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斎藤 佑樹(早稲田大)投手 175/75 右/右 (早稲田実業) |
「汚れた英雄!」 甲子園史上に残る歴史的なパフォーマンスを演じ、一躍国民的ヒーローになった 斎藤 佑樹。大学入学後も2年生までは、着実な成長を遂げたものの、その後輝きは完全に失われてゆく。下記にあるこの春の寸評では、今は成長期の産みの苦しみなのか?それとも本当の意味で錆びれてしまったのか?見極めとなるラストシーズンだと記載した。そのラストシーズンの投球を見て、彼の最後の寸評としよう。 (成績から考える) 春は、幾分復調気味だと思えた部分もあったが、捕手を同級生の市丸に代えたところで、彼が本当に錆びついていたことが証明されただけだった。そのことは、下記の4年間の成績を見てもわかるだろう。 (フォームから考える) 投球フォームを観る限り、昨秋と大きな変化は感じられない。とかく自分を制御する能力に優れていると見られがちだったハンカチ王子は、自分の欠点が何処にあり、それをどうすれば改善できるかまでは、自分では改善できなかったことがわかる。また早稲田と言う環境もまた、彼を好い方向に導く能力がないことを、集大成であるはずの4年秋に改めて証明することとなった。 「開き」が早く、腕が振れず・体重移動が阻害されるフォーム。結局最後まで、それを変えようと言う意志は感じられなかったのは誠に残念。 (謙虚さを失った裸の王子) 早実時代の彼は、ピンチになればなるほど、勝負どころで絶妙なところに決められる勝負強さがあった。そして普段の投球も実に丁寧で、その野球への謙虚な姿勢が、人々の感動を呼んだ。 しかし今の斎藤は、ピンチになればなるほど、勝負どころで甘い球が行く。カウントが悪くなれば、踏ん張り切れずに四球を出す。これでは、結果がついてくるはずもない。 実際にその投球を見ていても、非常に雑になり、自らの歯がゆさや味方のミスにイライラして、気持ちを持続できない思考回路ができあがってしまったかのように、同じことを繰り返している。 そのプレーを顕著に現しているのが、イニング間の投球練習で、最後の一球を軽く投げて終わらせている場面だ。こういった投手は、得てして詰めが甘い、あるいはプレーへの貪欲さに欠ける選手が多く、野球への愛情にかけるきらいがある。私は彼の投球練習の態度が、いつ変わるかずっと注目してきたが、それは4年秋のシーズンになっても変わることはなかった。下級生の間に、大学でやるべきことを、ほぼすべて成し遂げてしまった斎藤にとって、六大学と言う舞台で彼を燃えさせる要素は、何一つ残っていなかったのかもしれない。 (もがき続ける悪循環) と言っても、彼の成長のピークを迎えた2年秋以降、何もしてこなかったわけではない。球種を増やし、攻めのバリエーションを増やそうとした。更に速球とスライダー中心の投球スタイルを、今や速球とフォーク・チェンジアップなど縦の変化中心の投球スタイルに移行。 更にストレートの球威・球速を磨くために、ウエートトレを積極的に行うことで、パワーアップを図ろうと取り組んできた。しかしそういった試み1つ1つが、けして好い結果として表れず、彼の繊細な投球やバランスを狂わせていった。 (結局は) 結論からすると、今の斎藤佑樹は、この2年間もの間に、完全に錆びついてしまったと言うことだろう。それは、パフォーマンスの部分でも、野球への謙虚な姿勢と言う意味でもだ。 一度錆びついてしまったものを、再び輝きを取り戻すには、それをとりまく環境や人間の技量もさることながら、もう一度その素材自身が、輝きを取り戻してやろうと言う、内から滲み出るような気持ちになれるかどうかだと言うこと。斎藤にとってプロと言う環境が、新たなエネルギーの源になれるかどうか。 少なくても斎藤自身だけでは、その自己修正・自己向上を満足に結果として残せる選手ではないことは、この4年間で痛いほど証明して魅せた。それだけに彼を好い方向へ導く自信のある球団に、ぜひ指名して頂きたい。 一度こびりついた錆びを取り除き、輝きを取り戻させることは、けして容易にできることではない。あえて一年目に結果を求めず、根本から作り直すぐらいの覚悟で、本人も球団も取り組んで頂きたい。それができるかどうかは、彼が本当の意味で野球と言う仕事に、愛情を注ぐことができるのかにかかっている。 大学4年の秋と言う今の段階では、その評価は高校時代より高いものには出来なかった。しかしながら、高校時代あれだけのパフォーマンスを示した男が、このままで終わることはないと信じて疑わないという自分も、確かにそこに存在している。そう信じて疑わない人々のためにも、彼はこのままで終わってはならない。それこそが、スーパースターの宿命だと言えよう!! 蔵の評価:☆☆ (中位指名級) この記事が参考になったという方は、ぜひ! (2010年・秋) |
斎藤 佑樹(早稲田大)投手 175/75 右/右 (早稲田実業出身) |
「良化途上!」 最終学年を迎えたハンカチ王子こと、斎藤佑樹。昨年は、彼らしからぬ投球が続いていたが、この春の投球では完全復活できたのだろうか? またプロ野球を意識した時に、真の即戦力投手となり得るだけの力を身につけているのだろうか? この春の彼の投球から考えてみたい。 (ストレート) 高校時代の斎藤は、球速表示以上に手元までしっかり伸びてくるのが持ち味だった。ただ綺麗な球筋で、それほど球威は感じられなかった彼の球が、大学に入り少しずつ重くなって行く。その伸びと球威のバランスが絶妙だったのが、大学1,2年時の彼のストレートだった気がする。 今年の春の斎藤の球を観ると、球威や勢いこそ感じられる時はあるが、空振りを誘えるような伸びは感じられない。これは、この春の41イニングを投げて、奪三振は29個と言う三振の少なさからも、ハッキリしている。どうも私には、無理に角度つけてボールを投げようと言う意識が強すぎて、腕の回旋のスムーズさが損なわれている気がしてならない。ストレートをもっと速く投げたい、もっと角度をつけたいとする力みが、腕のしなやかさや球持ちを損なわせ、ボールの伸びを奪っているのだ。このストレートの質の改善こそが、斎藤復活の最大のキーワードだと言えよう。 (以前との違い) 春の投球を観ていて気がついたのは、以前よりも縦の変化球が増えてきている気がする。外角にストレートとスライダーを集めつつ、低めに落ちるフォークで、打者の的を絞らせない幅の広い配球を目指しているようだ。実際のところ、相手の注意を分散させることには成功しているとは思うが、実際に縦の変化で空振りを奪えている場面は非常に少ない。これだけ縦の変化球を多く使って、空振りを取れていない投手も珍しい。すなわち縦の変化が、事前に見極められている可能性が高いのでは?まだまだ彼が成長途上だと言えるのは、この球の精度が低いからに他ならない。 もう一つ気になったのは、四球の数こそ少なかったものの、投球を観ていても逆球が非常に多くなったこと。斎藤の持ち味の一つに、安定した制球力と言うものがあったのだが、今はとてもそんな表現はできない。何より早実時代は、ピンチになればなるほど、絶妙なところにボールを投げ込める勝負強さが彼にはあった。しかし今は全く逆で、ここで踏ん張らなければと言う場面において、甘い球が意図も簡単に行ってしまう。そんな場面を、昨年から何度観てきたことか。この春も、四死球も、被安打も、防御率も、下級生時代に近い数字を残したわけだが、終わって観ればシーズンで2勝3敗と負け越している。負けない斎藤が最大の魅力であった彼が、初めて負け越してシーズンを終えたのである。そのことが何より、私は問題ではないかと思うのだ。 (今シーズンの斎藤を観て) 調子が悪くても、試合をまとめてきていた斎藤も、昨年から今年の春にかけては、何だか並の投手になってしまったなあと言う印象は否めない。ただ3年時の彼に比べれば、少し良くなった感じはする。ただこれが産みの苦しみなのか、それともこの4年間の間に、本当の意味で寂れてしまったのかは、最後の秋のシーズンを観て考えたい。 ただ彼の大学1,2年時の投球レベルに戻せれば、それだけでプロでも一年目からローテーション投手に入る力はあると評価する。ただ現時点での投球では、プロのローテーションを年間担って行くのは厳しい。そういった課題を乗り越えるための良化途上の段階だと評価するのであれば、それほど悲観する投球ではなかった。しかし本当の意味で寂れているのであれば、その錆を落とすのには時間がかかるかもしれない。その見極めを、この秋してみたいと思うのだ。そのことをどう捉えるかによって、☆☆☆☆にもなれば☆☆にもなるように、彼の評価は変わって来ることになるだろう。 蔵の評価:☆☆☆ (上位指名級) (2010年・春) |
斎藤 佑樹(早稲田大)投手 175/75 右/右 (早稲田実業出身) |
「輝きを取り戻せるのか?」 2009年は、「ハンカチ王子」 にとって、試練の一年であった。早稲田大学入学後、緩やかな成長を続けてきた斎藤佑樹が、初めてぶつかった壁。今まで防御率1点台や0点台が当たり前であった彼にとって、春の2.25、この秋の3.08という数字は、屈辱の何ものでもなかった。 2010年、再びドラフトを迎える斎藤にとって、この屈辱を晴らせるのか、それともこのまま伸び悩むのか、いま大きな岐路にある。そこで今回は、この秋行われたプロ野球選抜との交流戦の模様を中心に、彼の今後について考えてみたい。 (明るい兆し) 斎藤佑樹は、早実時代から成長していないと言う声がよく聞かれるが、これに関しては、一概にそうは言えない。少なくてもストレートの球威・質に関しては、高校時代よりも遥かにプロの投手に近いボールの質を身につけてきた。 高校時代は、手元で高校生離れした伸びのあるストレートを投げていたのに対し、今はドラフト候補の中でも、上位レベルの球威のある重い球を投げ込んでくる。確かに以前ほど空振りが取れる球質ではなくなっているのだが、プロの打者を想定するのであれば、この方向性は間違っていない。特に斉藤のコメントを聞く限り、ストレートへのこだわりと言うものを強く印象づけられる。まず斉藤の成長を語る上では、ストレートの質が変わってきている点を、忘れては行けない。 (暗い陰) ストレートの質が向上しているにも関わらず、結果が悪くなっているのは何故だろうか? それは、斉藤自身が自分の能力以上に速い球を投げ込もうと無理をしているからだ。その顕著な例は、上背のない彼が無理にボールに角度をつけようと、腕を振り下ろしているからだろう。 基本的に彼のフォームは、高校3年の夏、いわゆる「ハンカチ王子」フィーバーの時と、大きくは変わっていない。しかし、その当時出来ていた動作が、今は雑になり上手くできなくなっているのだ。そこで、主だったフォームの乱れをあげてみたい。 1、 腕を無理に高く上げて振っている 2、 体の開きが早い 3、 重心が高くなっている 4、 前への体重移動が不十分 という部分に着目してみた。これらの狂いは、けしてフォームをマイナーチェンジしているから生じているのではなく、明らかなフォームの乱れだと考えられる。通常フォームをいじっているのならば、悪い面が出ても、どっかにメリットとなる好い面が出てくるもの。しかし彼の場合は、損なわれた部分ばかりが目立ち、良くなっている部分が見当たらない。これは、フォームの狂いとしかいえないだろう。もし意図的に今のフォームを作り上げているとするならば、これは極めて危険な兆候だと言わざるえない 1、腕を無理に高く上げて振っている どうしても、もっとストレートの威力を増したい、打者に速く感じさせたいという気持ちが強いのか、腕を高い位置から振り下ろそうとしている。しかし腕の振りには、適正な角度と言うものがあり、今の斉藤の腕の振りは、その度を超えている。この腕の振りの狂いが、後の動作に悪影響を及ぼしている。 2、 体の開きが早い 適正な腕の角度とは、リリースする時に、ボールを持っている腕が極端に高くなりすぎず、グラブを持っている腕は下がり過ぎない角度のことを指す。無理な腕の振りは、体の開きを誘発するだけでなく、体への負担も大きくする。 すなわち開きが早くなれば、いち早く球種が読まれ、打たれる可能性は高くなる。また体への負担が大きくなれば、常に故障との不安と戦いながら、長いシーズンを過ごさなければいけなくなる。 3、 重心が高くなっている 高校時代より重心が高くなっていることは、ボールをリリースする際の、軸足のスパイクに注目してみるとよくわかる。通常この時は、足の甲が地面にしっかり押し付けられるような動作が望ましい。早実時代の彼はそれができていたのだが、今は足のつま先のみを引きずって腰高になっている。通常、足の甲で地面を押し付ける意味としては、 ① 浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ ② フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える などがある。元々斉藤の持ち味は、低めへのコントロールにあったが、今は高めに抜ける球が増えてきた。その最大の要因は、この腰高のフォームにあると言えよう。 4、前への体重移動が不十分 これは、多くの方が指摘する点で、踏み込んだ足が突っ張ってしまい、前に移ろうとする力を妨げて、体重移動を阻害しているからだ。 そのためどうしても、上半身だけの力に頼った手投げになってしまい、体重がボールに乗って行かない。確かに球威は増しているのだが、手元までの球が伸びてこないのは、この体重移動が上手く行っていないからだ。 彼の将来に暗い陰を落としているのは、フォームの改造を行ったわけでもないのに、これらの動作ができなくなってきていることにある。これは、今の彼のフォームを、修正できる指導者・関係者が周りにいないか、いても口出しができない状況・あるいは本人が聞く耳を持たない可能性を感じずにはいられない。少なくても、彼自身に自分のフォームを修正する能力は、持ち合わせていないことがわかる。 (見逃せない点) 斉藤を見るときに、一つ注意して見て欲しいポイントがある。それは、彼は初戦の内容よりも、その次の登板内容の方が格段によくなると言うこと。 これは、彼が「ハンカチ王子フィーバー」となった高三の夏もそうだった。甲子園の初戦よりも、明らかに人気が高まっていった2回戦以降の方が、球の走りがよくなっているのだ。むしろ彼の場合は、投げれば投げるほど持ち味を発揮するタイプだと言えよう。 先日のプロアマ交流戦よりも、翌日甲子園で行われたオール早慶戦の投球の内容の方が良かったことは、そのことを如実に表している。ぜひ彼の投球を見るときは、初戦だけで判断するのでなく、大学のリーグ戦ならば2回戦・3回戦の投球内容にも注目して頂きたい。 (ハンカチ王子は蘇るのか?) ここまでは、斉藤の成長した部分と損なわれた部分について記してきた。そこで最終学年でのハンカチ王子は、再びその輝きを取り戻せるのか?について最後に考えてみたい。 斉藤の最大の持ち味は、冷静なマウンド捌き・安定した制球力・勝負どころでの抜群の強さにある。これが、誰よりも優れているからこそ、あの甲子園での記憶に残る熱投を演じてきた。彼の高校時代の活躍に、異論を唱えるものはいないだろう。 そこで今後を考える上で、一つ大きなポイントになるのは、いかに自然体を意識できるのかにかかっている。自分の力以上に良く魅せたいと思うと、あの冷静な彼でさえ、フォームに狂いを生じてくる。もう一度原点に戻って、早実時代の彼のフォーム・ピッチングスタイルを見つめ直すことで、彼は充分に輝きを取り戻せるのではないかと私は考える。と言うのは、肉体的な成長は、やはり当時よりも明らかにあり、当時のピッチングを再現するだけで、プロでもローテーション投手として、活躍できるだけの力が備わってきていると考えるからだ。 それを最近の彼のコメントから頻繁に聞こえてくる、「ストレートに、こだわりたい!」といった発言が聞かれるうちは、恐らく彼の持ち味は発揮されないと思うのだ。 またもう一つポイントになるのが、自分がやらなければと言う、責任感の強さである。むしろこれは、任せるところは人に任せると言う仲間への信頼を持てるかで、余計な力みなくなり好い方向にも向かうだろう。それは、自分だけではなく、チームにとっても好い流れを生むことになると、私は信じている。 あの「ハンカチ王子の、最終学年は?」といった昔を知るものからの熱い期待。名門・早稲田大学野球部主将と言う、関係者から受けるプレッシャー。夢であるプロ野球選手になるためにも、スカウトやマスコミからの視線にも、彼は打ち勝たなくては行けない。 しかしそれらは、自分の今できるありのままを魅せる。チームメイトである仲間たち・後輩たちを信頼する。そういったことで、この重圧から解放されるのではないのだろうか。 彼が再び輝きを取り戻せるかどうかは、フォームがどうとか、ストレートがどうとかいったことよりも、精神的に一皮むけて大人になれるかにかかっている。このことにいち早く気がつくことができれば、彼の最終学年は、今までの鬱憤を振り払って余りある「集大成の一年」となるはずだ。そういった成長を確認したければ、試合で捕手・杉山とのやりとりに注目してみるとわかりやすいだろう。 最終学年の斎藤佑樹は、野球人としての可能性を問われているのではなく、人としての器の大きさを問われているのだと言うこと。このことに注目して「ハンカチ王子最終章!」を見届けて頂きたい! (2009年・秋) |
斎藤 佑樹(早稲田大)投手 の成績を考える! | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ハンカチ王子こと、斎藤佑樹が、早稲田大学入学以来、残してきた実績について、今回は考えてみたい。 (成績から考える)
甲子園のハンカチフィーバーを引きずりながら、1年春からリーグ戦に出場。春・秋リーグベストナインを獲得、秋には最優秀防御率も獲得。常勝早稲田において、大学日本一など、その目標となるべき殆どのものを、最初の1年目に成し遂げてしまった。 これでは、自己をしっかり持っているいる彼でさえも、モチベーションを維持するのは難しい。それでも、なんとか誤魔化しながら、2年秋までは実績を積み重ねる。しかし3年になると、明らかに伸び悩み傾向が見られ、野球に対する姿勢も揺らぎはじめる。それが、数字となって明らかに現れたのが、2009年度の斎藤佑樹だった。2010年度、いよいよプロ入りに向けてのラストイヤー。チームの最上級生になり、再び輝きが取り戻せるのか注目される。 1,被安打は、イニング数の70%以下 ○ この条件を満たしたのは、一年春と2年秋のシーズンの2回。特に昨秋は、イニング数以上の被安打を奪われるなど、如何に甘い球を痛打されたか示す数字となっている。しかし注目された今春のリーグ戦では、被安打率は、63.4%と、このファクターをクリアして魅せた。 2,四死球は、イニングの1/3以下 ○ 元々低めへの制球力・投球を組み立てるセンスの良さが自慢の斉藤だけに、このファクターを満たせなかったのは、最悪だった昨秋だけ。それだけにフォームの乱れを修正して、最終学年での投球が注目された今シーズンでは、このファクターもクリアして魅せた。ただ実際の投球を見ていると、逆球が多かったり、勝負どころで甘いところが行くなど、以前の勝負強さは薄れている気がする。 3,奪三振 ÷ イニング数 = 1.0前後 △ 元々、絶対的的な武器になる球があるタイプではなく、速球に多彩な変化球を駆使して、討ち取って行く総合力タイプ。それだけに、三振をバシバシ奪う投球スタイルではない。過去イニング数以上の奪三振を奪えたのは、1年春と3年春の二度。ドラフト上位で指名されるような投手ならば、狙って三振を取らなくても、イニング数前後の三振が奪えるぐらいの、圧倒的なポテンシャルは秘めておいてもらいたいのだが。これを実現にするのは、相当斉藤自身の球の威力が、今まで以上に増さないと難しいかもしれない。ただそれを狙いに行くと、秋のようにバランスを大きく損なう危険性も感じさせる。結局今春のリーグ戦でも、このファクターはクリアできず。今春のリーグ戦を見ていても、その球に凄みが感じられなかったのは、この奪三振数からも証明されている。 4,防御率は、1点台が望ましい ○ プロを狙うのならば、大学リーグで1点台ぐらいの数字は、コンスタントに残して欲しい。更に上位指名を意識するのならば、0点台と言う圧倒的な安定感も望みたい。そういった意味では、過去2度の1点台・2度の0点台を残している斉藤は、充分その能力があると考えられる。ただ、3年生になって、防御率2点台・3点台と内容が悪化しており、持ち前の勝負強さも陰を潜めているのは気になる材料。しかし今春のリーグ戦では、絶対的な防御率0点台とは言わないまでも、1.54と言う数字で、昨年の不調は脱しつつある。 (データからわかること) すべてのファクターを、すでに過去の複数シーズンで満たしていることがわかる。それだけ能力的には、潜在能力があることは実証済みだ。ただ集大成となる最終学年では、すべてのファクターをクリアすることを期待したが、奪三振の部分だけは、満たすことができなかった。やはりシーズン通してみても、ピリッとしない試合も多く、凄みを感じさせるような投球は殆ど見られなかった。上の表を見てもわかるように、すべてのファクターを同時に満たしたのは、実は1年春のシーズンだけである。すなわち1年春が一番よく、こちらの期待ほど成長してこなかったと言う印象は、残念ながら数字の上でも明らかになってきた。 そして何より、1シーズン通して、2勝3敗と言う成績に留まったことが一番の問題だろう。負けてはいけない試合を落とし、チームに勝利に導くことが充分にできなかった今シーズン。これが、何より数字の上からも問題にされるべきことだと考える。残されたシーズンは、あと1シーズン。やっぱりハンカチは凄かったと、誰もが唸らされる投球をあえて期待して、最後のシーズンを締めくくって欲しい! |
<踏み出し> ☆☆☆ 構えた時に、両足を肩幅よりも広めに取り、バランス良く立てている。 そこから、ノーワインドアップで、スッと足を引き上げ軸足に体重を乗せる動作には、彼の投手としてのセンスの良さが伺われる。センスの好い選手と言うのは、打者で言えば構えである「トップ」をピタッと素早く作れる選手であり、投手の場合は、足を引き上げ軸足一本で立つときの姿勢を、スッと作れる選手なのだ。 そのポジションニングを作るまでの、足を引き上げるまでの勢いは悪くないが、大きなエネルギーを捻出するための、足の引き上げる高さ低くなっている。斉藤のフォームが、小さく見えエンジンが小型に見えるのは、この辺の動作にも関係してそうだ。 <軸足への体重の乗せとバランス> ☆☆☆ 足を引き上げた時点で、膝が完全に曲がった姿勢で体重を乗せる、独特のフォームになっている。ただ、この段階で静止しており、軸足の股関節には体重が乗せられている。 また膝から上が、ピンと真上に伸びていないので、膝に余計な力みは感じられない。膝から上がピンと伸びきって余裕がないと 1,フォームに余計な力が入り力みにつながる 2,身体のバランスが前屈みになりやすく、突っ込んだフォームになりやすい 3,軸足(写真右足)の股関節にしっかり体重を乗せ難い などの問題が生じる。ただ、かなり独特のバランスであり、これが好い姿勢なのかどうかは?私にはよくわからない。 <お尻の落としと着地> ☆☆☆ 引き上げた足を、かなりニ塁側に送り込む。更に、その足を空中でピンと伸ばさないまま体重を落とすので、お尻の一塁側への落としは甘くなる。お尻をしっかり落とせない投手は、ブレーキの好いカーブや縦に腕を振るフォークの修得に苦労しやすいことにつながるからだ。 彼は、それでもカーブやフォークを投球に混ぜて来るのだが、その変化に決め手に欠けているのは、このフォームの構造によるところも大きい。 また前に足を逃がし、着地のタイミングは平均的。着地を遅らせる意味としては 1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。 2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。 3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放れる下地になる。 やはり変化球が多彩に投げられる器用さがあるものの、そのどれもが絶対的ではないのは、着地までの粘りが平均的なのも影響しているのではないのだろうか。 <グラブの抱えと軸足の粘り> ☆☆ 高校時代は制球力も良かった斉藤が、現在かなりアバウトなのは、この辺の動作が以前よりも雑になったからだろう。 グラブの抱えも、フォームも最後までしっかり抱えられておらず、後ろに抜けてしまいがちだ。グラブを内に抱える意味としては、外に逃げようとする遠心力を内に抑え込み、左右の軸のブレを防ぐ。すなわち両サイドへの制球は安定しやすいことになるのだ。 斉藤の持ち味は、低めへの制球力の高さにあったが、現在は腰高なフォームになり、球が高めに抜けてしまっている。その要因を作り出しているのは、足の甲でしっかり地面を押し付けられていないからだ。足の甲で地面を押しつける意味としては、 1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ 2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える などの働きがある。今の彼のフォームでは、足のつま先だけが地面を捉えており、エネルギーの伝達。低めへの制球と言う観点でも物足りない。 <球の行方> ☆☆ テイクバックした時に、それほど前の肩と後ろの肩が直線的になっていないのは好いが、着地した時点では、もう打者からボールが見え始めている。すなわち「開き」が早く、ボールの出所が見やすいのだ。これでは、打者がいち早く球種がわかってしまい、幾らストレートを磨いても、その効果には乏しい。 また無理に腕を高い位置から振り下ろそうとして、無理した腕の振りになっている。適正の腕の振りとは、リリースする際に、ボールを持った腕とグラブを持った腕が、できるだけ平行に近い形が望ましい。しかし彼の場合、極端にボールを持っている右肩が上がり、グラブを持っている左肩が下がったフォームになっている。これでは、球質を悪化させるだけでなく、体への負担も大きくなり、故障の原因になりかねない。 また高校時代の斉藤の良さは、その非凡なまでの球の伸びにあった。しかし今は、リリースも以前よりも粘りがなくなり、指先まで力が充分に伝えきれていない。ボールを長く持つ意味としては 1,打者からタイミングが計りにくい 2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる 3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい などがあげられる。 <フィニッシュ> ☆☆ 腕がしっかり振れていないので、投げ終わったあとに腕が体に絡んでこない。更に前足がブロックしてしまい、体重移動を阻害し、ボールに勢いが乗って行かない。 (投球フォームのまとめ) お尻の一塁側への落としが甘いし、その体格からも、手が小さめだろうから、将来的に、今以上の見分けの難しいカーブの習得や縦への落差のある変化は望めないかもしれない。 またグラブの抱えや足の甲への押し付けなど、制球を司る動作も雑になり、以前ほど球筋が安定しなくなった。 投球フォームの4大動作である「着地」「球持ち」「開き」「体重移動」に関しては、「着地」や「球持ち」は平均的。しかし「開き」や「体重移動」には、課題を残すフォームとなっている。 いくら体を鍛錬しても、球の見所が早ければ、ストレートの効果は薄い。また体重移動が不十分ならば、生きた球が打者に届くことはない。このことを無視して、いくら球速UPに取り組んでも、その効果は期待できない。 ストレートに、こだわると言うのは、球威・球速を増すと言う表面的なことだけでなく、その球をより効果的に魅せる術を磨いたり、その球質を向上させたりすることの方が、より重要なのではないのだろうか? そのことも含めて、ストレートにこだわるというのであれば、それは理に適っていると言えるのだが、今の斉藤には、そこまで深い意味でのストレートへのこだわりは感じられない。 このことに気がつくことができるのかが、技術的な観点からみた、彼の成長のポイントになるのではないのだろうか? (2009年・秋) |
斎藤 佑樹(早稲田大)投手 175/75 右/右 (早稲田実業出身) |
(どんな選手?) 言わずと知れた甲子園の優勝投手で、そのハンカチで汗を拭う姿で、世間の注目を一身に浴びたアマ球界一のスター選手。早大進学後も一年生から主戦投手として活躍。リーグのみならず、大学球界を代表する投手として、実績を積み重ねてきている。 (投球スタイル) 中背で淡々と投げ込むピッチングスタイルだけに、一見大人しく物足りなく見えるが、高校時代よりもワンランク・球威・球質を増しているのは間違いない。連投を意識して力はセーブしているものの、それでも上背の無さを感じさせないボールの角度と常時140~145キロ級の速球は、大人の球質だ。 カーブのように曲がりながら落ちるスライダーと縦に割れる二種類のスライダーに、チェンジアップなどを織り交ぜた投球スタイル。両サイドにしっかり投げ分けられる制球力もあり、大きく崩れることが考えにくい安定感がある。 勿論マウンド捌き、試合をまとめる能力は一級品で、投手としての総合力は極めて高い。単なる人気先行の選手ではけしてなく、実力もしっかり兼ね備えた球界の宝だ。 (今後は) 恐らく今すぐでも、プロのローテーションに入って二桁前後の勝ち星は期待出来るだけの投手に育っている。ただ素材としての凄みはなく、彼がプロで15勝級の力があるかと言われると、疑問が残るところだ。ただ爆発力がない分、安定感はあり、毎年確実に計算出来る投手になるのではないのだろうか。 残り2年の目標は、この器を更に広げ、プロで15勝以上勝てるような絶対的な投手への成長を期待してみたい。斉藤から何か凄みみたいなものが感じられた時、まさに松坂大輔のような世代を牽引する存在になっているだろう。 (2008年・神宮大会) |
斎藤 佑樹(早稲田大)投手 176/70 右/右 (早稲田実業出身) |
ご存じ「ハンカチ王子」と異名を取る、アマチュア球界の至宝。07年度の早稲田の開幕戦投手は、この1年生の抜擢だった。その期待に応えて東大戦で初勝利。続く強豪・法大戦でも勝利をあげるなど、すでに六大学の一線級でも戦える技量を兼ね備えている。また昨日の立教戦でもリリーフでの登板でチームの危機を助けるなど、経験の浅い投手陣の中では、最も頼りになる存在になりつつある。 投球内容は、常時130キロ台後半~140キロ台中盤ぐらい。それほど際だつ球はなかったが、低めへの球の伸びはさすが。特にチェンジアップのようなタイミングが狂わせられるようなスライダーは大変有効。その他にもカーブ・フォークなどを織り交ぜる。 制球力・マウンド捌きは一級品。あとはもう少し迫力みたいな威圧感が出てくると申し分ないだろう。変な意味で、六大学のレベルに染まって欲しくはなく、更に上を常に目指して欲しい。これから「ハンカチ王子伝説!」第二章の幕開けだ! (2007年・春季リーグ) |
斎藤 佑樹(東京・早稲田実)投手 176/70 右/右 |
「平成の桑田真澄」 2006年度・夏の甲子園の主役は、この男の熱闘ぶりだったと言えよう。もし甲子園に大会MVPと言うものが存在するのならば、彼にあげる者に異論を唱えるものはいないだろう。それほど彼の投球は、高校野球ファンを超越し、一般大衆の心にも響くものがあった。 そんな周りのヒートアップをよそに、プロ野球のスカウト達からは、彼の指名について、具体的な話は出てこない。あまりの温度差に、多くの人達が疑問を投げかける。そこで今回は、迷スカウト歴20年を誇る・蔵建て男が、球団スカウト達に変わりに、斉藤佑樹 の可能性について考察してみたい。 そこで引き合いに出したい男は、桑田真澄。斉藤佑樹よりも更に上背のない174センチながら、実際のドラフト会議では1位指名され、プロ野球でも通算170勝以上をあげている桑田真澄(PL学園-巨人)投手との比較をしながら、考えてみたいと思う。 (投球スタイル) やや身体を丸めながら投げ込む独特のフォームから、常時140キロ台・MAXでは150キロ近い球速を投げ込んで来る。実は選抜大会でもそれほど話題にはならなかったが、すでに斉藤は140キロ台中盤の速球を連発していた。今大会もそうなのだが、この選手は大会緒戦よりも二戦目以降の方が、見違える程の投球をするのである。変化球は、120キロ台と110キロ台の二種類のスライダー、更にカーブ・それにフォークなどを織り交ぜて来る。 しかしそういった一つ一つの球以上に、この投手の素晴らしいのは、ピンチになればなるほど、相手が強打者になればなるほど、好い球が行くと言う天性の好投手なのだ。安定した制球力・超高校級の球の威力・マウンドでメリハリの効いた投球術・どんな状況にも憶することなく、自分の最高の力を発揮する静かで熱いハートの持ち主。甲子園で、これだけ冷静かつ大胆なピッチングを披露したのは、まさに桑田真澄や松坂大輔以来だろう。 <右打者に対して> ☆☆☆☆ 右打者のアウトコース高めのゾーンに速球・アウトコース真ん中近辺の高さに横滑りするスライダーを集めて投球を組み立てて来る。その一方で、インハイボールゾーン(大阪桐蔭・中田翔を仕留めたあのコース)に、速球を魅せつけることも多い。また追い込むと、フォークボールなどで空振りを誘うことも多い。右打者には、速球とスライダーとのコンビネーションが中心となる。 確かに高校生としては、A級の制球力の持ち主なのだが、一球一球調べてみると、意外に甘いゾーンにボールが入っていったり、フォークが落ちずにすっぽ抜けていることも少なくない。ただこういった球は、プロの打者ならば見逃してくれないだけに更なる精度向上を求めたい。 <左打者に対して> ☆☆☆☆ 左打者に対しては、アウトコース真ん中~高めのゾーンに速球を集めるのが投球の柱。そこにスライダーやカーブなどを織り交ぜて来ることもあるが、投球の多くは速球で構成されている。追い込むとフォークボールで仕留めるケースが多く、基本的には速球とフォークのコンビネーションが中心となる。 右打者ほど、真ん中近辺の甘い球は少ない印象だ。それでも想像ほどは、ピンポイントに球を両コーナーに投げ分けているわけではなく、むしろ球の威力や球速差などの変化で相手を圧倒しているタイプだと言えよう。そういった意味では、高校時代の松坂大輔にも似ている。 (投球のまとめ) 昨秋あたりと比べても、ワンランク・制球力・球威・球速等の成長を感じさせる。ただ根本的に、さほどコンビネーションなど、投球内容には大きな変化は感じない。むしろ球の威力が向上したことで、今の安定感を身につけたのだろう。高校時代の桑田真澄は、140キロ台を記録していたもののカーブピッチャーで、非常に緩急が効いていた印象だ。試合をまとめるセンス・制球力などには甲乙つけがたいが、こと速球の球威・球速と言う観点では、今の斉藤の方が、一枚上だったのではないのだろうか。 (投球フォーム) 今度は何処かこじんまりし、スケール感を感じさせない斉藤の投球フォーム。実際にプロを意識した場合、このフォームはどうなのだろうか。もしプロスカウト達が彼に疑問を持つ部分があるとするならば、現在の投球内容よりも、技術的な部分や今後の伸びしろに疑問を持っているからではないのだろうか。今度は、その辺について少し考えてみたい。 <踏みだし> ☆☆☆ まず写真1は、斉藤投手が構えた時のものである。まずは両足の足元に注目して欲しい。足の横幅をしっかり取ってバランス好く立てている。この時の構えの良さが、その後の投球フォームに与える影響は大きい。 ただし写真2の段階では、通常軸足(写真左足)は真っ直ぐ伸びて立っているのだが、この投手は常に足を曲げた状態になっている。これは、斉藤投手独特のフォームで、昨秋まではこのようなフォームではなかった。足を引き上げる勢いや高さと言う観点では、実に物足りなく、彼のスケールを小さく魅せる一つの要因となっているのだろう。 写真1 写真2 <軸足への乗せとバランス> ☆☆☆ 写真2のような、斉藤投手独特のフォームの効果は、他にサンプルが少ないので私自身よくわからない。しかし軸足の膝に余裕を持たせることで、余計な力みをなくしている可能性も高い。また一見体重が乗っていないようにも見えなくもないのだが、よ~く見るとジワーと軸足の股関節にエネルギーを貯め込んでいるようにも見える。斉藤投手のような175センチ前後の投手が、150キロ近い破格な球速を連発出来るには、実は写真2の独特の形が大きな意味を持っているのかもしれない。ただしこれはあくまでも想像の域でしかない。 <お尻の落としと着地> ☆☆☆ 足をそれほど空中でピンと伸ばす動作はないのだが、写真3を見ると、お尻の一塁側への落としは悪くない。お尻を一塁側に落とす意味としては 身体をしっかり捻り出すスペースを確保して、ブレーキの好いカーブや縦に落とす変化球を投げるための充分なスペースと時間を確保する意味がある。 そういった意味では、彼のフォームは悪くないのだろう。写真4までの着地のタイミングなどを見ていると、足の逃がし方・降ろすタイミングなどは、並程度であると言えよう。投球フォームで最も重要な「着地」を遅らせる意味としては 1,打者が「イチ・ニ~の・サン」のリズムになりタイミングが取りにくいからだ。「ニ~の」の粘りこそが、投球動作の核となる。 2,軸足(写真後ろ足)~踏み込み足(前足)への体重移動が可能になる。 3,身体を捻り出すための時間が確保出来るので、ある程度の変化球を放られる下地になる。 写真3 写真4 <球の行方> ☆☆☆ まずは、写真5と6のグラブの位置に注目して欲しい。写真6では、それほど身体から離れた位置にはないが、身体にしっかり抱え込まれていないことがわかる。グラブを内にしっかり抱える意味としては 外に逃げようとする遠心力を、グラブをしっかり抱えることで内に抑え込む働きがあるのだ。これにより体軸が左右にブレるのを防ぎ、両サイドの制球力は安定しやすくなる。 彼の場合、グラブの抱えがやや甘い部分があり、その辺が少々細かいコントロールミスをしている要因だと言えよう。 次に写真5の右足のスパイクに注目して欲しい。足の甲でしっかり地面を押し付けているのがわかる。ただ実際のところ、足の甲で押し付けている時間は極めて少ない。足の甲で地面を押し付ける意味としては 1,浮き上がろうとする上体の力を押さえ込み、球が浮き上がるのを防ぐ 2,フォーム前半で作り出したエネルギーを、後の動作に伝える 写真5 写真6 <球の行方> ☆☆☆☆ 写真7では、グラブを持っている腕が、ボールを持っている腕を隠すことが出来て悪くない。ただ写真8の着地の場面では、ボールを持っている腕が、打者から見え始めようとしている。このことからも、この投手の球の出所は、並程度だと考えて良さそうだ。幾ら速い球を投げようとも、身体の開きの速い投手の球は、プロは充分に対応して来るだろう。 写真8では、肘が前の肩と後ろの肩を結ぶラインよりも高い位置にあり悪くない。写真9を見る限り、腕を振りおろす角度も悪くないだろう。彼の素晴らしいのは、写真9のリリースにある。これが実に長くボールを持ち、前でボールを離しているのだ。彼の投球フォームで非凡な部分を探すとすれば、まさに「球持ちの長さ」にある。これは「着地」と共に、最も投球動作の中でも大切な動作だと言え、球を長く持つ意味としては 1,打者からタイミングが計りにくい 2,指先まで力を伝えることでボールにバックスピンをかけ、打者の手元まで伸びのある球を投げられる 3,指先まで力を伝えることで、微妙な制球力がつきやすい などの働きがある。斉藤は、恐らく06年度の高校生の中でも、球持ちは屈指の存在なのではないのだろうか。 写真7 写真8 写真9 <フィニッシュ> ☆☆☆ 写真10は、斉藤投手のフィニッシュの場面である。これだけ腕の角度が好く、球持ちの好い彼が、あまり投げ終わった後に、腕が身体に絡んでこないのがわかる。これは投手に重要な手足の長さが、斉藤投手の体型では持ち合わせていないからではないのか。地面の蹴り上げ・投げ終わった後のバランスなども悪くはないが、けしてフォームの最後まで充分に、エネルギーが捻出出来ているかどうかは疑問が残るところだろう。 写真10 (投球フォームのまとめ) こうやってみると、斉藤投手のフォームは、かなり独特で癖のあるフォームなのがわかる。またプロと言う観点で見た場合には、「球持ちの長さ」と言う点を除けば、けして突出した技術の持ち主ではないことがわかる。現時点の完成度の低さを、今後の伸びしろと考えるのか、土台の悪さと考えるかは意見の別れるところだ。個人的な意見で言わしてもらえれば、後者の方だと捉えたい。 (最後に) さて斉藤投手の評価が、プロ側からあまり上がってこないのは何故か?ここまで考察した中でわかることは、プロレベルで考えた場合に、図抜けて制球力が好いわけでもなければ、プロで武器になる程の圧倒的なものがあるかは、正直疑問が残るからだろう。 またフォーム技術が不充分なだけでなく、かなり癖のあるところも評価も別れるところだ。むしろ上背があるないと言う問題よりも、この独特のフォームをどう見るのかの方が私は問題だと思う。もしサイズ的なことがネックならば、桑田はもっと大きなネックとなっていたし、斉藤は170センチ台中盤と言うことで、悲観するほど小さくないからだ。 それでは何故桑田は評価されたのか?元々この時代のスカウティングは、甲子園での活躍が素直にドラフトの順位にも現れやすかった背景がある。荒木にしろ水野にしろ、あの桑田もそうだ。ただその後の桑田の活躍を見る限り、ドラフト1位の評価に誤りはなかった。その要因として、桑田の投球フォームとは、まさにお手本としたい程、実に素晴らしい土台をしていたのだ。これは癖のある斉藤投手のフォームとは対象的で、一見完成度が高く見えた桑田には、実はまだまだ伸びると言う確信を、スカウトにはさせてくれるだけの素材だったのである。 ここで斉藤投手を評価するのであれば、素材的な奥行き・今後の成長などの不安要素はあるものの、プロに混ぜてみたいと思わせる投手ではある。球の威力・天性の野球センス・精神面の強さなどなど、まさに投手をするために生まれてきたような男だからだ。こちらの想像以上に、ワンランクもツーランクもまだ伸びるかもしれない。しかしだ、早稲田の附属校で、これだけの実績を残した彼を、大学野球の雄・早大野球部が放っておくはずがない。もし斉藤投手について面白いと感じるスカウトがいたとしても、早大野球部や早実関係者を納得させる程の評価(恐らくドラフト1位でなければ納得しないだろう)を、用意出来る程の球団があるのだろうか。そういった観点みれば、通常ならば下位指名なら指名してみようかなと思わせる素材でも、彼の場合はあえて指名を見送り、大学球界での活躍を確認したり、更なる成長を待ってからでも遅くはないと言う判断になる可能性は極めて高い。すなわちドラフトにかかる力があると判断されても、実際には指名を回避される可能性が極めて高い素材なのだ。あえて私は彼を、現時点でプロに入る力はあると評価したいと思う。しかしあくまでも下位指名ならば面白いと言う範疇は脱しられなかった。 しかしながら、もし斉藤佑樹に桑田真澄ほどの野球への愛情と探求心があるのであれば、彼に勝るとも劣らない投手になれるかもしれない。少なくても昨年からの成長を観る限り、この男にはその資格はあると私は考える! 蔵の評価:☆☆ (中位指名級) (2006年 8月20日更新) |
斎藤 佑樹(東京・早稲田実)投手 176/70 右/右 |
すでに2年秋の時点で、コンスタントに常時140キロ前後(MAX143キロ)すると言う、一昔前では、中々こういった球速の投手は稀で、球速だけならば、世代のトップクラスを誇る本格派だ。ただこの投手、フォームや体つきに威圧感がなく、指のかかり具合にもバラツキがあり、その球速ほど球が速く見えない投手である。特にスッと何気なく甘いところに入って来る時はドキッとする。もう少し大人の球質に変貌してくるとグッと楽しみな投手に変わって来るだろう。 (投球スタイル) オーソドックスなフォームから繰り出す速球は、130キロ台後半~MAX143キロ。カーブ・フォーク・スライダーとオーソドックスな持ち球の投手。 <右打者に対して> ☆☆☆ 両サイドへの制球確かも、右打者に狙い打ちされる! 右打者に対しては、速球やカーブ中心に組み立てて来る。アウトコース真ん中~高めとインハイに速球を集める。カーブは、緩急・カウントを稼ぐ意味で使われるのだが、特にどこそこに決められると言った制球力はない。気になるのは、アウトコースへの速球は、それほど甘くないのに簡単に右打者には痛打されてしまうところだ。 考えられる要因としては、開きが早いフォームで右打者からは球が見やすい点。またフォームに嫌らしさや球に球威などがさほどないので、甘くない球でも簡単に打たれてしまう傾向が強い。もう少し左打者同様に、高低への配球も意識出来れば、左右の投げ別けがしっかり出来るので、右打者への投球にも改善が期待出来そうだ。 <左打者に対して> ☆☆☆ 高低を活かしたコンビネーション! 左打者には、インハイ・アウトハイに速球を投げ別けが出来ている。ただ右打者以上に球が高めに浮く傾向は強く、やや制球力もアバウトになる。それでも左打者からは、ほとんど打たれなかったのは偶然ではないのだろう。それは落差のあるフォークを多投することで、高低の変化を上手く活かすことが出来ていたからだ。速球は高め、フォークを地面に、この大きな落差が、左打者の痛打を浴びせられない大きな要因となっている。もう少しカーブを上手く織り交ぜられれば、高校生レベルでは充分な配球が期待出来そうだ。 (投球フォーム) <踏みだし> ☆☆☆☆ 自分から躍動感を作り出すのは好いが、消耗の激しいフォーム! 構えた時のスタンスの幅は適度に取れバランスが取れている。足を後ろにしっかり引くことはないので、自らの力で反動を付けないと強く投げ込めないのは残念。これによりフォームのブレとスタミナのロスが激しくなりやすい。自らエネルギーを強く捻出することで、足を引きあげる勢い、その高さは生み出すことが出来ている。 <軸足への乗せとバランス> ☆☆☆ もう少しバランス好く立てれば・・・ 軸足の膝は適度に余裕がある。しかし軸足一本で立った時のバランス。軸足への乗せは並程度で、それほど余裕がないように思える。もう少しバランス好く立てると、もっと投球フォーム全体に好い流れを生みそうだ。 <お尻の落としと着地> ☆☆☆ 着地までの粘りが・・・ お尻の一塁側の落としは悪くない。その証しに、彼のフォークは中々の落差を誇る。しかし残念なのは、着地まで粘りなく着地してしまうので、打者からはあっさりとタイミングがあわせられやすい。もう少し踏み出す足の着地を遅らせる意識を持ちたいものである。 <グラブの抱えと軸足の粘り> ☆☆☆ グラブも足の押し付けも甘い。 グラブを身体の近くに添えて回転は出来ているのだが、最後少し身体から離れ気味である。また足の甲で地面を押し付けられているのだが、その深さ・時間がまだまだ甘い。全体的にバランスの好いフォームをしているので、この辺がもっとしっかり出来ると制球力も更に増しそうだ。 <球の行方> ☆☆☆ 開き速さを如何に改善して行けるか グラブを上手く引きあげ、球を長く隠すことは出来ている。しかし着地の早さが身体の開きの速さを導き、結局は球の出所がいち早くわかってしまうフォームだ。腕の角度・球持ちに関しては悪くない。ただまだまだリリースが安定せず、その球筋には大きなバラツキが感じられる。 <フィニッシュ> ☆☆☆ 最後に物足りなさを感じる 腕をしっかり縦に振り下ろせるので身体に絡んで来るのだが、元々あまり腕の長い体型ではないのだろう、思った程ではない。地面の蹴り上げも並で、もっと強く地面が蹴り上げられるようになると、メリハリのないフォームにも躍動感が感じられるフォームになってくるのだろうか。投げ終わった後のバランスは悪くなかった。 (最後に) あまり見ていて、これは!と言う物は感じられない。しかし高校生としては、マウンド捌き・制球力・球速などのレベルはA級だ。ただフォームにメリハリがなく、面白みに欠ける。威圧感・凄みなどを感じないのも、その辺に課題があるからだろう。 ただ今年の大学球界屈指の好投手・高市(帝京-青学大)などの投手も、こんなタイプだが、その分独特の配球で、その特性を活かしている。高校時代の高市あたりと比べると、ワンランクは上であるように思える。開きの早いフォーム・球質の物足りなさなどを感じさせる部分はあるが、その辺も一冬越えれば改善も期待出来る。選抜では、ぜひその成長した姿に注目してもらいたい一人である。 (2006年 1月29日更新) |
《この日の投球内容》 終盤に失点を重ね逆転負けを喫したが、8回完投で10三振を奪うなど実力の片鱗は十分に披露。コンスタントに140㌔台をマークする速球に変化球を交え、打たれながらも粘り強いピッチングを続けていた。 《球種とスピード》 ストレート Avg138㌔ぐらい MAX143㌔ カーブ スライダー 変化球のスピードは忘れてしまいました…(^^;ストレートは昨年観た山口(柳ヶ浦)あたりと、Avg、MAXとも数字的にはほぼ互角。ドラフト候補として実際にマークされて然るべきスピードを備えている。変化球のキレもなかなか良く、両コーナーを突くコントロールもそれなりに持ち合わせている。 《投手スタイル》 スピード、変化球、コントロールのいずれも水準以上で、フォームも癖のないしなやかなフォームをしている。好投手であることは間違いない。と!一見難攻不落の存在のようにも思えてしまうが、気になるのが威圧感・スケール感がやや欠ける点か…。それなりのボールをある程度コースにも散らせるのだが、全国レベルの強打を誇るチーム相手だと逆にそれが的の絞りやすさに繋がりはしないか!?というのは、この日の駒苫打線との対決を観ていて感じたこと。フォームで威圧感を与えるタイプではなさそうなので、あとは投球のなかでどれだけ相手に嫌らしさを与えるか!?投手としてのタイプ的には大谷(報徳学園-早稲田大)の高校時にちょっと似ているかもしれない。 (2005年 11月27日 DINAMO-JIN 様) |