ぶりを確認するのが、一番の楽しみであった。昨夏の時点で、MAX149キロを誇る快速球投手。一冬越えて、一体どんな成長を遂げているのか?胸の高まりが抑えずにはいられなかった。


(この日の投球)

 1回戦の試合で、山野は期待どおり完投勝利を収め、私の観戦する2回戦に勝ち上がってきた。一回戦のMAXは、144キロだと聞いていたが、2回戦での投球練習を観て、私は愕然とした。まるでキャッチボールのような軽い投球練習しかできず、試合になってもいっこうにエンジンはかかってこない。

 聞くところによる、肘か何かに違和感があって、まとに投げられなかったそうだ。なんとかマウンドに上がったものの、球速は120キロ台がほとんどで、力を入れた球でもMAX85マイル(136キロ)が、この日の最速だった。そこで今回は、この日の投球と昨夏の模様も交えて、彼の将来像に迫ってみたい。


(投球内容)

 この日は、ほとんどが120キロ台で、追い込むと力を入れてなんとか130キロ台中盤まで記録。昨夏観た時はは、コンスタントに140キロ台を記録し、ビシッとミットに突き刺さる威力のある速球は、MAX146キロを記録していた。

 変化球は、カーブ、スライダー、フォーク、チェンジアップなどで、特にブレーキの効いたスライダーのキレが良かった。むしろこの投手の良さは、ストレートを見せ球にしつつ、腕の振りの良さを活かした変化球にあるのではないのだろうか。

 クィックは、1.05~1.20秒ぐらいと素早く、マウンド度胸は良いが、少々力が入り過ぎて投げすぎかなといった感じで、リリースの力加減がまだわかっていない。特に普段のコントロールは悪いとは思わないものの、出してはいけない時に、あっさりと四球を出してしまうなど、本当の制球力がない投手だ。その傾向は、一冬越えてもあまり変わっていなかった。

 特にその所作を観ていても、投手に必要な細かさや、こだわりに欠けるタイプで、性格的には野手的なタイプだなと言う印象を受けた。少なくても試合を作ってゆくと言うよりは、球の力で押すリリーフの方が向いるのだろう。


動画:山野 恭介(明豊)投手


(投球フォーム)

 動画にあるように、春季九州大会のフォームは、腕が振れず殆ど参考にならない。そこで昨夏の模様も参考にしながら、フォームについて考えてゆきたい。

 まず地面に向かって足を伸ばすフォームなので、お尻は一塁側に落ちません。そのため将来的にも見分けの難しいカーブや縦に鋭く落ちるフォークを武器にすると言うよりは、鋭い腕の振りを活かしたスライダー・チェンジアップを武器にするタイプになりそうお。

 グラブは、胸元にしっかり最後まで抱え込めているので、両サイドへの投げ分けは悪くありません。ただ足の甲の押しつけができず、つま先のみで地面を抑えます。そのため上体が高く、ボールが上吊りやすい傾向があるようです。ただ彼の場合、速球は高めに集まりがちですが、変化球が低めに集まるのは救いです。

 投球フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」などの観点でみると、「着地」までの粘りがなくあっさりしているのが気になります。思ったよりも身体の「開き」「球持ち」は悪くないのですが、「体重移動」も不十分で、上半身で投げている印象があります。ですから打者からは、球速の割にタイミングは合わせやすく、意外に苦にならないタイプなのではないのでしょうか。

 ボールにキレを出すために、上体や腕を無理に鋭く振ることでキレを生み出すタイプです。その上無理に腕に角度をつけようとしているので、身体への負担が非常に大きなフォームです。このままだと、疲労が溜まりやすいだけでなく、故障に常に泣かされる可能性は否定できません。


(今後に向けて)

 投球フォームの粘りの無さに加え、実際のプレースタイルも淡泊で粘りに欠ける印象があります。ですから球の勢いで押せている時は良いのですが、逆境になると意外に脆いのかなと思えます。

 その辺は、昨夏から気になっていた点で、プロで長く飯を食ってゆくんだと言う、精神面には不安を感じます。腕の振りの素晴らしさ・速い球を投げ込める潜在能力はプロ級ですが、心技体の観点でみると「技」と「心」の部分に課題を感じます。

 更に圧倒的なポテンシャルは秘めているものの、故障の可能性は常につきまとうタイプでしょうから、能力が常に遺憾なく発揮できる可能性は低いのではないかと思います。そういったセーブせざる得ない状況の時に、投球をまとめられる器用さは、どうなのかな?と言う疑問は持ちまず。

 持っている素材は充分にプロ級ですが、そういった部分を考えると、夏によほど素晴らしいパフォーマンスを見せない限りは、大学や社会人に進んだ方が無難なのではないかと感じます。ただその辺も含めて、好調時の彼の投球を観てから最終的な判断を下したいです。


蔵の評価:追跡級! 


(2010年 春季九州大会)