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塩見 貴洋(楽天)投手のルーキー回顧へ






塩見 貴洋(八戸大)投手 181/78 左/左 (帝京五出身)





                 「良くなったと聞いていたが・・・」





 6月の大学選手権の時と比べても、更に良くなったと聞いていた 塩見 貴洋 。これまで投手としての、総合力・力強さに、まだ物足りないものがあっただけに、僅か4か月あまりの間に、どの程度変わったのか、ぜひ確認してみたいと思っていた。





(投球内容)

ストレート

 春の大学選手権の時は、常時130キロ台後半~MAXで140キロ台中盤ぐらい。敗れた神宮大会・関西国際大戦では、4回以降エンジンがかかって140キロ台中盤(MAX147キロ)を連発するなど、ワンランク球速を増してきた。ただコンスタントに、こういった球が投げられるわけではなく、まだまだ筋力・スタミナ不足がある発展途上の投手なのだ。

変化球 カーブ・スライダー・スクリューなど

 春よりもカーブでカウント・緩急を意識した配球だった。このカーブがしっかり曲がっている時は良いが、結構曲がりきらずに抜けていることも多い。横滑りするスライダーも、それほど三振を奪うほどの威力は感じられない。まだスクリューも、正直大きな意味があると言うほどの精度ではない。実際三振を奪っているのは、ストレートが多い。

その他

 左腕らしく、牽制はそれなり。クィックは、1.2~1.35秒前後と、それほど上手くはないが、左投手だけに走者の動きが目に入りやすいので悲観することはない。ただクィックは、大学選手権の時の方が鋭かった。一塁へのベースカバーも早く、フィールディングの動きも大型の割にいい。

 四球で自滅するタイプでもなければ、ピンチでも適度にマウンドを外したりと、ピッチングセンスは悪くない。今年のドラフト候補の中でも、数少ない先発型のサウスポーだと言えそうだ。

(投球のまとめ)

 それほど普段の球の威力、投球内容に、大きな成長は感じられなかった。ただ本気モードになれば、140キロ台中盤を連発できるようになり、春よりもワンランク球速が増してきた印象はある。それでも決め手に欠けるところなど、武器になるものがまだないのは不安材料にはなる。


(リーグ成績)

リーグ 試合数 勝ち 負け イニング 被安打 四死球 奪三振 防御率
1年春                
1年秋                
2年春 9回1/3 11 11 3.86
2年秋                
3年春 35回1/3 16 1 32 0.51
3年秋 25回1/3 25 31 2.13
4年春 39回1/3 13 45 0.00
4年秋 40回1/3 27 61 1.34

 最終学年では、春・秋共にリーグMVPを獲得。3年春に本格化してからは、リーグを代表する投手として活躍してきた。3年秋~4年春に向けて、まだビシッとしていなかったピッチングが大幅にパワーアップ。一躍ドラフト上位候補として注目されることになる。


1,被安打は、イニング数の70%以下 

 本格化した最終学年では、春・秋にこの数字をクリア。リーグ戦では、球の威力で圧倒していたことが伺われる。ただこれが全国レベルの相手、ひいてはプロの打者相手となると、そうは簡単に行かない。

2,四死球は、イニングの1/3以下 

 やや数字を落とした3年秋のシーズンを除けば、このファクターも見事にクリア。四球で自滅するようなタイプでは、まずないことがわかる。

3,奪三振 ÷ イニング数 = 1.0前後 

 数字を落とした3年春のシーズンでも、奪三振率は1イニングあたり、0.91個を記録。あとのシーズンでは、みなイニングを越えるペースで三振が奪えている。特にこの秋は、奪三振率が1.51個と格段に跳ね上がり、球の威力が増したことを示している。

4,防御率は、1点台が望ましい 

 3年秋は、やや防御率を下げたものの、あとのシーズンには素晴らしい数字を残している。全国大会でも、防御率 1.83を通算で残しており、まさにその力は、全国レベルであることが証明されている。


(データからわかること)

 地方リーグであると言うことで、数字を鵜呑みにできない側面はある。それでもこの4年間で残した実績は素晴らしく、特に最終学年での数字は見事。4年間で積み重ねてきたものが、最終学年で一気に花開いた感じだ。


(投球フォーム)

 春との最大の違いは、大学選手権ではランナーがいなくてもセットポジションから投げ込んでいたのを、ワインドアップで振りかぶって投げるように変わりました。

 また下半身も強化されたのか?春よりも体重移動がよくなり、前に少し体重を乗せられるようになり、ボールに勢いが出てきました。

 ほとんどベースとなると投球フォームはいじっておりませんが、肉体の成長に伴い、ワインドアップでも制球を乱さなくなったり、体重移動を良化させる股関節の柔軟さと下半身の粘りが生まれはじめました。


(最後に)

 こうやってみていると、目に見えての大きな成長は感じられなかったものの、少しずつ成長を遂げていることがわかってきた。更にキャンプまでに身体をいじめ抜けば、もうワンランク上の投球も可能かもしれない。

 イメージ的には、少し吉見祐治(東北福祉大-横浜-ロッテ)左腕を、シャープした感じの本格派左腕。球の感じは、その吉見と同期の福祉大左腕・洗平竜也の球に似た感じを受けます。

 ただ投球内容としては、まだ決め手不足があったり、ストレートの球威など、プロの一軍投手としては物足りないものがあるのも確か。開幕ローテーションと言うのは厳しく、一年ぐらいファームで漬け込むか、早くても夏場ぐらいからの登場になるかもしれない。

 本当の意味でこの投手が期待できるのは、2年目以降の活躍ではないのだろうか。将来的には、チームのローテーションの一角として、長く活躍してくれる投手になるのではないかと期待している。最終的評価としては、春からの若干の成長と、今後の伸び代も期待して☆1個をプラスしたいと思う。


蔵の評価:☆☆☆ (上位指名級)


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(2010年 神宮大会)







塩見 貴洋(八戸大)投手 181/78 左/左 (帝京五出身)





                 「ビシッとしてきた。」





 昨秋、青森に遠征してきた時には、スラッとした投手体型、その柔らかい身のこなし、腕の振りに、投手としてのスジの良さを強く実感させられた 塩見 貴洋。その一方で、まだ何処か、身体がビシッとしてこない部分があり、球威・球速、力強さに物足りなかったことも確か。ドラフト指名が意識できるかどうかは、この一冬の成長次第だと実感していた。

 そして春のシーズン。5勝0敗 防御率0.00と文句なしの数字を残し、リーグMVPを獲得。更に6月の大学選手権では、ドラフトの目玉左腕、大野 雄大(佛教大)との投げ合いを制し、一躍ドラフト上位候補へと浮上した。今回は、そんな評価急上昇中の正当派左腕に注目してみたい。





(投球内容)

 綺麗な腕の振り、柔らかい身のこなしが、この投手の最大の魅力。しかしながら、けして球威・球速でねじ伏せるタイプではない。速球でも変化球でも、両コーナーに球を散らし、追い込むと大胆にコーナーにビシッと投げ込み、相手の見逃しを誘う。そんな爽快感溢れる投球が、この選手の持ち味なのだ。


ストレート 130キロ台後半~140キロ台中盤

 この選手の速球は、いわゆるキレで勝負するタイプ。そのため空振りこそ誘えるが、甘く入ると長打を食らいやすい。普段は、カウントを整えるために、ボールを置きに来るような力のない球も投げることが多い。しかし勝負どころでは、ズバッとコーナーに、しっかり腕を振って投げ込んで来る。

変化球

 球種は、スライダーを軸に、カーブ・スクリュー系の球を投げ込んで来る。カーブは一つ投球のアクセントになっているが、スクリューはそれほど大きな武器にはなっていない。投球の多くは、速球とスライダーとのコンビネーションで成り立っている。

その他

 左腕らしく、牽制はそれなりに上手い。フィールディングなども、一塁へのベースカバーも早く、動きも悪くない。クィックも基準である1.2秒弱でまとめられており、そういった投球以外の部分もしっかりしている。

 もの凄く投球が上手いとか、マウンド捌きにセンスを感じさせると言うほどではないが、間の取り方なども典型的な先発型の左腕といった印象を受ける。


<右打者に対して> ☆☆☆

 右打者に対しては、両サイドの真ん中~高めのゾーン速球を集めて来る。スライダーの頻度は左打者相手よりも少なく、そのぶん右打者の外角にスクリュー系の球を投げ込んで投球の幅を広げている。ただ縦の変化に乏しく、これといった決め球があるわけではない。ただスライダーで討ち取ることが多い左打者に比べると、速球を内外角にズバッと投げ込み見逃しの三振を奪うことは多い。適度に両サイドに球を散らすことができ、真ん中近辺の甘いゾーンには、ボールは集まってこない。

<左打者に対して> 
☆☆☆

 
アウトコース真ん中~高めのゾーン中心に、速球とスライダーで投球を組み立てて来る。たまにカーブを織り交ぜて、緩急をつけたりカウントを稼いだりするが、投球のほとんどは速球とスライダーとのコンビネーション。そして内角胸元にもスライダーを集める制球力と度胸を身につけている。

 内外角に球を散らし、打たせて取るのがこの投手の投球スタイル。ただし追い込んでから、思いっきり上体を振って、外角一杯にストレートを投げ込む爽快感がある。緩急・縦の変化、絶対的な決め球があるわけではないが、外角へのボール出し入れができるぐらいの投球術と制球力は兼ね備えている。





(投球フォーム)

<踏みだし> 
☆☆☆

 
ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んできます。足を引き上げる勢いやその高さはそれなりで、踏みだしを見る限り、先発型とリリーフ型のいずれかとも言い切れない。セットポジションながら、エネルギーの捻出は悪くないだろう。

<軸足への乗せとバランス> 
☆☆☆

 足を引き上げ軸足一本で立った時に、膝から上がピンと伸び気味で、さほど膝には余裕がない。膝から上がピンと伸びきって余裕がないと

1,フォームに余計な力が入り力みにつながる

2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい

3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い

などの問題が生じる。とかく野球界では、真っ直ぐ立てと指導することが多いようだが、私には、その部分に関しては大いに疑問を持っている

 ただ彼の場合は、膝から上がピンと伸び気味の割には、全体のバランスや軸足への体重の乗せ具合は悪くない。この部分に関しては、可も不可もなしと言った感じだろうか。

<お尻の落としと着地> 
☆☆☆

 引き上げた足を空中でピンと伸ばす際に、足が地面に向かって伸びてしまっている。そのため、お尻を三塁側(左投手の場合)に、しっかり落とせるタイプではない。、お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労しにくい。

 また着地にもそれほど粘りがあるタイプではないのだが、足の伸縮を軽く行うことで、あっさり着地してしまうのを防いでいる。ちなみに、着地を遅らせる意味としては

1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。

2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。

3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。

<グラブの抱えと軸足の粘り> 
☆☆☆

 グラブは胸元に、最後までしっかり抱えられている。グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになるのだ。

 ただ足の甲での地面への押しつけは、つま先のみが地面を捉えており、やや上体が高いフォームであることがわかる。足の甲で地面を押しつける意味としては、

1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ

2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える

などの働きがある。彼の球の多くが、真ん中~高めに上吊ってしまうのは、この部分に大きな原因がある。

<球の行方> 
☆☆☆☆

 柔らかい肩の可動域も相まって、着地した時点ではボールは頭の後ろにあり、球の出所は隠されている。すなわち身体の開きは遅いタイプで、ボールはなかなか見えてこない。

 腕を振り下ろす角度にも無理がなく、身体への負担は大きくない。そのため故障への可能性は低いだろう。ただしキレで勝負するタイプなので、疲れが貯まるとその持ち味を損ないやすい。

 上体や腕を鋭く振ることで、ボールにキレを生むタイプ。そのためボールに指先まで力を伝え、バックスピンをかけて伸びを作り出すタイプではない。ボールを長く持つ意味としては

1,打者からタイミングが計りにくい

2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる

3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい

などがあげられる。彼の場合、それほど球持ちが良いタイプではない。

<フィニッシュ> 
☆☆☆

 普段の投球では、制球重視であまり腕が振れていないことがある。そのためボールを置きに来るような、威力のない球を投げ込むことも少なくない。ただ勝負どころでは、しっかり腕を振ることで、打者の空振りを誘うことはできている。

 ただ地面を力強く蹴り上げるとか、体重移動に優れた下半身リードのフォームではない。あくまでも上半身を鋭く振ることで、左腕には多くありがちなキレを生むタイプなのだ。

(投球フォームのまとめ)

 お尻を落とせるタイプではないので、見分けの難しい本物カーブや縦に鋭く落ちるフォーク系の球種は修得し難い。そのため緩急・縦の変化に乏しく、単調な投球に陥りやすい。その点では、プロでも苦労するかもしれない。

 ただ腕を無理に引き上げるタイプではないので、少し華奢な印象は受けるが、故障に泣かされる可能性は低そう。ただキレ型のタイプなので、球がキレている間は良いが、疲れが貯まって来ると、怖いタイプだと言えよう。

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の観点でみれば、「開き」には優れるものの、「体重移動」などのエネルギー伝達には課題を残す。そのためグッとウエートの乗った、力強い速球は期待し難い。ただ全体的には、可も不可もないと言った感じのフォームではある。


楽天


(今後に向けて)

 今年の候補中では、数少ない先発型の本格左腕。ただ典型的な先発型も、プロで一年目からローテーションを担えるのかは微妙なレベルだろう。少なくても、もうワンランク上の総合力を身につけないと苦しいと考える。

 またキレで勝負するタイプなので、使い込んだり、長いシーズンを良い状態でキープして行くのは厳しいタイプ。仮に一年間良くても、翌年はガクンと成績を落とす可能性は否定できない。特にようやくプロを意識できるだけの筋力が備わってきたような選手なので、プロで年間を通して活躍して行けるだけの、心身共にスタミナがあるのかは微妙だと言わざるえない。

 素材としての更なる飛躍が期待できる部分と天性の柔らかさがある選手なので、一年ぐらいファームにつけ込めたら、大きく飛躍できるタイプかもしれない。そういった少し余裕のあるチームならば、育ててみたいと思わせてくれる選手。1年目からと言うよりは、プロの環境・指導を受けた2年目以降の飛躍を期待してみたい。それでも、上位で消える選手なのは間違いない!


蔵の評価:
☆☆ (中位指名級)


この記事が参考になったという方は、ぜひ!


(2010年 大学選手権)






 180センチ台の大型左腕。こちらは、柔らかい身のこなしが魅力なのだが、もうワンランク上の球威・球速が出てくると面白い。投手としてのスジの良さは確かだが、まだまだ絶対的な存在には成り得ていない。一冬超えて、どのぐらいビシッとするのかにかかっている。

(2009年・秋)