10dp-14
小山 雄輝(天理大)投手 187/77 右/右 (大府出身) |
「旬ではないんだけれども・・・」 以前から関西に、150キロの速球を投げ込む投手がいると聞いていたので、いつか見てみたいと思っていたのが、この小山 雄輝 だった。ようやくその悲願を叶えたのは、ドラフト間近に控えた4年秋。この時期でも複数球団のチェックが入っており、下位指名~育成枠での指名もあるのかなと言う印象受けて、私は球場にあとにしたのを覚えている。 (投球スタイル) 150キロの豪腕と聞いていたが、実際のところは140キロソコソコの快速球と縦の変化を武器にする細身の投手だった。むしろこの投手の良さは、意外に低めに球が集まる球筋と低めに落ちるフォークボールにあるのではないのだろうか。 ストレート 135~MAX142キロ 私が観戦した関西国際大戦の序盤戦、私のスピードガンではMAXで89マイル(142.4キロ)を記録するのがやっとであり、その殆どは130キロ台後半の球速表示だった。それ以上に気になったのは、球速以上に球威の無さ。その球は、プロを意識するにはボリューム感に欠ける印象は否めない。 ただ左打者の外角低めに決まるストレートの球筋は貴重であり、この投手がそういったコントロールと言う意味では、一定の評価ができる投手だと言う気はして来るのである。 変化球 フォーク・スライダー・カーブ 投球の多くは、カウントを稼ぐフォークと空振りを誘う2種類のフォークが中心となる。スライダーも投げるが、それほど目立つ球種ではない。ただフォークボーラーは、その球の威力が絶大なので、どうしてもその球に頼った単調なピッチングスタイルに陥りがち。ピンチになればなるほど、フォークとの単調なコンビネーションに頼り、投球をどんどん窮屈にする。彼もそんな投手の一人だ。 その他 クィックこそ安定して1.1秒台を叩き出し基準以内だが、牽制・フィールディングレベルは基準を満たしておらず、総合力で物足りないものを感じさせる。コントロールで自滅するタイプではないが、けして投球術には長けておらず、それほど野球センスを感じさせるタイプではない。将来的には、縦の変化を活かしてリリーフでの適正を示すのではないのだろうか。 <右打者に対して> ☆☆☆ 両サイドに大まかにボールを投げ別けつつ、追い込むとボールゾーンに切れ込むフォークで空振りが取れる。外角にはストレートで、内角にはスライダーを使いコースを投げ別ける。右打者へのフォークの精度は、なかなかものがある。 <左打者に対して> ☆☆☆ 左打者には、チェンジアップのようなカウントを稼ぐフォークとストレートを両サイドに散らして来る。スライダーやカーブは陰を潜め、フォークとの単調なコンビネーションで投球を組み立てる。またフォークで空振りを誘うケースも、左打者には少ない。 しかしこの投手の一番の良さは、左打者の外角低めに決まるストレートの球筋にある。角度のあるコースが、左打者の泣き所である外角低めにボールを集められるのだ。この点では、一定の評価をしたいし、右投手ながら左打者をそれほど苦にしていない。 (投球のまとめ) 投げ込まれる球一つ一つは、球威・球速不足で物足りない。それでも大型投手の割に、制球が安定しており、フォークと言う武器も持っており、土台の良さは確かなのだ。即戦力とは言い難いが、プロの指導や環境でトレーニングすることで、大きく伸びることを想定しての指名だと考えられる。 (投球フォーム) フォームに威圧感や力感は感じないが、長身の割にバランスが取れているのが印象的。 お尻をある程度一塁側に落とすことができるので、将来的にも見分けの難しいカーブや縦の変化に磨きをかけられ、良い変化球を修得して行ける可能性を感じさせる。 グラブを内にしっかり抱え込むことができており、両サイドの制球は安定しやすい。足の甲の押しつけも悪くないので、低めへも球を押し込める。 ただリリースの時に、右肩が上がり左肩が下がるフォームなので、身体への負担が大きい傾向にあり、故障への可能性は捨てきれない。アフターケアには、充分に注意してもらいたい。 投球の4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」に関しては、「開き」「体重移動」「球持ち」には大きな問題はない。あとは、股関節や下半身の強化で、「着地」までの粘りみたいなものが出てくると、もっと実戦的なフォームになるだろう。 (投球フォームのまとめ) 非常にバランスが取れた投げ方をしており、それでいて大きな欠点が少ない確かな土台がある。その一方で、フォーム・球筋が綺麗過ぎて、怖さ・イヤらしさに欠ける傾向があるのも確か。特にその最大の理由は、基礎筋力の不足から来ている印象が強い。プロ入り後1,2年は、まずプロで通用する身体作りに没頭することになりそうだ。 (実績から考える) 彼が本格的にリーグ戦に登場した3年秋からの成績を簡単に記してみたい。 3年秋 6試合 2勝3敗 38回 30安打 13四死球 25奪三振 防御率 1.65 4年春 10試合 4勝4敗 70回 46安打 14四死球 52奪三振 防御率 1.04 4年秋 8試合 5勝2敗 74回2/3 58安打 22四死球 49奪三振 防御率 0.97 1,被安打は、イニング数の70%以下 △ この3季においては、ベストナインを獲得した4年春のシーズンのみが、このファクターを満たしている。レベルの劣る阪神大学リーグにおいても、球の威力は絶対ではないことを、この数字が示している。 2,四死球は、イニングの1/3以下 ○ 目に見えて4年生になってからの、制球力の向上が目を見張る。土台の良いフォームが、長身でも安定した制球を作り出している。 3,奪三振 ÷ イニング数 = 1.0前後 × フォークと言う強力な武器がありながら、意外なぐらいに奪三振が少ない。実際には、それほど三振を奪える程の威力に欠けるのか?まだまだこのフォークの精度は、発展途上なのかもしれない。 4,防御率は、1点台が望ましい ○ 3季いずれもこのファクターを満たしており、特に最終学年では1点台前後の成績を春・秋共に示している。0点台と言う絶対領域を続けていたわけではないが、非常に安定感のある投手であることを数字は実証している。 (データから考える) 実際に見た印象通り、けして荒れ荒れの素材ではない。ただ意外に三振を奪える投手ではないことに、むしろ驚いている。ただまだまだ肉体の完成度は低く、発展途上の投手であり、その辺が被安打率などからも感じ取れる。リーグレベルを考えると、この数字を鵜呑みにはできないが、精神的に安定していて、バランスの取れた投手との印象は、データの上からも実証された。 楽天 (最後に) フォーム分析やデータ分析をすると、観戦機会の少ない選手でも、なんとなくイメージができあがってくる。そういった意味ではこの投手、あくまでもまだまだ成長途上の選手であり、圧倒的に基礎となる筋力が不足している印象は否めない。その辺が、投球の弱々しさにも、はっきりと出ている。 その反面、土台となるフォームの良さ・制球・投球の安定感もあり、素直に肉付けすれば、そのまま力になると言う安心感がある素材だとも言える。ただ本格化するのが、1年後なのか2年後なのかと考えると、大学でも頭角を現したのは3年生以降だったことを考えると、少し数年先のことになりそうだ。ただプレーに対する手抜きはないようで、野球への姿勢は悪くなさそうだ。むしろ野球環境次第では、大きく化ける可能性も秘めている。 ただそれでも今は「旬」ではなく、プロ入りのタイミングとしては時期尚早だったのかなと言う気もしなくはない。実際の投球を見た印象よりも、フォーム分析・データ分析をした方が、印象がよくなった感じの選手だった。プロの育成に期待したいものの、個人的には最後まで指名リストに載せるほどのパンチに欠けていた。 この記事が参考になったという方は、ぜひ! (2010年・秋) |