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加賀美 希昇(DeNA)投手のルーキー回顧へ






加賀美 希昇(法政大)投手 185/78 右/右 (桐蔭学園出身)





                    「充実の秋!」





 これまで順調に実績を重ねてきた選手達が、最終学年で調子や体調を崩す中、最高の形で最終シーズンに挑んでいる男がいる。その男の名前は、加賀美 希昇。まさに名前の如く、一つずつ地道に積み重ねてきたものが、最後の最後で華開いたと言える選手ではないのだろうか。そのため、今スカウト達の間でも、その評価は鰻登り。今年のドラフト会議で1位指名確実の、今最も熱い男を取り上げてみたい。





(投球スタイル)

 骨太の体格で、ややもっさりした感じの投手であったが、今シーズンは充実していて、身体をシャープに鋭く振ることができ、力感溢れつつもメリハリのある投球ができるようになってきた。特に今年も、この投手をオープン戦から何度も見てきたが、いつも全力投球と言う、手抜き無しの投球が、とても好感を持てるナイスガイ。

ストレート 145キロ前後~150キロ強

 コンスタントに先発でも145キロ前後の速球を投げ込み、球威・勢いを兼ね備えた、プロ仕様のボリューム感を併せ持つストレートを投げ込む。特に勝負どころでは、140キロ台後半~150キロ台を前半を記録する球をいつでも投げ込めるなど、馬力のある投手との印象が強い。

変化球 カーブ・スライダー・チェンジアップ・ツーシーム

 桐蔭学園時代から持ち味であった90キロ台のスローカーブを時々織り交ぜつつ、スライダー・チェンジアップ・ツーシームなどを投げ込んで来る。最大の特徴は、左打者に多く投じるチェンジアップ。この球の出来が、投球の善し悪しに大きく影響する。

その他

 牽制は、格別上手くはないが鋭さが感じられるようになってきた。フィールディングもそれなりで、クィックも1.05~1.15秒ぐらいでまとめるなど、投球以外の部分に破綻はない。

 ただ元々投球をまとめるセンスに秀でたタイプと言うタイプではないが、制球も悪くなく、投球に破綻のないタイプだろう。


<右打者に対して> 
☆☆☆

 基本的には、外角真ん中~高めに速球・スライダーでカウントを整えつつ、カーブで緩急・アクセントをつけ、インコースにもツーシームのような少し内に食い込む球で内角を突く。ただ課題は、スライダーが曲がりながら落ちるタイプのものであるものの、基本的に縦に鋭く落ちる球がないので、それほど空振りを誘えるタイプではない。

 それでも今シーズンは、しっかり両サイドに投げ別けるコントロールもあり、球の勢いもあるので、自分の投球ができていた。


<左打者に対して> 
☆☆

 彼の投球の最大の課題が、左打者に弱いこと。しかしこの秋は、かなり左打者にも、内外角にしっかり投げ別けられる制球力を身につけてきた。ただ相変わらず、左打者外角への球筋は、真ん中~高めに抜け気味であること。そして左打者への武器であるチェンジアップが、時々高めに浮いたところを狙い打たれる場面が、今もしばしば見られることなど。課題を充分に改善できているとは言い難い。やはり良くはなっているが、プロの左打者には結構苦労するだろうなと言う印象は今も残る。


(投球のまとめ)

 下記の成績を見てもらってもわかると思うが、この秋は素晴らしい球の勢い・安定した制球力・気持ちの充実が見られる反面、成績は結果としてあまり変わっていないことがわかる。

 確かに投球内容は充実しているのだが、相変わらずストレートが真ん中~高めに浮きやすかったり、左打者への投球に課題を残す部分が、改善仕切れていない。

 特に縦の変化に乏しい部分もあり、球の勢いほど三振が奪えない特徴がある。プロレベルの打者相手だと、結構粘られるうちに、甘くなった球を痛打される、そういった可能性は捨てきれない。結局素晴らしい球を投げていても、勝ち星に報われにくいタイプの投手になるのではないかと考えられる。





(投球フォーム)

 下記にある昨秋の頃とのフォームとの一番の違いは、軸足にしっかり体重を乗せてから投げられるようになったこと。すなわち軸足の折れがなくなり、体重を乗せてから重心を落とせるように変わった点だ。これにより、ストレートに勢いと球速を増してきた。

 お尻がしっかり一塁側に落とせるタイプではないので、将来的に見分けの難しいカーブやフォークのような縦に落差のある球種は、修得し難い。ただ以前よりも腕の振りに無理がなくなり、故障への可能性も軽減されたのは明るい材料。

 グラブはそれほどしっかり抱えこめるタイプではないが、最後まで身体の近くにあり、両サイドの制球は安定している。足の甲の押しつけも、昨秋よりはかなり押しつけられるように、腰高のフォームも幾分改善され、ボールを少し低めに押し込めるようになってきた。

 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の観点では、「着地」と「球持ち」は基準レベル。ただ早くから打者に正対しボールが見やすい上に、身体の「開き」も早めで、ボールの出所が見やすいフォームは変わらない。そのため素晴らしい球を放っていても、その効果が薄い傾向にある。また「体重移動」も、まだ充分と言うほどではないので、もっと前に体重を乗せて行ければ、もっとボールに勢いが出てきても不思議ではない。その辺は、今後の伸びしろとして期待したい。

(投球のまとめ)

 将来的に縦系の球種が修得し難く、伸び悩んだりする可能性は高い。更に「開き」の早さが改善されておらず、素晴らしい球は投げても、報われ難いタイプとの印象は、フォームを分析しても変わらなかった。ただ少しずつではあるが課題を克服しつつあり、長いスパンでみれば欠点も改善されて行く可能性は残されている。





(意識づけ)

 どちらかと言うと、下級生の頃は淡々と淀みなく投げ込んで来る、起伏の少ないタイプの投手との印象が強い。その辺が、もっさりする投球と相まって、あまり好感が持てなかった。しかし最終学年に入り、気持ちを全面に出せるようになり、身体もシャープに使えるようになって、かなり投球のイメージが変わってきた。

 実際その所作を見ていても、けして投手らしいきめ細やかさがあるタイプには見えないが、最後まで自分の役割を全うしようとする真摯な姿勢は感じられる。少しずつ自分の課題を改善して行ける努力を続けられるタイプで、芯の強そうなその性格は、プロの世界でも時間をかけて大成して行ける可能性を感じさせる。


楽天


(最後に)

 
この秋の充実ぶりからしても、開幕からローテーションの5,6番手ぐらいには食い込めるぐらいの力はあるのではないのだろうか。それだけの魅力溢れる球も投げ込めるので、首脳陣からも早くからチャンスをもらえる可能性が高い。

 ただその一方で、プロの即戦力としては、まだ「開き」の早さ・縦の変化・左打者への投球などなど、課題も多く、良い球を投げていても、報われ難い投球に不安を残すところ。だから年間を通じてローテーションに入れたとしても、5勝8敗とか、7勝12敗とか、内容ほど結果がついてこないタイプの投手になる可能性は否定できない。

 1年目から全く使えないとは考えづらいが、本当の意味で大活躍するようになるには、もう何年か先になるのではないのだろうか。それでも野球への意識・取り組みが良い選手なので、少しずつでも課題を改善し、カベを乗り越えて行ける可能性は秘めている。あとは、そういったセンス・器用さを、彼自身何処まで持っているのかと言うことだろう。そういった肉体的・技術的・人間としての幅も含めて、今後の可能性を期待せずにはいられない。即戦力と言うよりは、2,3年後の成長を見てみたい、そう思わせてくれるナイスガイ、それが、加賀美 希望 と言う男だ!



蔵の評価:
☆☆☆ (上位指名級)


この記事が参考になったという方は、ぜひ!


(2010年・秋)







加賀美 希昇(法政大)投手 185/78 右/右 (桐蔭学園出身)




 

                   「課題は明らかだよね。」  




 

東京六大学から、高い評価でプロ入りしそうなのは、何もハンカチ王子だけではない。ライバル法政大学にも、最高評価でプロ入りしそうな男がいる。その男の名前は、加賀美 希昇 。桐蔭学園時代、ドロンとしたカーブを連発していた、あの男だ。


 (投球スタイル)


 桐蔭学園時代は、140キロ前後の速球を持ちながら、ドロンとした大きなカーブを連発していた姿が、今にも頭にこびりついている。しかし法政進んでからは、140キロ台中盤の球速を連発できるようになり、力強い速球派へと変貌した。 少しだるいフォームながら、ストレートは140~140キロ台後半を記録。ただその球質は、手元で伸びるとか、ピュッとキレる球質ではなく、ズーンと勢いと球威のある球で、それほど打者の空振りを誘えない。この辺は、秋の33回1/3イニングを投げて、奪三振が21しかないことからも、伺われる。 

 最大の変化球は、高校時代から武器にしていた100キロ前後の大きなカーブ。この球が大きなアクセントになるのが、この投手の最大の特徴になる。その他には、100キロ台沈むチェンジアップらしき球と、130キロ台で小さく曲がるカットボールのような球がある。投球において、中間球のスライダーがない、珍しいタイプの投手だと言えよう。 大型で動作が緩慢な選手かなと思わせるのだが、実にけん制は鋭いし、クィックも1.1秒台と早い。更にフィールディングなどをみると、意外に慎重で丁寧な選手だと言う印象を受ける。この選手は、精細さと大胆さを兼ね備えた、選手であるように思える。


(課題は) 


 最大の課題は、左打者への投球にある。通常の右投手と同様に、この選手も左打者への制球がアバウトになる。痛打の多くが、左打者からに集中するなど、もう少し左打者への配球・制球・フォームなどを工夫しないと、プロでは苦労するだろう。

 右打者には、しっかりアウトコースに球が集められるに対し、左打者にはストライクゾーンの枠の中にボールを投げ込むと言う程度。通常、左打者への配球は、外にスライダーかチェンジアップを集めてくる。それならば彼も、もう少しチェンジアップ中心に、速球を外角に集めてみてはどうだろうか?


(投球フォーム) 


 ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んでくる。ここまでは、そう珍しいことではない。しかしランナーがいなくても、この投手はクィックで投げ込んでくるので、軸足に体重が乗る前に、軸足を折ってしまうのだ。これでは、速球に充分勢いが出てこない。 

 制球が不安定なのは、グラブがしっかり抱えきれていない上に、足の甲がつま先のみを地面を捉えているので、重心が高く浮きがちなのだ。これでは、左右のコントロールもアバウトになれば、高めにボールが浮くのも必然だろう。 

 投球フォームの4大動作における「着地「球持ち」「体重移動」「開き」などは、いずれも大きな欠点がないかわりに、勝れた点も見当たらない。少々癖のあるフォームではあるが、実戦的な観点でみれば、可も不可もなしといった感じの、フォームだろうか。(心配な点) 元々、お尻をしっかり一塁側に落とせない割に、カーブを投げようとするフォームなので、かなり体へ負担をかけるフォームになっている。その上、無理に腕を高い位置から引き上げようとするので、体への負担はより大きいものになっている。アフターケアに相当気を使わないと、故障に悩まされることになるのではないのだろうか。


(今年のチェックポイント) 


 これまでは、それほど絶対的な成績を残していない。それだけに最終学年では、あえて図抜けた数字を期待してみたい。投手としては、もっとオレ様がと言う、堂々としたものがあっても好いだろう。 

 そして何より、左打者への投球。ここに改善が見られないと、上位指名で入団できても、即戦力に成り得るかと言われれば、私には厳しいように思える。 この二つに大きな改善がでてくれば、プロでも即戦力への期待を持てるだろう。



(2009年・秋)







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加賀美 希昇(法政大)投手 の成績を考える!


(成績から考える)


リーグ 試合数 勝ち 負け イニング 被安打 四死球 奪三振 防御率
1年春                
1年秋                
2年春 13回 14 0.69
2年秋 67回1/3 52 22 78 1.20
3年春 27回2/3 23 25 1.95
3年秋 33回1/3 20 21 2.16
4年春 48回 39 36 2.81
4年秋  62回1/3 53 12 49 2.31

 多くのドラフト候補が、一年時から登板しているのに比べると、デビューは2年生になってから。


1,被安打は、イニング数の70%以下 

 このファクターを満たしたのは、過去4シーズンで2回。達成できないかった2シーズンも、イニング数に近いほどの数字でもなく、球の威力・攻めのバリエーションの豊富さなどがあり、連打を浴びる可能性が低い選手。実際投球分析をした時には、左打者を苦手とする傾向が強いことがわかった。最終学年では、如何にこの課題を克服できるのか注目されたが、まだまだ改善できているとは言い難い。。

2,四死球は、イニングの1/3以下 

 2年秋も、このファクターを満たしているが、3年になり極端に四死球率が低下しており、制球が大幅に改善されていることがわかる。ただその反面、防御率が悪化していることからも、球の威力が半減しているのではないかと言う不安要素は募る。

3,奪三振 ÷ イニング数 = 1.0前後 

 2年春・秋は、いずれもイニングを越える奪三振を奪っている。3年春も、イニング数に近い数の奪三振を奪い、球の威力・決め手があることを証明した。しかし昨秋のシーズンでは、大幅に奪三振率が低下しているのが気になる。球の威力・勢いを取り戻せるのかが、最終学年での大きなポイントだったが、まだまだ改善されているとは言い難い。

4,防御率は、1点台が望ましい 

 過去4シーズンで、3回この条件を満たしている。しかし3年春には、限りなく2点台に近い1.95、更に秋には2.16と、今春は更に2.81と数字を悪化させている。


(データからわかること)

 2年時よりも、3年時の方が、球の勢いが落ちていることが、データからも読み取れる。その反面、制球力は向上しているものの、それが上手く結果となって現れていない。

 最終学年では、向上した制球力を維持しながら、再度球の威力も回復させると言う、難しい課題の克服が求められる。しかしそれができた時、この投手も最上位12名に、その名前を刻んでいるはずだ。








<踏みだし> ☆☆

 ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んで来る。それは、制球を重視すると言う意味では、理解できなくもない。ただ気になるのは、ランナーがいなくても、クィックモーションで投げ込んできて、軸足をすぐに折ってしまうのだ。これでは、しっかり体重も乗せられず、大きなエネルギーが作り出せない。足を引き上げる勢いはあるものの、足の上げも小さく物足りない。

<軸足への乗せとバランス> なし

 軸足をいち早く折ってしまうので、この部分は存在しない。

<お尻の落としと着地> ☆☆☆

 足を空中でピンと伸ばす時に、地面に向かって伸びてしまっている。そのため、お尻を一塁側へ落とすことができない。お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労しやすいことにつながる。

 それでも大きなカーブを投げられるのは、地面に着きそうな高さから、そのまま地面を捉えずに、前に大きくステップすることで、着地のタイミングを遅らせることができているからだ。着地を遅らせる意味としては

1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。

2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。

3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。

 ただ彼の場合、お尻が落とせないのにカーブを多投するので、かなり身体への負担は、大きなフォームになっている。

<グラブの抱えと軸足の粘り> ☆☆

 グラブをしっかり抱える選手ではないのだが、それほど身体から離れたところにはグラブが行かないので、大まかな左右の投げ別けはできるのだろう。グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになるのだ。この辺が、しっかり出来るようになると、もう少し両サイドへの制球も安定しそうなのだが。

 ただそれ以上に残念なのは、腰高なフォームのために、足の甲の押しつけができないで、つま先のみが地面を捉えて回転している。足の甲で地面を押しつける意味としては、

1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ

2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える

などの働きがある。

<球の行方> ☆☆☆

 どうしてもセットポジションから投げ込んでいるので、テイクバックした時に、前の肩と後ろの肩を結ぶラインが、打者に真っ直ぐ伸びてしまっている。そのため、ボールを隠すことが出来ていない。ただ着地した時点では、胸が張ってボールの出所は見えるか見えないかぐらいの位置にあり、身体の「開き」と言う意味では平均的ではないのだろうか。

 気になるのは、お尻が落とせない上に、カーブを多投してくるフォームの上に、無理に腕の角度をつけて投げ込んでしまっている。これでは、身体への負担も大きく、長いプロのシーズン・在籍年数を考えると、よほど気をつけないと、故障に泣かされるのではないかと考える。

 ただ「球持ち」に関しては悪くなく、平均的なレベルにはあるのではないのだろうか。ボールを長く持つ意味としては

1,打者からタイミングが計りにくい

2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる

3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい

などがあげられる。

<フィニッシュ> ☆☆☆

 腕を強く振ることが出来ているので、投げ終わったあとは、身体に腕が絡んでくる。前への体重移動としては、可もなく不可もなしといった感じ。ただ投げ終わった後に、少し身体が、一塁側に流れる傾向にある。


(投球フォームのまとめ)


 一番心配なのは、お尻が落とせないフォームの割に、カーブを多投し、必要以上に腕の角度を付けてボールを投げでいること。これでは、将来的に故障への可能性は否定できない。

 投球フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」の観点で考えると、特に大きな欠点も見当たらなければ、格別優れている点も見当たらない。癖のあるフォームではあるが、それほどそれは、悲観しなくても好いだろう。

 今年は、エースとして登板する中で、疲労とパフォーマンスとの関係に注目して、この選手のフォームを考えて行きたい。


(2009年・秋)





楽天



加賀美 希昇(神奈川・桐蔭学園)投手 185/75 右/右





                 「未完の大器?」





 癖のある独特のテイクバックから、130~135キロ級の重い速球と、今時珍しいドロップカーブを武器にする剛球タイプの大型右腕。技術的には課題は多いが、果たして県下を代表する本格派に成り得るのか検証してみたい。

(ピッチングスタイル)

 まだまだ全身を活かせていなく、それでいてテイクバックが独特なフォーム。恵まれた体格を活かし常時130~135キロ近い速球は、実に力強い。恐らく夏までには、140キロ前後は出せるようなキャパは秘めていそうだ。またこの投手の最大の武器は、昔ながらドロップと呼ばれる縦に大きく割れるカーブ。球速差と球の威力で勝負するタイプの投手である。

<右打者に対して> ☆☆☆

 アウトコースにカーブを中心に集めて来る。このカーブの制球力は、まずまず安定している。むしろ速球の制球力に課題があり、球が散る傾向が強い。ただ意外に真ん中近辺に甘く入ってこないところは救いである。特に現時点では、インコースにしっかり意識してコントロール出来ると言うことはなく、外角中心に球を集め、速球とカーブの緩急・威力で打者を牛耳ている。

<左打者に対して> ☆☆☆

 内外角の比率は、4:6程度とかなり左打者には内角を突いてくる。アウトハイに速球とカーブを。インロー膝元にカーブをと言う対角線の投球で組み立てている。ややアウトコース高めの速球を狙い打たれるケースが多い。制球力、コンビネーション共に、若干左打者への方が安定している印象を受けるが、右対左の対戦では、より球を長く観られる左打者は有利となり、プラスマイナス0と言った感じだろうか。

(投球フォーム)

<踏みだし> 

制球重視で、エネルギー捻出は欠如!

 ランナーがいなくても制球力に不安があるのだろう、セットポジションから投げ込んで来る。そのため両足のスタンスは狭く、足も引いて投げ込めないので、エネルギー捻出は極めて小さい。

 足を引き上げる勢い、高さも小さく、今は恵まれた体格の力で、そこそこの球速と球威を導き出していると言った印象で技術的には、かなり低いと言わざる得ない。

<軸足への乗せとバランス> ☆☆

膝が折れての体重の乗せはどうか?

 最初から軸足の膝が折れて体重を乗せてしまっている。しかしその姿勢をキープすることで、なんとか体重を軸足に乗せバランスを取っている。もう少し膝が折れないように立てないものかと思ってしまうのだが・・・。

<お尻の落としと着地> ☆☆

お尻の落としと着地の早さが弊害を及ぼす

 お尻の一塁側の落としは不充分で、完全にバッテリーライン上に身体が残っている。また引き上げた足を、粘りなく地面に降ろしてしまうので、体重移動はままならず、身体を捻り出す時間はキープ出来ないし、打者からもタイミングを狂わせ難い。これでもある程度のカーブが投げられるのは、独特のテイクバックによるところが大きい。

<グラブの抱えと軸足の粘り> ☆☆☆

着地の早さから足の甲の押し付けは厳しい

 グラブは最後までなんとか、身体の近くにキープ出来ている。これにより左右の軸のブレを防ぎコーナーに球が散っているのは、そのせいだろう。足の粘りも、なんとかつま先を地面に付けて回転出来ている。もっと足の甲で長くしっかり地面をキープしたいが、中々難しい状況だと言えそうだ。今のフォームでは、球がある程度上吊るのは致し方ないだろう。

<球の行方> ☆☆

着地の早さが、すべてに悪影響を!

 この投手が、癖のあるフォームを長所にするか短所にするかは、この実戦的な術にかかっている。手首を捻りながらボールを持つ独特のテイクバックでは、背中越しから握りが見えそうな位置にテイクバックを持って来る。まずこれを打者から見えない位置に設定することから直したい。

 またかなり肩を奥に入れるので、球の出所は遅くなるはずなのだが、着地までの粘りがないので結局はそれ程開きの遅いフォームにはなっていない。着地の粘りを身につけることで、球の出所を長く隠すフォームの実現も期待出来そうだ。

 気になるのは、もの凄く腕に角度を付けて投げ込んでいる。元来着地の早いフォームの投手が、無理に腕を引き上げると故障の原因に成りかねない。今までは、それ程登板状況も厳しくなかっただけに、これからエースとして君臨すると負担は相当なものになるだろう。アフターケアと起用法に充分留意したいタイプだ。

 着地の早さからも、リリースは早くなってしまっている。これでは指先まで力が加えられず微妙な制球力は期待出来ないし、球も重いと言うよりは棒球となってしまう。当然打者からもタイミングは合いやすい。私が観た試合では、確か8回ぐらいからの登板だったと思うが、延長13回のサヨナラまでの間にも、毎回のようにヒットを打たれたのは、けして偶然ではなかったのだ。

<フィニッシュ> ☆☆☆

体重移動の不充分さが最後に現れている

 腕を角度好く振りおろして来るので、球離れが早くても身体への絡みは並程度。地面は投げ終わった後引き上がっているが、これは地面を強く蹴り上げたのではなく、体重移動が不充分で力の逃げ道を、その足に身体が求めたためだ。上体を上手く使えない分、投げ終わった後のバランスは悪くないのだが・・・


(最後に)

 技術的な観点で言うと、少々癖がありすぎて、これをイチから修正することは難しいと考える。よくこういった身体を上手く使えない選手を「未完の大器」と評されることが多いが、私は大いに疑問を持つ。多くの選手は、小学生の時から野球を始め、すでに高校生2,3年生の時には、キャリアが10年近くあるのである。そういった身体に染みついてしまったフォームを、その後の段階で根本的に修正することは極めて難しい。あくまでも、これから上の年齢では、フォームの土台を変えることは難しく、マイナーチェンジで部分的な修正を図ることがやっとなのだ。

 従って彼のような投手を、下半身主導のフォームに変えることは無理だと考える。私自身こういった投手のフォームが、根本的に変わった例を一度たりとも知らないからだ。むしろ自分の肉体を思い通り動かせることこそ、投手にとって一番の才能なのではないかと私は思うのである。ではどうしたら好いのだろう。それは彼独特のフォームを活かしつつ、実戦力を身に付けることを重視したい。

 一つは「球の行方」の部分に凝縮されている技術だ。身体の開きを隠し遅くする、腕の角度を適性にする、球持ちを好くする、このことを重視して打者から嫌がられる投球を優先させる方法だ。少々不格好なフォームでも、このポイントさえ押さえていれば、個性的なフォームへの変貌への望みもある。

 ただいつも言うことだが、投球フォームの核とは着地にある。完璧にそれをしろとは言わないが、そのことを意識することは、非常に大切だと言いたい。幸い彼には、非凡な肉体的資質があるので、それ程技術的なことに、こだらわなくてもソコソコの球が投げられる羨ましい肉体があるのだから。

 もう一つ気になるのは、彼の最大の武器であるドロップカーブである。このカーブが上のレベルで使える代物なのかは正直疑問が残る。これ以外で何か使える変化球を一つ修得出来るかが、上のレベルで通用するかのポイントとなりそうだ。むしろこの投手の進むべき道は、スケール感を追求するのではなく、より実戦的な術を追求しないと、これから上の世界では厳しいだろうし、戦国神奈川で、全国の舞台まで駒を進めるのは限りなく困難なことであると言えよう。そのことを頭に置いて取り組めるのかで、この一年間の成長は大いに変わって来ると私は考える。


(2006年 3月19日更新)