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伏見 寅威(オリックス)捕手のルーキー回顧へ







伏見 寅威(東海大)捕手 182/83 右/右 (東海大四出身) 
 





                  「やっぱりNO.1かも」





 やっぱり2012年度のシーズンが始まってみて、他の捕手と比べてみると 伏見 寅威 は、大学・社会人NO.1の捕手なのではないか、そんな思いが強くなってきた。一見何が売りなのか掴みどころのない選手なのだが、よ~く見ると穴が少なく欠点らしい欠点が見当たらない。今回は、そんな伏見選手を、オフシーズンに残した寸評と比較しながら、今年のプレーを検証してみたい。


(ディフェンス面)

 彼の最大の良さは、投手のボールに対し押し返すような力強いキャッチング。捕手に求められる一番大事な要素は何か?と議論になるが、私はプロの球にも力負けしないシッカリしたキャッチングにあると考える。プロはまず地肩が強いことを第一条件にあげるスカウトは多いが、私はまずシッカリ捕れること。このことを、捕手の第一条件にあげたい。そういった意味では、文句なしこの選手は今年の№.1だ。

 ミットを一瞬しか投手に示さないので、的をつけて投げやすいのかは微妙。ただミットを下げることなく捕球し、ワンバウンド処理や低めの球への対応は悪くない。リードは、アウトコース中心に組み立てるオーソドックスなスタイル。スローイングは、1.9秒前後と驚くようなタイムや地肩の強さではないが、実戦で刺すという意味では制球よく安定している。プロでも平均的な地肩ではあるが、こと刺すということに関しては上位の部類に入るのではないのだろうか。

 まずプロが第一条件としてあげる、刺せる肩というものを持っている。そして私が第一条件にあげる ボールをシッカリ捕球することも兼ね備えている。将来的に、プロのレギュラー捕手まで昇り詰められるかは微妙だが、総合力では、2012年度の大学・社会人では、やはり№.1の捕手だと評価したい。


(打撃内容)

 むしろ私にとって心配なのは、打撃の方にある。下級生の頃から東海大のレギュラーを張り、リーグでは首位打者の経験もある。ただ全国レベル・更に上のレベルの野球を意識すると、まだまだ物足りない印象は否めない。今回は、前回フォーム分析した時と違う部分に着目して考えてみたい。

<構え> ☆☆☆

 形としては殆ど昨年と変わった印象はありません。しかし昨年は適度に体を動かし揺らいでいたのですが、今年のプレーを見るとゆらぎらしい動きは観られません。その辺は、何処か脆い・固い印象は受けてしまい、実際の打撃でもそういった感じが致します。

<仕掛け> 早めの仕掛け

 昨年の秋のフォームでは、「遅めの仕掛け」を採用していた。しかし3月の社会人選抜との試合では、「早めの仕掛け」を採用。典型的なアベレージ打者のそれとなり、課題であった対応力を改善しようという意思は感じられる。

<足の運び> ☆☆☆☆

 以前のように足を回し込み打ちに来る、余裕のある動作に戻しました。始動~着地までの時間が取れているので、いろいろな変化に対応できます。インステップに踏み込んでいたのも、スクエアに戻し幅広く打とうという意識の現れです。フォームを変えたというよりは、良かった下級生の頃に戻したといった方が適当ではないのだろうか。

<リストワーク> ☆☆☆

 ほとんど形は変わりませんが、以前は「トップ」~「インパクト」までのスイング軌道に無駄を感じなかったのですが、今回は少し遠回りにバットが出ている印象を受けました。昨秋のリーグ戦の時に比べる、と今年のフォームは少し劣ります。

<軸> ☆☆☆

 昨秋に比べると、頭の動きも大きくなっていると思います。ただ体の開きは我慢できており、インパクトの際にもブレません。少し軸足の形が窮屈であり、その辺がスイングの形をいびつにしていると考えます。

(打撃フォームのまとめ)

 いろいろ思考錯誤しているのは、フォームの変遷から見ていてもわかります。ただ全体としては、昨秋のフォームの方が3月の時点でのフォームよりは良かったのではないかと思います。ただシーズン前だった3月とシーズン中だった昨年のフォームを比べると、まだまだフォームが安定していなかったのかもしれません。

(野球への意識)

 ネクストバッターボックスでは、投げている投手にタイミングを合わせたりと、試合には上手く入って行けています。足場のならし方などを見ていると、打撃へのこだわりは悪くないようです。ただ打席に入るときにラインを踏んでしまうように、捕手としてのキメこなやかは感じません。実際に見ていて思うのは、こういった捕手としての適性という意味で、今まであまりピンと来たことがなかったはこういう部分だったのかもしれません。


(最後に)

 ディフェンスに関しては、2012年度の大学・社会人NO.1捕手と言われる所以は、今シーズンのプレーを見るとより実感致しました。打撃も下級生の時からの活躍、リーグ首位打者を獲得したように、ボールを捉える能力は悪くはありません。ただプロで活躍するほどの対応力があるのかは微妙ですが、ドラフト候補として必要な打力は持ち合わせていると評価します。

 そういった攻守のバランス・下級生の頃から積み上げてきた実績からしても、3,4位ぐらいでは指名されるのではないのでしょうか。個人的にも、改めて力はある選手なんだなという印象は持っています。ぜひこれまで苦しんできた全国での舞台で、申し分ない活躍を手土産に、プロ入りを実現して欲しいとおもいます。


蔵の評価:☆☆ (中位指名級)


(2012年 春季リーグ戦)









伏見 寅威(南北海道・東海大四)捕手 180/78 右/右





                 「プロ入りにトライ!」





 私が知る限り、北海道道内で今年唯一ドラフト候補と成り得る野手は、この伏見 寅威(トライ)捕手だけではないかと考える。実際のところ、どのような選手なのかは、あまりマスコミ媒体やネット上でも取り上げられることは少ない。しかし球場のバックネット裏でスカウトが興味を示していた選手は、この選手だけだといっても過言ではなかった。

 試合前、私の隣りに偶然座った叔父さんが「この子の名前・トライ って云うんだ。きっと親はラグビー選手にでもさせたかったんだろうな。」なんて話しかけて来る。最初は誰のことを云っているのかと思ったら、この日の観戦目当ての1人だった。伏見 寅威のことだった。確かにこの頑強な身体ならば、ラグビーをやっていてもそれなりの選手になったのではないかと想像する。

(プレースタイル)

 捕手には、いろいろなタイプがいる。彼は、東海大四の4番打者を務める強打と、高校生として強肩のスローイング・恵まれた体格を持つ、まさに強肩・強打の大型捕手と云う言葉が相応しい。ただそんなありきたりな言葉で、彼を表現する気はない。

 大きな身体を小さく屈めミットを大きく魅せるその構えは、少しでも投手に投げやすいようにと配慮した彼の気持ちが表れている。ボールを返球する時は、軽く正確にピッチャーのミットに丁寧な返球に心がける。そんな一つ一つの動作を見ていると、この選手は俺に任せろと叱咤激励するドラフト候補ありがちな頼れる女房と云うよりは、投手の気持ちの変化を敏感に読み取ったり、言葉に投手が出さずとも、そっと配慮する気遣いの出来る捕手であるように思える。チームの4番・捕手と云う重責を背負いながら、けして御山の大将にならない謙虚さは、ドラフト候補としては珍しいタイプの選手だと云えよう。

(捕手としては)

 ただそれだからと云って、プロのスカウトはその技量を簡単に認める程甘くはない。確かに塁間のスローイングを計測すると、1.9秒台後半を叩き出すなど、高校生捕手としてはA級の地肩の持ち主。しかしその際のスローイングの形が悪く、返球する球はシュート回転するし、制球力も不安定だ。その身体能力ほどの破壊力に欠けるスローイングだと云えよう。

 またテンポの良いリードには好感を持てるが、打球への反応・フットワーク・キャッチングなどは、ドラフト候補としては少々物足りない。ことディフェンス面においては、まだまだ学ばなければいけない面が多いように思える。総合的なディフェンス力は、私はまだプロの領域に入って来るには、物足りないものを感じる。


(打撃スタイル)

 試合では、高めに甘く入ったストレートを見事レフトスタンドに叩き込んだ。その打球を一目見れば、彼がドラフト候補と呼ばれる理由が頷ける。甘い球を流さず叩くことは素晴らしいが、実際どんなバッティングをしているのかは、フォーム分析をしてみないとわからない部分は多い。打球の飛距離・強烈さは、ポテンシャルとしてプロを意識出来る選手であるのは間違いない。


(打撃フォーム)

 いつものように「野球兼」の
2008年6月1日更新分に、彼の打撃フォーム連続写真が掲載されているので、そちらを参照して頂きたい。

<構え> ☆☆☆☆

 写真1を見ると、前の足を軽く引いてカカトを浮かせて構えている。グリップの高さは平均的、最初から捕手方向にグリップを添えている。腰の据わり・全体のバランス・両目で前を見据える姿勢なども悪くない。グリップを引いて構えている割には、それほどリストワークに力みは感じられない。打席でもバット揺らいで、自分のリズムで立てており、雰囲気もよく良い構えではないのだろうか。

<仕掛け> 平均的な仕掛け

 本格的にスイング動作に入る、始動のタイミングで打者のタイプは大きく分類されて行く。彼の場合、投手の重心が下がりきった時に始動する「平均的な仕掛け」を採用。これは、ある程度の対応力と長打力をバランス良く兼ね備えた中距離打者・ポイントゲッタータイプの打者が多く採用する仕掛けである。彼も高校生レベルでは長距離タイプだが、本質的には中距離打者だと考えて良さそうだ。


<下半身> ☆☆☆☆

 写真2のように足をしっかり引き上げ、写真3のように、ほぼ真っ直ぐ踏みこんで来る。真っ直ぐ踏みこむと云うことは、内角の球でも外角の球でも捌きたいと云う彼の意志が感じられる。

 しっかり足を引き上げることで、下半身の体重移動を行いつつ、しっかり踏みこんだ足元は、インパクトの際にブレず、身体の開きやパワーロスを防ぐことが出来ている。アウトコースの球でも、カベをしっかりキープして叩くことが出来るスタイルだ。

 技術的には大きな破綻はないのだが、膝が少々固く感じてしまうのは残念。縦の変化の多いプロの世界では、この膝の使い方が固い選手は苦労する選手が多い。


<上半身> ☆☆☆

 写真1の構え~写真3の振りだしまで、グリップの位置は殆ど変わっていない。それだけグリップの移動距離が少なく、ロスを軽減して打ちに行く無駄を省いたスタイルだ。ただいつも云うよりに、こういったグリップに遊びがない選手の打撃は、どうしてもリストワークが固くなり、打撃が脆くなりがちだ。このような打撃を許されるのは、リストワークに遊びがなくても、膝を柔らかく使うことで打ちに行くタイプの打者であり、彼のように膝が硬い選手は、もう少しグリップに遊びを持たせたい。すなわち、グリップを最初からあまり捕手方向に引きすぎないことに注意したい。

 ただトップはそれなりに深く、弓矢の弓を引くが如く強い反発力が期待出来る。またその際のグリップの位置が深く身体の奥に入り込まないので、ヘッドの滑りだしも悪くない。ただ写真4のように、バットを寝せて出しているので、相当腰を回転させないとバットの先端とグリップが水平にならず、打球が前にしっかり飛んで行かないのだ。あらかじめ流す打撃を意識した左の好打者タイプならば、これもありかもしれないが、彼のような右の強打者タイプは、もう少しヘッドを立てて振り出した方が得策だと私は考える。

 写真5を見ると、強打者の割に、スイングの弧は小さく、フォロースルーも大きく、しっかり取れていないのがわかる。スイングの後ろは小さく、前は大きくと云う基本には則っていない。金属バットならば、これでも打ち返せるだろうが、木製バットでは辛い打ち方となっている。


<軸> ☆☆☆☆

 頭の位置は常に安定しているし、腰の開きも遅く我慢出来ているのもよい。膝の硬さが目につくが、軸足自体の崩れは小さく、打てる球は限られていても、打撃の並は少ない安定したタイプかもしれない。




(最後に)

 投手に配慮出来る捕手的適正・一塁までの塁間も全力で走り抜けるプレーへの貪欲さなど、メンタル的には好感が持てる選手ではある。ただその一方で、打球への反応・カバーリングへの動きなどを見ると、まだプレーそのものに「鋭さ」がなく、高卒でプロに行って飯を食うんだと気構えの精神面の成熟さは、まだまだ感じられない。

 またディフェンス力の総合的な能力・打者としての膝の硬さなどを見ると、プロに混ぜてしまうと素材的に抜けておらず、埋もれてしまう可能性は否定出来ない。

 素材・精神面・ディフェンス技術などなどを加味すると、私は高卒でのプロ入りは時期尚早だと考える。ただ持ち得るポテンシャルはある選手なので、今後大学などでの活躍次第では、再び3,4年後候補として浮上して来る可能性を秘めた素材だろう。全国的にも捕手が不足する今年、北海道・東北地区では、屈指の捕手に数えられるのではないのだろうか。今後の活躍を少し長い目で見守ってみたい。


(2008年 春季北海道大会)