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中村 恭平(富士大)投手 185/72 左/左 |
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「運命を変えたあの日」 昨年の大学選手権。それまでベンチ入りメンバーにも入っていなかった中村 恭平 は、急遽追加でベンチ入りできた。そのためパンフレットの印刷にも間に合わなかったほどだった。そんな投手が、急遽・近大戦の2番手として抜擢され、3回を見事無失点で抑えてみせた。スラッとした投手体型から繰り出される140キロ台後半のストレートに、誰もが全国は広いなと実感したはずだ。あれから一年足らず、中村は一躍ドラフト候補として注目されることになる。 ただ残念なことに、私自身春のオープン戦で富士大の試合を観に行くも観られずじまい。更に秋のリーグ戦も天候不良などでリーグ戦の日程が変更になり、予定どおり彼を観戦できないまま、結局この一年間、彼の成長した姿を見られずじまいに終わった。そのため今回は、具体的な評価づけはできないことを、あらかじめご了承願いたい。 (リーグ成績)
3年春・神宮で一躍その名を全国に知らしめたものの、実績らしい実績は、最終学年になってからだ。 1,被安打は、イニング数の70%以下 △ 大学選手権の時もそうであったが、その投球のほとんどがストレート。そのため、どうしても球は絞られやすい。それだけに、被安打率が高くなるのは致し方ないだろう。それでもイニング数より遙かに少ないのだから、彼のストレートが如何に図抜けたものなのか察しがつく。 2,四死球は、イニングの1/3以下 △ かなり荒れあれの投手で、ストレートも暴れるし、カーブやスライダーと言う変化球も、安心してカウントが取れるほどではない。ただストレートに関しては、球速を殺し力を抜くことで、ある程度カウントを取れるぐらいの術は持っている。 3,奪三振 ÷ イニング数 = 1.0前後 ◎ ほぼストレートだけの配球において、イニング数と同等程度の奪三振を奪える彼の能力は、ある意味凄い。ただこの三振の多くが、ストレート中心であり、その点がまた気になる材料なのだが。 4,防御率は、1点台が望ましい ○ リーグレベルの関係もあると思われるが、意外に安定感のある投手ではある。大学選手権でも、交代した回は、ランナーを背負い苦しい場面を切り抜けるなど、全く踏ん張りが効かないタイプではないようだ。ただこの秋の八戸大戦では、2試合ともに先発するも、早い回に失点し途中交代している。やはり全国レベルの打線相手だと、まだまだ苦しいと言うのが現状ではないのだろうか? (データからわかること) ほぼストレートだけの投球で、これだけの数字を残すことは凄いこと。しかし逆に、大学4年間を通じても、まともに使える変化球を修得できなかったと言うことは、そういったセンスに欠けていると思われても致し方ないだろう。今後プロの指導で、その欠点を何処まで改善できるのかには疑問を持たざるえない。 (投球内容) 長身でスラッとした投手体型から、柔らかい腕の振りのを活かして投げ込んできます。 ストレート 145~149キロ 昨年の大学選手権登板時は、コンスタントに145~140キロ台後半のストレートを投げ込んでおりました。ボールに伸びやキレと言うよりは、高めに勢いのあるボールを投げ込みます。リリースが安定しないので、コース一杯に決まる時も、どこまで狙って投げているのかは微妙です。素材型ですが、ストレートの質と言う意味では悪くありませんでした。またカウントが悪くなると、140キロぐらいに力を落とし、カウントを稼ぐ力の加減をセーブする術はあるようです。 変化球 カーブ・スライダー この試合で確認できたのは、カーブとスライダー。しかしカーブは、スッポ抜けてストライクが入らず。スライダーは、小さく横滑りする代物なのですが、ボールゾーンに外れて、この試合では決まりませんでした。恐らく最終学年では、変化球をストライクゾーンを決めるぐらいはできるようになっていたものと想像します(成績からも)。ただこのスライダーも、けして空振りを誘うほどの威力はなく、あくまでもカウントを稼いだり、投球にアクセントを付けるためのものでしかないと思われます。 その他 牽制自体は下手ではないように思えますが、大学選手権では緊張のためか送球を乱す場面も観られました。たまたまだとは思いますが。クィックも基本的にできないようでしたが、最終学年ではどうだったのでしょうか?全国レベルの強豪校になった富士大のエースが、クィックが全くできないままとは考えづらいのですが・・・。 とりあえずストライクゾーンの枠の中にボールを集めるといった感じです。そのため細かい制球力・コースの投げ別けにも乏しい感じです。ただ大学選手権でも、ランナーを背負いながらも要所を締めましたし、4年時のリーグ戦の防御率からも、ある程度踏ん張れる精神力はあるのではないのでしょうか? (投球のまとめ) 使える変化球・安心してカウントが取れる球に乏しいのは、何より気になる材料です。また大学生レベルならば良いのですが、その球の多くが真ん中~高めのゾーンに集まっていた点です。恐らくこのゾーンは、プロの打者ならば見極めて来るでしょうし、カウントを取りに来るような威力のない球は、見逃してくれないのではないのでしょうか? (投球フォーム) 今度は、彼の3年時の投球フォームを参考に、今後の可能性について模索してみたい。 <踏みだし> ☆☆☆☆ ランナーがいなくても、セットポジションから投げ込んで来る。それでも足を引き上げる勢いがあり、非常に高い位置まで足を引き上げることで、高いエネルギーを捻出できている。 <軸足への乗せとバランス> ☆☆☆ 軸足の膝から上がピンと伸びてしまっていて、膝に余裕がないのは残念。膝から上がピンと伸びきって余裕がないと 1,フォームに余計な力が入り力みにつながる 2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい 3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い などの問題が生じる。ただ彼の場合、足を高く引き上げており、背中の傾きが少なくても、全体のバランスが取れた立ち方になり、軸足にも体重は乗せられている。 <お尻の落としと着地> ☆☆☆ 引き上げた足をピンと伸ばしきれず、更にその足が地面に向かって伸びているので、どうしてもお尻の落としが甘くなる。お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労しやすいことにつながる。 ただ「着地」までのタイミングは悪くない。ちなみに着地を遅らせる意味としては 1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。 2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。 3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。 <グラブの抱えと軸足の粘り> ☆☆☆ グラブを最後までしっかり抱えられていないので、どうしても両サイドの制球はアバウトになりやすい。グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになるのだ。 ただ足の甲の押しつけ・粘りは素晴らしく、非凡なところを魅せている。素材型だが、上半身主導で投げてくるタイプではけしてない。ちなみに足の甲で地面を押しつける意味としては、 1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ 2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える などの働きがある。 <球の行方> ☆☆☆ セットポジションで投げ込むので、それほどボールを隠せているようには見えない。しかし「着地」の時点では、ボールを持っている腕は頭の後ろに隠れており、球の出所が見やすいわけではないはず。すなわち「開き」の早いフォームではない。 腕の角度も、それほど無理はなく、むしろ縦の変化は投げにくい腕の振りなのかなと言う気さえしてくる。身体への負担は、けして大きなフォームではないだろう。 ただ「球持ち」は、それほど良いフォームとは言えず、指先まで力を伝えられるタイプではない。ボールを長く持つ意味としては 1,打者からタイミングが計りにくい 2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる 3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい などがあげられる。 <フィニッシュ> ☆☆☆ 腕が投げ終わったあと、身体に絡みつくような腕の振りの良さはない。そのため腕の振りの違いから、変化球か見極められる可能性は否定できない。ただ腕がそれほど振れなくても非凡な球速・球の勢いがあるのは、下半身の「体重移動」がよく、ボールに体重が乗せられるからだろう。 (投球フォームのまとめ) 素材型にありがちな、上半身主導のフォームではけしてないのが、将来的には明るい材料。ただお尻が落とせない欠点もあり、将来的に見分けの難しいカーブや縦の変化を身につけ、投球の幅を広げて行けるのかには疑問が残る。すなわち、伸び悩む要素が高いことになる。 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」と言う観点では、「球持ち」に課題こそあれ、意外に他の部分は実戦的なフォームであることがわかる。そういった意味では、けして打ちやすいタイプではなく、ただの球の速いだけの投手とも違う。 楽天 (最後に) 完全に、その投球は素材型投手であり、プロでも即戦力を担うとは考えにくい。伸び悩む要素も少なくないのだが、下半身主導のフォームという点と意外に実戦的なフォームであると言う点では、可能性を感じなくもない。 素材としてはA級であるのは間違いないが、大学の4年間を経ても、変化球・制球力の問題を改善仕切れていないのは、むしろそういったセンスに欠けると考えるべきではないのだろうか。 話を聞く限り、そのストレート中心のピッチングスタイルは変わっていない。更に残した成績・強豪・八戸大との試合内容を見る限り、やはり根本的には、昨年観た時と大きくは変わってはいないのではないかと考える。 もし今年彼の投球を観たところで、果たして☆を付けたかどうかは微妙だが、その素材を重視して☆を進呈していたのかもしれない。ただ上位候補選手で観られなかった選手は、今年彼ぐらいだったことを考えると、無理をしてでも確認しておきたかったかなと思えてくる。彼のような超素材型を、プロが如何に育てあげるのか、これまた興味の対象であります。ぜひ球界を代表する、速球派投手に化けることを期待してやみません。 この記事が参考になったという方は、ぜひ! (2009年・大学選手権) |