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東浜 巨(亜細亜大)投手 181/73 右/右 (沖縄尚学出身) |
「東浜巨は変わったのか?」
高校時代や大学下級生時代の投球を知るものかすると、東浜は本当に進化しているのかどうかは正直不安になる。そこで今回は、幾つかの角度から昨年からの変化について考えてみた。
(成績から考える)
この春の東浜のリーグ戦成績は
7試合 5勝1敗 59回 34安打 38奪三振 16四死球 防御率 0.92
昨年一年間で、僅か勝ち星と負け星の差が+1程度しかなかった彼が、春のリーグ戦だけで4つの貯金をした。このことからも、彼自身が勝てる投手へ進化したことは、数字の上からは伺われる。そこでいつものように、成績に基づきファクター別に考えてみたい。
1,被安打はイニングの70%以下に ◎
今春は、59イニングで被安打は僅か34安打。被安打率は、57.6%と基準を大きく下回り、安定した投球をしていたことがわかる。実際の投球を観ていても、甘い球を痛打される場面はあるが、要所を締め連打を喰らうことは少ない。
2,四死球はイニングの1/3以下に ◎
四死球率は、27.1%と基準である33.3%を満たしており、安定した制球力の持ち主であることがわかる。実際の投球でも、コースにシッカリボールを投げ分けることができ、余計な四死球を与えるケースは少ない。ただ危険を察知した時は、あえて無理な勝負をしないで四球を出すことも、この選手ができる特殊芸当だ。
3,奪三振は、イニング数前後 ☓
59イニングで、奪三振は38。1イニングあたり0.64個という数字は平均的で、必要なとき以外は狙って三振を奪うことは少ない。その辺は、投球を見ていても何か物足りないものを感じさせる大きな要因になっている。ただ狙って奪おうとすれば、遥かに多くの三振を奪えるだけの余力を残しているのも確か。
4、防御率は、1点台以内で ◎
プロを意識するのならば、リーグ戦の成績は1点台以内で。更に上位指名を狙おうという選手ならば、0点台への数字を期待したかった。その点では、1年春以来の0点台である 0.92 を記録し、この春の最優秀防御率に輝いた。
(成績からわかること)
この春のリーグ戦で残した数字は、勢いのあった大学下級生時代の数字に匹敵する内容、むしろそれ以上だったのかもしれない。ただ投球を見てもわかるように、奪三振に現れるもの物足りなさは、下級生時代の輝きを取り戻せてはいないことを示している。ボールが行かなくても、勝てる術を身につけた。そんな感じではないのだろうか。
(投球内容)
今春の観戦の中で、ベストピッチではなかったかと思われる、大学選手権・八戸大戦の内容を参考に、今シーズンの投球を考えてみたい。
ストレート 135~140ぐらい
この日は、他球場に比べると3~5キロ程度厳しく表示される東京ドームでの登板。実際には、常時130キロ台後半~140キロ台中盤は出ていたような、ボールのキレ・勢いは感じられた。ここまでボールが来ていたのは、今年はじめて見た気がする。むしろ昨秋に神宮で観戦した東洋大戦の、常時140~後半を記録した試合よりも、ボールの勢い・質は、この日の方が良かった。
ただ東浜のストレートは、打者の手元でビシッと切れる球。そのためコースを誤ると長打を喰らいやすい。八戸大戦でも、外角高めのストレートを簡単に外野手の頭を越えられたように、けして球威・球速は図抜けていない。またストレートに関しては、真ん中~高めに集まる傾向があり、痛打を浴びることも少なくない。
変化球 スライダー・ツーシーム
この試合では、殆どカットボールやチェンジアップらしいボールは観られず、スライダー・ツーシーム・そしてフォーシームの真っ直ぐで投球が組立られていた。横滑りする小さなスライダーと、ショート回転して沈む独特のツーシームが中心であり、追い込んで三振を奪うのは、フォーシームのストレートであることが多い。
追い込んでから空振りを誘えるほどの変化球には乏しく、あくまでもバットの芯をズラしてゴロを打たせるための変化球といった感じだろうか。
その他
ランナーを出せば、素早い牽制や目で威嚇したりして進塁を許さない。フィールディングなども安定おり、クィックも1.05秒前後と鋭く投げ込める。投球以外の部分も安定している。
(投球のまとめ)
パッと危険を察知すると、マウンドを外したり、じっくり「間」をつかって投球をする天性の危険回避能力は素晴らしい。
ただ投球を観ていると、時々甘く入る球も少なくない。そういった球が痛打につながり、被安打の多さや勝負どころで勝ちきれない要因になっていたのだが、その辺は今シーズン改善されている。痛打を食らっても、その後の打者をキッチリ抑えることで要所を締める。
ただ肘の状態はかなり思わしくはないのだろう。なかなか下級生の時のような、140キロ台中盤~後半のボールは、今は見ることができない。それでもマウンドに上がり続け、結果を残すための術を磨いてきた。それが現状の、彼のピッチングなのだ。
(投球フォーム)
オフに作成した寸評でフォーム分析を行なっているので、今回は変化が感じられた部分にだけ触れたいと思う。
変化1
投げるときに膝小僧に土が着くぐらい深い重心を沈んでいたフォームを、幾分高くしたのではないかと考えられる。今まで足の甲でシッカリ地面を押し付けることができていたのだが、今は地面から浮きそうなぐらいになっている。そのため低めに丹念に集めていた印象だった投球が、高めに甘く入る球が目立つようになった。
変化2
幾分「着地」までの粘りを緩和させた弊害か、体の「開き」自体は早くなっているように思える。そのためコースを突いた球でも、高めの球などは球筋が早く見極められ、痛打を浴びる可能性が高くなった。
変化3
では何故これらの弊害を背負ってまで、フォームを少し腰高にしたのか? 考えられるのは、元々深く重心が落とし過ぎだったフォームを正常に戻し、体重移動をスムーズに行うことを目的としたのではないか。すなわちストレートが、打者の手元まで来るようにして質の向上を狙ったものと考えられる。
その効果は出ており、球速以上にキレのあるボールが、捕手のミットに収まっている。その効果が投球全体にも波及し、春の好成績につながったものと考えられる。
(投球フォームのまとめ)
ストレートを生かすためのフォーム改造を行った効果は出たが、その反面「開き」が早くなったり、高めに浮く頻度が増えたという弊害が出たのは確か。しかしこの変化が、彼の伸び悩んでいたここ数年のピッチングに光をもたらせた。肘の状態が悪い中でも、ストレートをなんとか活かそうという、彼の苦心が伺われる。
(最後に)
成績が示す通り、より勝てる投球ができるようになってきたのは確かだろう。ストレートの球速の物足りなさは相変わらずだが、質の向上によって投球のパフォーマンスを取り戻した。
実際のところ、プロで開幕からローテーションでやって行けるだけの能力はあると評価する。恐らく彼が不安を覚えるのは、プロの長く厳しいシーズンを前提にすると、自分の体が持たないのではないかという不安。
ただ社会人に入れば、ある意味プロ以上に勝つことが要求される。プロでなら1年ぐらい棒に振っても、手術をしたりして回復を待ってくれる環境があるはずだ。しかし社会人ならば今のように、肘の状態を誤魔化し誤魔化し、投げ続けなければならないのではないのだろうか? いずれは野球を続けてゆけば、肘の問題は避けては通れないだろう。プロでやれる資質があるのならば、リハビリ・バックアップの環境もより充実している、プロの世界に早く飛び込むべきではないのだろうか? またそういったことを理解してくれる球団に、ぜひ入ってもらいたい。だから一年目から二桁とか、そういった具体的な予想は、あえてこの選手の場合はしない。ただ上位指名にふさわしい能力があるとだけ、ここでは言っておきたい。
蔵の評価:☆☆☆☆ (1位指名級)
(2012年 大学選手権)
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東浜 巨(沖縄・沖縄尚学)投手 181/70 右/右 |
「イメージとのギャップ!」 選抜優勝投手として、沖縄の地に帰ってきた 東浜 巨。しかし夏に向け、東浜の調子は上がってこなかった。何処か優勝投手と云うプレッシャーなのか、フォームに余計な力が入ってしまい、気負いのようなものが感じられた。それでもこの男、ただ黙って何もせずに、夏を迎えたわけではなかった。私は、更なるステップを意識して、強さを増した彼の成長を感じ取っていた。 (投球スタイル) バランスの取れたフォームと柔らかい腕の振りが、この投手の持ち味。春よりも上体を強く振れるようになっており、球速に現れない球威の部分で、ワンランク球にボリューム感が出てきた印象を私は受けた。この投手の課題として、細い身体故に、球威の観点で多少見劣りしていた点が、随分と解消されたなと云うのが、私の率直な感想だった。 ただその分、球威・球速で相手をねじ伏せてやろうと云う意識が増したのか、投球の繊細さを少し失い欠けている。球全体が高めに浮き、更に真ん中の甘いゾーンにも、スッと入って来ることが増えた。そういった球を、全国トップレベルの浦添商打線は、けして見逃さない。 球種は、常時140~MAXで140キロ台中盤を記録する速球。手元での伸び・力強さを増し、肉体的な成長を遂げたことを実感させられる。曲がりながら落ちるスライダー、左打者へのアクセントになるチェンジアップ・時折織り交ぜるカーブ・そしてシュート回転して高速で沈むツーシームなど、縦にストンと落ちる球種はないが、多彩な球種で投球を色取る。 洗練されたマウンド捌きは相変わらずで、ピンチでもしっかりマウンドを外して「間」を取ったりと投球センスに優れている。ただ元々球威のなかった投手なので、丁寧にコーナーを突く繊細さがあったのだが、この夏はその繊細さが薄れたことが、一番の敗因ではないかと私は考える。 <右打者に対して> ☆☆☆ アウトコース高めに速球とスライダーを決め投球を組み立ててくる。またアウトコース低めにも、落ちながら逃げて行くスライダーを集めて来る。ただ残念なのは、この夏はあまりこのスライダーを振ってくれるケースが少なく、外のストレートで見逃し三振を奪うことが多かった。肉体の成長と共にスライダーが、自分のそれまでのイメージよりも大きく早く曲がってしまうようになり、打者に見極めやすくなってしまったのではないのだろうか。これは、肉体の成長過程では、よくあることではある。 またそのため無理に力でねじ伏せるケースが増え、内角の魅せ球であるはずの球が、高めのボールゾーンに抜けることも多く、上手く持ち味である内外角を突く投球が出来ていなかった。結局頼れるゾーンは、アウトコース高めの球になり、そのコースに的を絞ってきた打者に狙い打ちされたり、甘くシュート回転して真ん中高めに入って来る球を痛打される、そんな悪循環をこの夏の東浜のピッチングからは伺うことが出来た。 速球とスライダー・時おり緩急を効かせるために投げるカーブ。相手のインコースにツーシームを投げて込み、アウトコースへの踏み込みを封じる配球だったはずだが、そのツーシームも充分にコントロール出来ていたかは微妙だろう。外のスライダーを振ってくれない東浜の投球は、縦の変化がない投手だけに、翼のもがれたようなものなのだった。 <左打者に対して> ☆☆☆ 左打者に対しては、アウトコース高めに速球とチェンジアップを集めて投球を組み立てて来る。インコースにも、速球やスライダーで、相手の踏み込みを封じる努力はしている。元々東浜は、左打者への投球に課題があったのだが、現在は特別違和感は感じられなくなってきた。ただ右打者ほど緩急が効かせられないのと、落ちながら曲がるスライダーを活かせない左打者に対しては、縦への変化が殆どないと云う、一辺倒な投球になりやすい。その辺が今後の改善点ではないのだろうか。 (投球のまとめ) 肉体の成長に伴い、球威が増した分、制球の粗さ・投球の繊細さなどが出てしまい、それまでの自分のピッチングイメージと違う投球になっていたのではないのだろうか。春とは明らかに違う自分のピッチングに、常に違和感を感じながら。 ただこれは、自分の肉体とイメージとのギャップであり、時間をかければ改善出来て行くポイントだろう。もう一度原点に戻り、丁寧に投げることに心がければ、それほど心配することではない。 ただ球威を増したとはいえ、綺麗なフォーム・それほど威圧感のない体格などを加味すると、甘く入ると怖いと言う印象は否めない。その辺の素直さを、如何に補って行けるのかが、この投手の生涯のテーマとなりそうだ。 春からの、球そのものの成長は感じさせ、スケールの点で増してきたところは素直に評価したい。選抜優勝と云う実績に奢ることなく、地道な努力が出来る選手であり、また肉体的にも、まだまだ発展出来る余地が残っていることを、この夏我々に証明してくれた。 (投球フォーム) いつものように「野球兼」2008年8月1日更新分に、彼のこの夏の投球フォーム連続写真が掲載されているので、そちらも参照しながら読み進めて欲しい。ただフォーム分析は、下記の寸評で一度行っているので、大きな変化に絞って取り上げてみたい。 <踏みだし> ☆☆☆ 昨夏の写真1と今年の写真1を比べると、目に見えて筋力・身体付きが変わっているようには見えない。違いを感じるのは、昨年は肩幅程度の横幅を取ってバランスが取れているのに対し、今年は足を引いて立っており、バランスよりもスピードを重視した立ち方に変わっている印象だ。ただ球威・球速は着実に進化しており、目に見え難い部分での筋力のUPはなされているのだろう。 昨年の写真2と今年の写真2を比べると、足をゆっくり引き上げる勢い・その高さは、殆ど変わっていない。 <軸足への乗せとバランス> ☆☆☆ 昨年の写真2と今年の写真2を比べると、今年の方が軸足に余裕がなく、ピンと立ってしまっている。軸足の膝を見てみると、膝がピンと伸びきっていないのは良い。膝から上がピンと伸びきって余裕がないと 1,フォームに余計な力が入り力みにつながる 2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい 3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い などの問題が生じる。昨夏よりもバランスが悪く、少し身体が前に突っ込んでしまっている。しかし彼の場合、膝が伸びている割に、引き上げた足を二塁側に送り込むことでバランスを取り余計な力が発生し難い。またこれにより、軸足への体重の乗せ具合も悪くない。 <お尻の落としと着地> ☆☆☆ 昨年の写真3と今年の写真3を比べると、お尻の落としは殆ど変わっていない。地面に向かってピンと足を伸ばしているので、お尻は一塁側にしっかり落ちない。お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労しやすいことにつながるからだ。 また昨年の写真4と今年の写真4を比べると、足を前に逃がすタイミング・ステップは殆ど同じの印象を受ける。そのため前に足を充分にステップし、着地のタイミングを遅らせることに成功している。着地を遅らせる意味としては 1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。 2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。 3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。 <グラブの抱えと軸足の粘り> ☆☆☆ 昨年の写真6と今年の写真6を比べても、グラブの抱えに関しては殆ど変わっていないことがわかる。通常グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになるのだ。彼の場合は、最後までしっかりグラブを抱えることが出来ている。 昨年の写真5と今年の写真5と比べても、足の甲の押し付けは殆ど変わらない。足の甲で地面を押しつける意味としては、 1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ 2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える などの働きがある。彼の場合、膝に土がついてしまうぐらい上体が沈み過ぎて、スパイクのエッジが効き難く、その効果は薄いのかもしれない。 <球の行方> ☆☆☆☆ 写真3を見ると、前の肩と後ろの肩を結ぶラインは打者にまっすぐ伸びてはおらず、球を隠すことは出来ている。写真4の着地したときにも、ボールを持った腕は頭の後ろにあり、打者からはボールは見えていない。すなわち体の開きは早くなっていないように見える。 写真5の腕の角度も適正で、昨年の写真5と比べても球もちがよくなっているのがわかる。ボールを長く持つ意味としては 1,打者からタイミングが計りにくい 2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる 3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい などがあげられる。彼の成長した部分をあげるとすれば、この球持ちがワンランクよくなっているところではないのだろうか。 <フィニッシュ> ☆☆☆☆ 写真6を見ると、振り下ろした腕が体に絡んでこないのは気になるところ。ただ地面の蹴り上げは良く、前にしっかり体重が乗っていっているように見えるし、投げ終わったあとにバランスを崩さないところも、彼の優れた資質だろう。 (投球のまとめ) 投球の4大動作である・着地・球持ち・開き・体重移動など、いずれの部分でも基準を満たす技量を兼ね備えている。持ちえる土台・柔らかい腕の振り・スムーズな体重移動などを見ると、あとはしっかり肉付けが出来れば、比較的早い段階でプロでも活躍して行けるのではないのだろうか。 (最後に) 肉体の成長に自分のイメージがついて行かず、違和感を抱えたままの最後の夏。ただこれは、成長過程では致し方ないことで、悲観することはないだろう。心技体の観点で見れば、技術は十分にプロの基準を満たしている。見た目の細さはあるが、基礎体力・持ちえる肉体的才能も十分だろう。精神面を考えても、野球に対する姿勢は評価できる選手。今後も着実にその才能を伸ばして行けそうだ。しいて言えば、ややプレーの集中力に甘さを残す部分があるので、その辺の成長を望みたい。 また将来的に縦系の変化球を習得して行けるのか、無事肉付きが良くなって行くのかと言う不安要素はあるものの、恐らくプロで一年ぐらいみっちり鍛えれば、2年目ぐらいにはローテーション投手としてやってゆけるだけの素材ではないのだろうか。あとは肉付けが無事出来ればと言うぐらいの土台の良さがあり、フォーム・投球内容など大きくいじるところはない安心感はある。 これだけの力量と総合力を兼ね備えて、更に選抜優勝投手と言う実績を残した選手が、アマに残って何をモチベーションに進化をして行くのかと言う疑問は持つ。しかしそれが、本人の望むところならば、自分の満足行く道を進めばいい。 春よりもピッチング内容は粗くなったものの、球威を増し、その球質はより大人の球になってきた。彼が選抜の時点で満足せずに資質を伸ばす姿勢が見られたこと、まだ肉体的にも成長を続けていることを確認できたことは私が最も知りたかった部分。彼が例えどんな結論を下そうとも、これからもこの世代を引っ張って行く存在であり続けてくれると私は信じて疑わない! 蔵の評価:☆☆☆☆ (2008年 夏) |
東浜 巨(沖縄・沖縄尚学)投手 180/68 右/右 |
今大会出場選手の中でも、大会前から1,2を争うだろう投手として、期待の高かった選手です。元巨人の河原純一(駒大出身)バリのフォームから、130キロ台後半~MAX147キロの速球を投げ込んで来る快速球投手。変化球は、カーブ・スライダー・それに高速で沈むチェンジアップなどがあります。特に横滑りするスライダーのキレはハードであり、高速で沈むチェンジアップの落差も強烈です。速球はキレ型なので、空振りこそ誘えるものの、それほど威圧する迫力はありません。むしろこの投手の良さは、変化球の威力を交えた総合力で勝負するバランス型投手だと云えるでしょう。 それでも昨夏あたりと比べると、球威・球速はワンランク増してきた印象で、着実な成長を感じさせてくれました。特に土台に優れたフォームから繰り出す変化球は、格段にキレ増してきた印象です。球威がない分、甘く入って来ると怖い一面は、どうしても彼のようなキレ型投手の宿命といったところでしょう。しかしその分、速球を魅せ球にしつつ、変化球を武器に出来るレベルにあり、投球を組み立てられる内外角の制球力もあります。クィック・牽制などの投球以外の部分・投球自体のマウンド捌きなど、投手らしい投手です。 実際生で見ていないので、なんとも云えない部分はあるのですが、恐らく生で見ると少々球のボリューム感に物足りなさを感じる部分はあると思います。ただそれを補ってあまりある変化球と投球センスがある投手だと評価しております。 当然高卒でプロに行ける素材だと思います。個人的には、春の時点では中位レベル級までの評価に留めますが、実際には秋のドラフトで最上位になる可能性が高い投手ではないのでしょうか。更に夏に向けてワンランク伸びる成長曲線を、個人的には期待しております。その可能性を充分もった、ドラフトの王道を行ける選手です。 蔵の評価:☆☆☆ (2008年・センバツ) 2008年度のドラフト候補をもった知りたい! ならば迷スカウトのトップページへ |
東浜 巨(沖縄・沖縄尚学)投手 181/68 右/右 |
「ニコニコ坊やが、やってくる!」 あどけない顔で、ニコニコしながら投げ込む 東浜 巨 。一年夏に出会って以来、その将来を楽しみにしてきた。今や沖縄のみならず、九州を代表する投手とまで評されるようになった彼が、選抜の舞台をほぼ手中に収めたのである。 (投球スタイル) 沖縄の逸材と云えば、大嶺祐太(ロッテ)や新垣渚のような、超速球派投手を想像する人も少なくないだろう。しかしこの東浜は、顔は童顔、身体の線は細く、何処か頼りない身体つき。むしろ球威・球速で押すと云うよりは、キレのある速球と多彩な変化球を低めやコーナーに丁寧に集める好投手。そこには、MAX145キロと評される速球派のイメージからは懸け離れている。 私が確認した今夏の沖縄大会。常時135キロ前後~MAXで140キロぐらいだろうか。キレのある速球を、低めに集めるのがこの投手の持ち味だった。そのため一つ甘く入ると、長打を浴びるような怖さがあるのも確か。 変化球は、スライダーやチェンジアップを武器に、カーブ・フォーク・シュートなど極めて多彩で、一通りの変化球をすでに修得しているようだ。柔らかい腕の振り・身のこなしが、この投手の天性の素質を垣間見せる。 一瞬ひ弱なイメージを受けるが、フィールディングのダッシュ力は素晴らしく、牽制だって下手ではない。クィックだって1.15秒弱とかなり素早い。肉体的なポテンシャルに頼った逸材が多かった沖縄の中では、センス型の珍しいタイプだと云えよう。 <右打者に対して> ☆☆☆☆ 投球の基礎の基礎は、まずアウトコースにしっかり球が集められることである。その点、この投手は優れている。ただ打者にとって外角高めは、真ん中近辺と並び最も痛打することが出来るコース。そこに速球が集まる傾向があるのは、これからの課題。しかしカーブやスライダーと云う球威に欠ける球は、真ん中~低めのゾーンに集めるところは好感。 面白いのは、内角を突く時に勿論速球やシュートのような内角をえぐる球を使う一方で、チェンジアップを上手く右打者の内角に使える点だ。左打者の外角にチェンジアップを使える選手は多いのだが、右打者の内角にチェンジアップを使える選手は稀だと云えよう。 右打者に対しては、真ん中近辺に甘く入る球は殆ど観られない。ただそのかわり、縦にストンと落ちるフォーク系の球種もあまり見受けられないのが残念だ。 <左打者に対して> ☆☆☆ 左打者に対しても、アウトコースに球を集めることが出来ている。その球種は、速球・スライダー・チェンジアップ・カーブと実に多彩だ。内角にも、速球・カーブなどでを投げ込んで来るが、それほど厳しい攻めではない。 左打者へは、フォークなどの球種も結構投げるが、中々打者が空振りをしてくれる程のキレはまだまだ有していない。真ん中近辺に甘く入る球はないのだが、アウトコースの甘くない球を打ち込まれるケースが多い。左打者からは、球が見やすいのだろうか。ヒットの多くが、左打者から浴びている。 (投球のまとめ) けして左打者に対して制球を乱しているわけではないのだが、左打者からヒットを浴びるケースが多い。そのことを考えると、左打者への配球・フォームなども含めて考えた方が良さそうだ。 (投球フォーム) いつものように「野球兼」の2007年12月16日更新分に、彼の投球フォーム連続写真が掲載されているので、そちらも参考にして読み進めて欲しい。 <踏みだし> ☆☆☆ 写真1は、東浜投手がワインドアップで振りかぶった時のものである。背中の反り具合を見るとまだまだ背筋の力が足りず、お尻の大きさを観ると下半身の筋力が足りない印象を受ける。全体に線が細く、筋力が不足している印象を受ける。足の横幅は肩幅程度と並ぐらい。足をゆっくり引き上げ、写真2の高さまで引き上げて来る。踏みだしとしては、平均的だろう。 <軸足への乗せとバランス> ☆☆☆ 写真2の軸足の膝に注目してみると、やや膝から上が真上に伸びている。通常膝に余裕がないと、バランスを取ろうとして無理に余計な力が働く。しかし彼の場合、膝が伸びている割に、引き上げた足を二塁側に送り込むことでバランスを取り余計な力が発生し難い。またこれにより、軸足への体重の乗せ具合も悪くない。 <お尻の落としと着地> ☆☆☆☆ 写真3のように、引き上げた足を幾分二塁側に送り込むことで、お尻を一塁側に落とす時にバランスを上手く保てている。お尻がしっかり落とせることで、身体を捻り出すスペースが確保出来ており、多彩な変化球を生み出す源となっている。 また写真4の着地までに前に足を上手く逃がし、着地のタイミングを遅らせることに成功している。これにより打者のタイミングを外したり、下半身の体重移動なども充分に可能にしている。更に下半身の筋力や股関節の柔軟性を養えば、更に粘りのあるフォームになるだろう。 <グラブの抱えと軸足の粘り> ☆☆☆☆ 写真6を観ると、フォームの最後まで胸元にしっかりグラブが抱えられている。これにより、左右の軸のブレを防ぎ、両サイドの制球は安定しやすくなる。彼の安定した制球力は、この部分の働きが大きい。 写真5の右足スパイクに注目してみると、足の甲でしっかり押しつけられているように見える。ただその時間がまだまだ短く、粘りに欠けるのが今後の課題だろうか。足の甲でしっかり地面を押しつける意味は、球が浮くのを防ぎ、後の動作にしっかりエネルギーを伝える働きがある。 <球の行方> ☆☆☆☆ 写真3の時に、もう少しグラブを高い位置で斜め前に差し出せると、もっと球を長く隠すことが出来そうだ。写真4の着地の段階に入ると、ボールが打者から見え始めそうになっている。ただ彼の場合、着地までの時間が稼げているので開きの早さが並ぐらいでも、それほど悲観することはないだろう。 理想的なのは、写真5のように腕を高い位置から振り下ろしても、左右の両肩を結ぶラインが左側に下がっていない点だ。多くの投手が、腕を無理に角度を付けようとするので、左肩が下がってしまい負担の多い投げ方なのだが、この投手は無理なく角度がつけれると云う理想系となっている。またその際に球持ちも悪くなく、指先の感覚・ボールへのバックスピン・打者のタイミングを狂わす意味でもボールを長く持っていられることは、投球フォームの着地と並ぶ2大動作に優れていることをあらわす <フィニッシュ> ☆☆☆ 写真6を観ると、せっかく縦に腕を綺麗に振り抜けているのに、身体に絡んでこないのは腕を振る力が弱いからだろう。地面の蹴り上げもまだまだ物足りない。投げ終わったあとのバランスも、まだ不安定なのは下半身の筋力が不足しているからだと思われる。根本的なフォームの善し悪しではなく、多くの原因が筋力の不足から来ている。 (フォームのまとめ) 柔らかな腕の振り、体重移動、フォームの根本土台などは、かなり理想的な選手だと思われる。ただ圧倒的な筋力不足から、まだまだフォーム・投球がビシッとしてこない。これを如何に改善出来るかが、今後のポイントだろう。 (最後に) 投手としてのセンス・投球に対する丁寧さ・素材としての面白み・投球動作の理想型とも云えるフォームは、素晴らしい素材だと云える。一冬越えて、如何に圧倒的に不足する体幹を中心とした筋力を養って行けるのかが、高卒即プロの別れ目だと云えよう。 この夏の沖縄大会準決勝。ライバル・伊波翔悟(浦添商)との投げ合いの中、送りバントの際に肉離れして無念の降板し敗退した。この悔しさをバネに、一冬越えて如何に精悍な顔になって我々の前に姿を現すのか、本当に楽しみである。ニコニコしている中に、時々ドキッとするような鋭い眼光が覗く時がある。その目の輝きが本物ならば、選抜でも我々の度肝を抜いてくれそうだ! (2007年・夏) |
まだまだ線が細いのだが、柔らかい腕の振りと身のこなしに将来性を感じさせる右腕。球速は、昨夏の時点では125キロ強ぐらいだったが、腕の振りのしなやかさから手元でも伸びて空振りの誘える球質なのは魅力。また右打者アウトコースに決まるスライダーだかカーブのブレーキも鋭く、変化球にも好いものを持っている。 まだまだ身体に芯がないので、この辺がビシッとしてくると、沖縄でも注目される存在になるだろう。非常に可能性を感じさせる投手だけに、その成長が大いに楽しみだ。 (2006年・夏) |
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