10dy-8





北野 洸貴(ヤクルト)外野手のルーキー回顧へ




北野 洸貴(神奈川大)中堅 173/66 右/左 (創学館出身)





                     「随分観ているはずなんだけれども・・・」





 実際に今年に入ってからも、何度も観ているはずなのに、正直ピンと来たことがない選手だった。それもそのはずで、4年間で初めて、この秋リーグのベストナインに輝くなど、これまで神奈川リーグでも、際立つ存在ではなかったからだ。そんな選手が何故、育成枠とはいえドラフトされたのか考えてみたい。





(守備・走塁面)

 彼の最大の魅力は、塁間3.85秒前後で走り抜けられる脚力を全面に押し出したプレースタイルにあります。

通常塁間の目安となるのは、

3.9秒弱  プロで足を売りに出来るレベル

4.0秒前後 足を売りに出来るのかは走塁センスにもよるが、プロでも俊足の部類

4.2秒前後 スカウトが、プロの基準と判断するタイム

4.3秒以下 プロの基準以下となり、割り引いて考える

となる。上記の数字は、左打者の目安であり、通常右打者の場合、タイムから、0.3秒を引くと、同等の走力が計測することが出来る。ただし、セーフティバントや左打者が一二塁間に引っ張ったような、最初から一歩目のスタートをきっているような場合は、参考資料とはならない。

 彼の場合、セーフティバントで揺さぶったり、隙あらば次の塁を果敢に狙いにいったりと、そのスピード感あふれる走力は、プロでも足を売りにできるレベルです。この脚力があったからこそ、プロへ指名されたといえるでしょう。

 中堅手としても、この快速を活かし非常に広い守備範囲を誇ります。打球への勘・守備範囲の広さは素晴らしいのですが、あとはキャッチングがどうなのかな?と言う印象は受けます。地肩も物凄い強肩と言う感じは致しませんでしたが、プロレベルに混ぜても中の上レベルはありそうな返球を魅せておりました。

 プロで経験を積めば、守備・走力を売りにしたプレーヤーとして、将来的には期待できる部分があります。





(打撃内容)

 完全に鋭いスイングではじき返すアベレージ打者との印象を受けます。その打球は、右にも左に打ち返す幅広い打撃をします。ただここまで私自身気にならなかったのは、やはり打力の無さにあったと思います。最後のシーズンで、リーグ4位の打率.341厘こそマークいたしましたが、それでもドラフト候補・プロ指名となると、まだまだ非力さを感じずにはいられませんでした。

 
<構え> 
☆☆☆☆

 前足を少しだけ引いて立ち、グリップを高めに添えた強打者スタイルです。腰の据わり・全体のバランス・両目で前を見据えた姿勢も良く、非常にバランスがとれた構えです。

<仕掛け> 早めの仕掛け  投手が足を降ろし初めて~一番底に到達する間に始動

 これが、現在採用される仕掛けの中では、最も早い仕掛けとなる。打者が足を地面から浮かし~着地するまでの時間(間)が長いほど、打者はいろいろな変化に対応出来る可能性が広がる。そのためアベレージ打者は、この仕掛けを採用するケースが多い。ちなみに今回の熊代選手は、この段階での仕掛けを採用しており、
現在アベレージ打者の傾向が強いことがわかる。

<下半身> 
☆☆☆☆

 早めに足を引き上げ、長い時間足をあげてキープするスタイルです。それだけ「間」が取れていることからも、緩急の変化に対応しやすいポイントの多い打者だと言えます。

 左の巧打者にしては珍しく、ベース側にインステップして踏み込んできます。それだけ外の球を強く意識したスタイルです。しっかりベース側に踏み込んだ足元は、インパクトの際にブレません。そのためパワーロスも少なく、体の開きも我慢できたスイングが期待できます。

 ただ左の巧打者タイプならば、基本は真っ直ぐ踏み込むかアウトステップが基本です。とにかく左方向に徹底的な転がそうと言うこだわりがあるのならば別ですが、右投手の食い込んで来るクロスへの球筋(特に内角よりの球には)、懐を開けやすいアウトステップが対応しやすいからです。あとは、最初の一歩目のスタートが切りやすいなどの理由が考えられます。この辺は、彼が今後プロの世界で、足を売りにするスタイルを模索する時に、何がより自分の特徴を生かせるのか深く追求して欲しいところです。

<上半身> 
☆☆☆☆

 打撃の準備段階である「トップ」を作るために、少しバットを引くのが遅れ気味なのかなと思います。それでもバットを巧打者らしく、上から最短距離に振り下ろします。そのためインパクトまでは、ロスなくボールを捉えることができております。ボールを捉える時も、上から振り下ろす割に、バットの先端が下がらないように、ヘッドを立てる意識を忘れません。ただその意識が強すぎて、ボールをこねて引っ掛けてしまうケースが目立ちます。その辺のスイングを、もう少し自然体にできるように振り抜けるようになると好いと思います。

 ヘッドスピード自体は鋭いのですが、まだプロの球威・球速を意識すると、スイングが弱い印象は否めません。この辺が、少しプロの投手への対応で苦労するかなと思います。

<軸> 
☆☆☆☆

 足を上げ降ろすスタイルですが、頭の動きは小さいです。そのため目線はブレ難く、球筋をしっかり追うことができております。体の開きが我慢できておりますし、軸足にも粘りを感じます。安定した打撃が、期待できるのではないのでしょうか。


(打撃のまとめ)

 技術的には、かなり完成度の高いものを身につけております。あとは、プロの球威・球速に対する馴れと、それに合わせたスイングを身につけられることが重要だと考えます。

 ただここまで打撃であまり目立たなかった選手であるように、ボールを捉えるセンス・才能は、さほど図抜けているわけではないと思います。その辺を努力と技術で補ってきた選手だと言えるのではないのでしょうか。ここから先は、いかに自分が創意工夫して、カベを乗り越えて行ける、人間としての幅の広さと野球への探究心・精神的なタフさが求められます。

 ただ打席に入る前の、地面の馴らし方へ試合の入り方を見る限り、野球への意識は高そうです。また試合の端々から見え隠れする、隙突くプレースタイルからも、試合への集中力は高そうです。





(最後に)


 左の巧打者で育成枠で入団した選手と言うと、田上 健一(創価大-阪神)外野手が思い出されます。彼と比較すると、打力では田上選手の方が上でした。その彼でも、ルーキーイヤーのファームでの成績は、打率.242厘だったことを考えると、もっと苦しむかなと思います。ただ田上は、ルーキーイヤーから22盗塁をマーク致しました。脚力・守備力では、この田上よりも上である北野にとって、常時試合できる機会を得れば、この部分ではそれ以上の数字を期待できるだけのものがあると思います。

 そういったプロで売りにできるだけの絶対的なものがある分、プロで大成できる可能性は高いと考えます。あとは、1にも2にも、一軍で通用するだけの打力を身につけられるかだと思います。そういった意味では、その打撃を身につけるのに数年はかかるものと考え「旬の時期」ではないと考え、指名リストに入れることは致しませんでした。ただ育成枠ならば、特徴があるだけに、ありの指名なのかなと思います。今後彼が、どのような存在感を示してくれるのか、個人的には大変興味深いものがあります。


この記事が参考になったという方は、ぜひ!


(2010年・神宮大会)